はじめに
福祉・介護職員等処遇改善加算を取得・維持するためには、賃金改善やキャリアパス要件に加え、「職場環境等要件」への対応が必要です。
職場環境等要件とは、職員の採用・育成、働きやすい環境づくり、業務負担の軽減などに関する取組です。令和6年6月の加算一本化を経て、令和8年度は、生産性向上や協働化に取り組む事業者への上乗せ区分などが設けられています。
計画書を作成する際、「どの項目にチェックを入れればよいのか」「今ある研修記録や会議録で確認できるのか」と迷うこともあるのではないでしょうか。
まずは、事業所ですでに行っている取組を、国の通知にある項目と照らし合わせることから始めます。その上で、不足する取組と、実施状況を確認できる資料を整理していきます。
本記事では、障がい福祉・児童福祉事業所を対象に、6区分の取組例、加算区分ごとの要件、記録の残し方を解説します。
1.職場環境等要件は6区分に分かれている

職場環境等要件は、国の基本通知の別紙1表3(18ページ目)に示された28項目で構成され、次の6区分に分かれています。
| 区分 | 取組の方向性 |
| 入職促進に向けた取組 | 採用の仕組みづくり、職業体験の受入れなど |
| 資質の向上やキャリアアップに向けた支援 | 専門研修の受講支援、定期的なキャリア面談など |
| 両立支援・多様な働き方の推進 | 育児・介護と仕事の両立、有給休暇を取得しやすい環境づくりなど |
| 腰痛を含む心身の健康管理 | 職員相談窓口、健康管理対策、腰痛対策など |
| やりがい・働きがいの醸成 | 職員の気づきを生かした改善、支援の好事例の共有など |
| 生産性向上のための取組 | 現場の課題整理、業務手順や記録様式の見直し、ICTの活用など |
すべてを一から組み立てる必要はありません。
厚生労働省・こども家庭庁「福祉・介護職員等処遇改善加算に関するQ&A(第1版)」問7-1(令和8年4月9日)(21ページ目)では、前年度から継続して算定する場合、従前の取組を継続していればよく、毎年新たな取組を行う必要まではないとされています。
また、問7-2では、1つの項目内に複数の取組が列挙されている場合、そのうち1つ以上を満たせばよいとされています。毎年新しい制度を増やすよりも、現在の取組が該当項目の内容を満たしているかを確認することが大切です。
2.算定する加算区分に合わせて必要項目数を確認する
必要な取組数は、算定する加算区分によって異なります。令和8年6月以降の基本的な要件は、次のとおりです。
| 加算区分 | 生産性向上以外の5区分 | 生産性向上の区分 | 取組内容の公表 |
| Ⅰイ・Ⅰロ・Ⅱイ・Ⅱロ | 各区分2項目以上 | 3項目以上。⑱「現場の課題の見える化」が必須 | 必要 |
| Ⅲ・Ⅳ | 各区分1項目以上 | 2項目以上。さらに6区分全体で8項目以上 | 職場環境等要件としては求められていない |
「全体で14項目以上」は、Ⅰイ・Ⅱイなどを算定するすべての事業所に一律に求められる条件ではありません。キャリアパス要件Ⅳの年額賃金要件に代えて、職場環境等要件全体から14項目以上の取組を実施する場合の基準です。
また、Ⅰロ・Ⅱロでは、通常の職場環境等要件に加えて「令和8年度特例要件」が必要です。生産性向上の5項目以上への取組(⑱・㉑は必須)、または社会福祉連携推進法人への所属に加え、所定の月額賃金改善要件を確認します。
小規模事業者には、生産性向上について㉔の取組で要件を満たす取扱いもあります。通常の職場環境等要件と、Ⅰロ・Ⅱロの特例要件を分けて確認することが必要です。
なお、令和8年6月に加算が新設された相談支援サービスには別の算定要件があるため、上の表をそのまま当てはめず、該当する通知・様式を確認します。
3.今ある取組と資料を6区分に整理する

計画書の項目を選ぶ際は、就業規則、研修記録、会議録、勤務表など、手元の資料を並べてみます。
次の表は、取組と資料を対応させるための整理例です。運営指導で一律に提出する書類の一覧ではありません。
| 区分 | 具体的な取組例 | 実施状況を確認できる資料の例 |
| 入職促進 | 経験や資格にこだわらない採用の仕組みを設ける | 求人票、採用方針、採用実績 |
| 資質向上 | 強度行動障害支援者養成研修などの受講を支援する | 研修案内、受講記録、費用負担の記録、勤務調整の記録 |
| 両立支援 | 有給休暇の取得目標を設け、取得状況を定期的に確認する | 取得目標、休暇管理簿、職員への案内 |
| 健康管理 | 腰痛対策の研修や職員相談窓口の整備を行う | 研修資料、参加記録、相談窓口の周知文書 |
| やりがい | 職員の気づきを会議で共有し、支援や勤務環境を改善する | 会議録、改善内容、職員への共有記録 |
| 生産性向上 | 記録の重複や転記作業を洗い出し、様式や手順を見直す | 課題一覧、見直し前後の様式、業務手順書 |
ここで注意したいのは、資料があることと、選択した項目を満たしていることは同じではないという点です。
例えば、「やりがい・働きがいの醸成」で職員の気づきを生かした改善を選んだ場合、会議を開催した記録に加え、どのような意見が出て、何を改善したのかが分かると説明しやすくなります。
業務マニュアルの整備についても、内容によっては「生産性向上」に該当します。取組名だけで分類せず、別紙1表3の項目本文と照らし合わせます。
4.「現場の課題の見える化」と「取組内容の公表」を分けて考える
職場環境等要件では、意味の異なる2つの「見える化」が出てきます。
1つは、生産性向上の⑱にある「現場の課題の見える化」(P18)です。記録作成に時間がかかる、同じ内容を複数の帳票へ転記している、職員によって手順が異なるなど、現場の課題を整理する取組です。
例えば、職員会議で困っている作業を出し合い、次のように記録します。
- 課題:提供記録と請求資料への転記が重複している
- 対応:記録様式と入力手順を見直す
- 担当・期限:管理者が○月末までに試行する
- 確認結果:転記の回数や確認漏れが減ったかを点検する
もう1つは、Ⅰイ・Ⅰロ・Ⅱイ・Ⅱロで求められる、取組内容の外部への公表です。障害福祉サービス等情報公表制度や事業所のホームページなどを活用します。
課題を整理した会議録を保管することと、取組内容を外部に公表することは、それぞれ別に対応します。
公表文も「研修支援を実施しています」だけで終わらせず、「専門研修の受講に合わせて勤務シフトを調整し、受講料を法人が負担しています」など、実際の内容が伝わる形に整えます。
5.誓約した取組は期限までの進捗を確認する

令和8年度には、一定の条件の下で、令和9年3月末までに取組を行うことを計画書で誓約し、申請時点から要件を満たすものとして扱う仕組みがあります。
ただし、すべての事業所が、すべての取組を一律に年度末まで先送りできるわけではありません。職場環境等要件全体の整備に関する誓約と、加算Ⅲ・Ⅳの「全体で8項目以上」に関する誓約では、適用条件が異なります。
誓約を利用した場合は、計画書の控えから未実施の項目を抜き出し、「取組内容・担当者・実施期限・残す資料」を一覧にしておきます。
例えば、12月に進捗を確認し、2月に未完了の項目を点検するなど、年度末より前に確認日を設ける方法があります。これらは法定の点検日ではなく、事業所内で管理するための例です。
実施後は、記録を整理し、実績報告書の記載につなげます。
6.資料は計画書の項目と対応させて保管する
記録を残していても、計画書のどの項目に対応する資料か分からなければ、実績報告や運営指導の際に探す時間がかかります。
計画書で選択した項目番号と、実施内容、資料の保存場所を対応させておくと確認しやすくなります。
例えば、「項目⑤・専門研修の受講支援・研修フォルダ」「項目㉕・職員の気づきを生かした改善・職員会議録」(18ページ)などの一覧を作ります。紙の資料でも電子データでも、担当者以外が探せる状態にしておくことが大切です。
保存期間は、加算関係の通知だけでなく、資料ごとに適用される基準条例や労働関係法令なども確認します。すべての根拠資料を「2年間で廃棄できる」と考えず、指定権者の取扱いも踏まえて保管ルールを決めます。
職員の健康情報や面談記録などは、閲覧できる担当者を限定して管理します。
まとめ
職場環境等要件への対応は、事業所で行っている取組を整理することから始められます。
確認する順番は、次のとおりです。
- 算定する加算区分の必要項目数を確認する
- 今ある取組を別紙1表3(18ページ)の項目と照らし合わせる
- 不足する取組の担当者と期限を決める
- 実施状況を確認できる資料を残す
- 必要な公表と実績報告につなげる
計画書で選んだ項目、現場で行った取組、保管する資料をつなげて管理することが基本です。まずは計画書の控えと手元の記録を並べ、実施済みの取組と、これから対応する取組を確認してみてはいかがでしょうか。
(参考資料)
- 「福祉・介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」(令和8年度分・令和8年3月31日)(厚生労働省・こども家庭庁)
3(1)⑤・⑦・⑧(P6~8)、別紙1表3(P18)等を参照。 - 「福祉・介護職員等処遇改善加算に関するQ&A(第1版)」(令和8年4月9日)(厚生労働省・こども家庭庁)
問7-1・問7-2・問7-4(21ページ)、問8-1(23ページ)等を参照。 - 「令和8年度福祉・介護職員等処遇改善加算」(大阪府)
計画書・記入例、関連通知等を掲載。