はじめに
福祉・介護職員等処遇改善加算について、「要件が複雑そう」「計画書や実績報告の作成が大変そう」「取得後の運営指導が心配」と感じている事業所もあるのではないでしょうか。
厚生労働省の調査でも、加算を取得していない理由として「事務作業が煩雑」「届出事務を行える職員がいない」など、事務負担に関する回答が上位に挙がっています。
一方、令和7年7月時点の調査では、障害福祉サービス等の対象事業所の約9割(89.9%)が加算を取得しています。取得には、キャリアパスの整備、研修、職場環境の改善、計画的な賃金改善など、事業所で取り組むべきことがあります。その取組を進め、加算を職員の賃金改善に充てることは、人材の確保や定着を考えるうえでも大切です。
現在算定していない事業所も、まずは「自事業所では、どの要件を満たしているか」を確認してみてください。取得後の運営指導についても、日頃から確認する項目を決めておけば、必要以上に構えることはありません。
確認の軸は、次の「3つの一致」です。
- 計画書と実際の運用が一致しているか
- 計画書と実際の給与(支給額)が一致しているか
- 実施した取組と、その記録が一致しているか
この記事では、未算定の事業所が取得を検討する際の確認点と、算定後に運営指導で慌てないための管理方法を整理します。
1.未算定の事業所は「今ある仕組み」と要件を照らし合わせる

処遇改善加算を検討する際、「新しい制度を一から作らなければならない」と考えるかもしれません。しかし、すでに行っている取組が要件に当てはまる場合もあります。
まずは、現在の取組や社内ルールが、加算のどの要件に該当するかを確認します。
例えば、次の項目を確認してみてください。
- 就業規則や賃金規程を作成し、職員に周知しているか
- 内部研修や外部研修の受講機会を毎年設けているか
- 勤続年数、資格、評価に応じた昇給の仕組みがあるか
- 業務改善や健康管理など、職場環境を改善する取組を行っているか
すでにこうした仕組みがある場合は、普段の取組を整理して処遇改善計画書に反映することで、キャリアパス要件や職場環境等要件を満たせる可能性があります。
処遇改善加算は、4月に手続きをしなければ、その年度は算定できないわけではありません。指定権者が定める提出期限に沿って手続きを行えば、年度の途中から算定を始めることもできます。例えば、吹田市では令和8年6月以降に新たに算定する場合、算定開始月の前々月末日を計画書の提出期限としています。まずは自事業所の体制を確認し、指定権者の提出期限も調べておきましょう。
2.算定後に確認したい「3つの一致」
加算を取得した後は、計画書に記載した内容が日々の運営や賃金の支給に反映されているかを確認します。運営指導でも、計画と実際の取組にずれがないかが確認点になります。
確認する際の軸は、先ほど挙げた「3つの一致」です。
① 計画書と実際の運用の一致
処遇改善計画書に書いた取組を、実際に行っているかを確認します。例えば、「年間研修計画に基づく研修」「資格取得の支援」「職場環境等要件(6区分)の取組」を選択・記載しているなら、現場でもその内容に沿って実施する必要があります。
気を付けたいのは、書類には制度が書かれていても、実際には行っていないケースです。
- 年間研修計画を作ったものの、研修を一度も開催していない
- 賃金規程には昇給制度があるが、実際の昇給方法と異なる
- 計画書で選択した職場環境改善の取組を、現場の職員が知らない
運営指導の直前にまとめて確認するのではなく、年に1~2回、計画書を開いて「記載した取組が実施できているか」を確かめておきましょう。令和8年度の新制度で、申請時点では未整備の要件について「令和9年3月末までに整備・実施する」と誓約している場合は、期限までの進捗も確認が必要です。
② 計画書と実際の給与の一致
次に、受給した加算額と実際の賃金改善額を照合します。処遇改善加算では、受給した加算の総額以上を、職員の賃金改善に充てる必要があります。
把握しておきたいのは、「処遇改善分として、いつ、誰に、いくら支給したか」です。賃金改善の方法には、基本給の引上げ、毎月の処遇改善手当などの新設・増額、一時金(賞与)での支給があります。
実績報告の時期になってから12か月分の給与台帳をさかのぼり、「どの手当が処遇改善分か」「この昇給を改善実績に含めてよいか」を計算し直すのは負担になります。毎月、または3か月ごとに、加算による支給額を表計算ソフトなどで集計しておけば、実績報告時に確認しやすくなります。加算受給額と賃金改善額の不足や計算漏れにも早めに気付けます。
③ 実施した取組と記録の一致
研修や職場環境改善を行っていても、その内容を示す記録がなければ、運営指導で実施状況を確認してもらうことが難しくなります。
ただし、加算のためだけに複雑な書類を大量に作る必要はありません。普段の運営で作成している記録を、取組ごとに整理して保管します。
例えば、次の資料を確認してみてください。
- 研修の実施:年間研修計画書、研修資料、参加者の署名簿、実施記録
- 職員への周知:職員会議の議事録、社内の周知文書、配布資料、メールの履歴
- 職場環境改善:導入したICT機器や介護ロボットの領収書、5S活動(整理・整頓)の記録、面談記録
計画書に書いた取組ごとに、「実施したことをどの資料で確認できるか」を結び付けておくと、後から探しやすくなります。
3.根拠書類は保存期間を確認して保管する

提出した計画書や実績報告書の控え、就業規則、賃金規程、給与台帳、研修記録など、加算の根拠となる資料は保管しておく必要があります。
厚生労働省の事務処理手順等では、根拠資料の保存期間は「2年間」とされています。一方、障害福祉サービス事業所の指定更新は6年ごとであり、運営指導で過去の運用を確認する場面も考えられます。実務上は、他の障害福祉関係書類と合わせて「5年間保存」のルールで統一し、同じファイルやフォルダで管理しておくと確認しやすくなります。
4.運営指導前に並べたい「5つの資料」

運営指導の通知が届いてから、書類を一から作り直すのは大変です。まずは、事業所にある次の5つの資料を並べ、内容がつながっているか、矛盾がないかを確認してみてください。
| 確認する資料 | 主な確認内容 |
|---|---|
| 1.処遇改善計画書(控え) | 現在算定している加算区分や、選択した取組内容(誓約事項を含む) |
| 2.給与台帳・賞与支給明細 | 加算受給額以上の賃金改善が行われているか、毎月の支給額等 |
| 3.就業規則・賃金規程 | キャリアパス要件(任用要件、研修、昇給の仕組み)と実際の支給ルールの整合性 |
| 4.研修・職場環境改善の記録 | 計画書に記載した研修や職場環境等要件(6区分)の取組実績 |
| 5.職員会議録・周知資料 | 計画書の内容や賃金改善の方法が職員に周知されているか |
新しい資料を一から作る前に、すでにある資料を並べて整合性を確かめることが、準備の負担を抑える近道です。
まとめ
処遇改善加算については、取得前と取得後で確認することが異なります。
まだ算定していない事業所は、まず「自事業所がどこまで要件を満たしているか」を確かめましょう。就業規則や賃金規程、研修実績などを並べることが、取得を検討する第一歩です。
すでに算定している事業所は、「①計画書と運用」「②計画書と給与」「③取組と記録」の3つが一致しているか、日々の業務の中で確認していきます。
処遇改善加算は、取得後も計画に沿って賃金改善や職場環境の取組を続ける制度です。計画書、給与台帳、研修などの記録をつなげて管理すれば、実績報告や運営指導の際にも、何を実施したかを説明しやすくなります。まずは手元の資料を並べ、現在の運用と照らし合わせることをおすすめします。
(参考資料)