はじめに
「処遇改善加算は算定しているものの、計画書や実績報告書は専門家に任せていて、細かい内容まで把握できていない」
「加算額に対して賃金改善額が不足し、返還になるのが心配」
このように感じている障がい福祉事業所もあるのではないでしょうか。
福祉・介護職員等処遇改善加算は、計画書を提出すれば終わりではありません。実際に職員の賃金を改善し、誰に、どの方法で、いくら支給したのかを説明できる状態にしておくことが基本です。
今回は、賃金改善の考え方、令和6年度と令和8年度の改定の違い、支給方法、職員への周知を説明します。なお、相談支援に令和8年度から新設された加算は算定要件が異なるため、月額賃金の説明は主に従来から対象となっている障がい福祉・障がい児支援事業所を想定しています。
1.賃金改善は「加算がなかった場合」と比較する

処遇改善加算では、算定した加算額に相当する賃金改善を実施する必要があります。対象となるのは、基本給、手当、賞与等で、退職手当は含まれません。
賃金改善額は、原則として「加算を算定しなかった場合の賃金水準」と「改善後の賃金水準」を比較して算出します。
例えば、加算によって毎月1万円の手当を支給し、翌年度も継続した場合、その手当は引き続き賃金改善額として整理できます。毎年度、その1万円に加えて、さらに1万円ずつ上乗せし続けるという意味ではありません。
一方、令和8年度に加算率の引上げや上位区分への移行等によって加算額が増えた場合は、その増加額に相当する新たな賃金改善が必要です。
例えば、年間の加算額が300万円から330万円に増えた場合は、従来の300万円分の賃金改善に加え、増えた30万円分についても賃金改善を行います。「過去に事業所の自己資金で30万円分の賃上げをしているので、今回は追加の改善をしなくてよい」とすることはできません。
また、職員の退職や採用、勤務時間の変更によって、事業所全体の給与総額が増減することもあります。そのため、単に「前年より給与総額が増えたか」を見るだけでは、加算による賃金改善を確認できません。
どの賃金項目を、加算によっていくら改善しているのかを整理し、加算額が増えた場合は、その増加分への対応も確認しましょう。
2.令和6年度と令和8年度の月額賃金の要件を区別する
令和6年6月には、従来の処遇改善関係の3加算が一本化されました。この改定で導入されたのが、加算Ⅳ相当額の2分の1以上を、基本給または決まって毎月支払われる手当の改善に充てる月額賃金改善要件です。
上位区分を算定している場合も、実際に受け取る加算全額の半分ではなく、「仮に加算Ⅳを算定した場合の金額」を基準にします。
例えば、加算Ⅳ相当の年間加算額が200万円であれば、100万円以上を基本給や毎月の手当による改善に充てる必要があります。
一方、令和8年6月からは、対象が障害福祉従事者へ拡大され、生産性向上や協働化に取り組む事業者向けに加算Ⅰロ・Ⅱロが新設されました。
ロ区分で求められる令和8年度特例要件では、一定の取組に加え、加算Ⅱロ相当額の2分の1以上を基本給等の改善に充てる要件があります。なお、短期入所、就労定着支援、保育所等訪問支援など、加算Ⅱロの加算率が設定されていないサービスもあります。これらのサービスで加算Ⅰロを算定する場合は、令和8年度特例要件として、加算Ⅰロの加算額の2分の1以上を基本給または決まって毎月支払われる手当の改善に充てる必要があります。
したがって、配分を決める際は、まず次の順番で確認します。
- 自事業所が算定する加算区分
- その区分で基本給等に充てる必要がある金額
- 賞与・一時金等に配分できる金額
令和6年度からの基本要件と、令和8年度の特例要件を混同しないことがポイントです。
3.基本給・手当・賞与はどう組み合わせる?

基本給による改善
例えば、基本給20万円を20万5,000円に引き上げ、その5,000円が加算による改善分であれば、12か月支給した場合の賃金改善額は6万円です。
時給や日給そのものを引き上げる方法も、基本給による改善として考えられます。
基本給に組み込むと給与明細だけでは改善分が分かりにくくなるため、引上げ前の金額、改善額、開始時期を管理表などに残しておきましょう。
手当による改善
手当の名称を必ず「処遇改善手当」にする必要はありません。職能手当、資格手当、役職手当等の新設・増額による改善も考えられます。
ただし、賃金改善に使える手当と、月額賃金改善要件を満たす手当は、同じ範囲とは限りません。
月額賃金改善要件では、基本給または決まって毎月支払われる手当として扱えるかを確認します。「毎月の給与と一緒に支払っている」という理由だけで判断せず、賃金規程や支給条件と照合する必要があります。
賞与・一時金による改善
毎月の手当と賞与・年度末一時金を組み合わせる方法もあります。
例えば、必要な月額賃金の改善を毎月の手当で行い、加算額と支給実績を照合したうえで、残額を一時金として支給する方法です。
ただし、月額賃金の要件があるため、加算全額を賞与・一時金で支給できるとは限りません。賞与の配分は、基本給等で必要な改善額を確保してから決めます。
4.法定福利費は「賃上げに伴う増加分」を計上する
給与を引き上げると、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料等の事業主負担も増えることがあります。
処遇改善加算では、賃金改善に伴って増加した法定福利費等の事業主負担分を、賃金改善に要する費用に含めることができます。事業所が負担する社会保険料の全額を計上できるわけではありません。
例えば、加算による賃上げ前の事業主負担額が3万円、賃上げ後が3万800円であれば、対象として考えるのは増加した800円です。
概算で算出する場合も、一律に「賃金改善額の16%」と決めるのではなく、加入状況や適用される保険料率等を踏まえ、計算根拠を残しておきます。
法定福利費の増加分と職員へ直接支給した改善分を分けておくと、実績報告の際にも確認しやすくなります。
5.加算額と賃金改善額を年度途中に照合する
年度当初に加算額を300万円と見込んでいても、利用者数等の変化によって、実際には330万円になることがあります。当初の見込みだけで配分を決めていると、賃金改善額が不足する可能性があります。
実績報告書を作成するときに初めて確認するのではなく、年度途中から受け取る加算額と支給実績を照合しましょう。
管理表には、職員ごとに次の内容を整理しておくと便利です。
- 基本給による改善額
- 毎月の手当による改善額
- 賞与・一時金による改善額
- 賃金改善に伴う法定福利費等の増加分
例えば、賞与30万円を支給した場合も、30万円全額を改善額とするのではなく、そのうち加算による上乗せ分がいくらかを確認します。
給与明細に必ず「処遇改善分」と表示するという意味ではありません。賃金台帳、給与一覧、賞与明細、賃金改善管理表等を使い、計画書の配分方法と実際の支給内容を照合できることが重要です。
6.職員への周知と、その記録を残す

処遇改善計画の内容は、管理者や書類を作成した専門家だけが把握していればよいものではありません。職員への周知も必要です。
説明する際は、加算を算定していることに加え、対象者、配分の考え方、基本給・手当・賞与のどこで改善するのか、実施時期などを具体的に示します。
方法としては、職員会議での説明、周知文書の配布、社内掲示、共有フォルダへの掲載等が考えられます。
会議録や配布した周知文書など、いつ、何を、どのように周知したかが分かる資料を残しておきましょう。職員から賃金改善について照会があった場合にも、分かりやすく説明できるようにしておくことが大切です。
まとめ
処遇改善加算の管理では、加算区分に応じた月額賃金の要件を確認し、基本給・手当・賞与等の配分を決めることが出発点です。
そのうえで、実際の加算額と賃金改善額を照合し、法定福利費の増加分の根拠や、職員への周知資料を残します。
専門家に書類作成を依頼している場合も、「いくら加算を受け、誰に、どの方法で、いくら改善したか」を事業所自身が確認できる状態にしておくことが、安定した運用につながります。
(参考資料)
1.「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について」(厚生労働省)
対象の拡大、加算Ⅰロ・Ⅱロの新設、相談支援への加算新設など、令和8年度の改定内容を確認できる資料です。
2.「福祉・介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について(令和8年度分)」(厚生労働省・こども家庭庁)(令和8年3月31日)
賃金改善の実施、月額賃金改善要件、令和8年度特例要件、計画書・実績報告書の取扱いなどを確認する基本資料です。
3.「福祉・介護職員等処遇改善加算に関するQ&A(第1版)」(厚生労働省・こども家庭庁)(令和8年3月31日)
賃金改善の比較基準や、職員の退職・採用があった場合の取扱いなど、実務上の疑問を確認できる資料です。