はじめに
就労継続支援B型、生活介護、共同生活援助(障がい者グループホーム)、放課後等デイサービスなど、複数の障害福祉・児童福祉事業所を運営する法人では、処遇改善加算の計画書作成や給与計算を法人本部でまとめて行うことがあります。
その際、「加算区分が異なる事業所も一括管理できるのか」「事業所間で賃金改善額を調整できるのか」「実績報告も法人単位でよいのか」といった疑問が生じます。
処遇改善加算は、一定の条件のもとで法人単位の一括管理が認められています。ただし、各事業所の算定要件や職員への配分方法まで共通になるわけではありません。
今回は、令和8年度の厚生労働省・こども家庭庁の通知やQ&Aをもとに、複数事業所を運営する法人の計画書、賃金改善の配分、実績報告について解説します。
1.加算区分が異なっても法人単位で計画書を作成できる?

処遇改善加算の算定区分は、事業所ごとに適用される要件に基づいて判断します。
例えば、同じ法人が運営する就労継続支援B型事業所では処遇改善加算Ⅱイ、生活介護事業所では加算Ⅲを算定する場合も考えられます。
同一法人だからといって、すべての事業所で同じ加算区分を算定する必要はありません。
厚生労働省・こども家庭庁「福祉・介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について(令和8年度分)」(令和8年3月31日、以下「基本通知」)4(4)(11ページ)では、複数の障害福祉サービス等事業所を運営する法人について、処遇改善計画書(別紙様式2)と実績報告書(別紙様式3)を法人単位で一括作成することが認められています。
したがって、サービス種別や算定区分が異なる事業所でも、法人単位で計画書・実績報告書を作成することが可能です。
ただし、法人一括作成と届出先の一本化は別です。
例えば、吹田市と大阪市に事業所がある場合には、それぞれの事業所を所管する指定権者に対して必要な届出を行います。
また、令和8年度は6月から加算区分や対象サービスの見直しが行われています。
計画書を作成する際には、各事業所の算定時期と加算区分を区別して確認する必要があります。
2.賃金改善は各事業所での実施が望ましい|法人一括管理の特例
法人単位で管理する場合、特に注意したいのが事業所間の賃金改善額の配分です。
厚生労働省「2019年度障害福祉サービス等報酬改定に関するQ&A(Vol.1)」(令和元年5月17日、問19、6ページ)では、複数事業所を運営する法人についても、各事業所で賃金改善を行うことが望ましいと示されています。
一方、法人単位で計画書・実績報告書を一括作成する場合には、法人全体で加算額以上の賃金改善を確認する取扱いが示されています。
このQ&Aは旧加算制度に関するものですが、令和8年度の国のQ&Aでも、法人全体の加算収入額と賃金改善額を確認する考え方が示されています。
具体的には、厚生労働省・こども家庭庁「福祉・介護職員等処遇改善加算に関するQ&A(第1版)」(令和8年4月9日、以下「国のQ&A」)問2-6(11ページ)において、事業所(法人)全体の賃金改善額が加算収入額以上となることが算定要件とされています。
そのため、法人一括管理の対象事業所では、ある事業所の賃金改善額が、その事業所の加算収入額を下回る場合も考えられます。
ただし、法人全体で金額が合っていれば、事業所間で自由に配分できるという意味ではありません。
基本通知2(2)(4ページ)では、一部の職員や一部の事業所だけに賃金改善を集中させるなど、職務内容や勤務実態に見合わない著しく偏った配分を行わないこととされています。
したがって、事業所間で配分額を調整する場合には、職員数、勤務時間、職務内容、既存の賃金水準などを踏まえて判断します。
加算収入額と賃金改善額が一致しない事業所については、その配分に至った理由を説明できるようにしておくことが重要です。
なお、加算収入額を下回る事業所について、合理的理由書の提出を一律に義務付ける規定があるわけではありません。
3.法人一括管理でも、賃金改善の対象となる職員には注意が必要

令和8年度の処遇改善加算では、福祉・介護職員だけでなく、その他の職員も賃金改善の対象となります。
ただし、法人に所属するすべての職員に、無条件で配分できるわけではありません。
国のQ&A問2-8(12ページ)では、法人本部の職員について、処遇改善加算の算定対象となる事業所の業務を行っていると判断できる場合には、賃金改善の対象に含めることができるとされています。
例えば、法人本部で複数事業所の給与計算、国保連請求、人事管理などを担当している職員が考えられます。
一方、処遇改善加算を算定していない事業所や、障害福祉サービス等以外の事業所の業務のみを担当する職員は、その加算を原資とする賃金改善の対象には含められません。
また、国のQ&A問2-7(11ページ)では、障害福祉サービスと介護サービスを兼務する職員の賃金について、原則として常勤換算方法により按分する考え方が示されています。
そのため、法人内で給与計算を一括している場合でも、職員の所属先だけでなく、実際に従事している業務や勤務時間を確認する必要があります。
さらに、国のQ&A問2-6(11ページ)では、賃金改善の方法を職員へ周知し、照会があった場合には、書面を用いるなど分かりやすく回答することが求められています。
法人本部が給与計算を担当していても、各事業所の職員に対する説明まで省略できるわけではありません。
4.実績報告書も法人単位で作成できる?加算収入と賃金改善額の確認
処遇改善加算の実績報告書についても、基本通知4(4)(12ページ)により法人単位で一括作成できます。
実績報告では、計画時の見込額ではなく、実際に算定した加算収入額と賃金改善額を確認します。
賃金改善の対象には、基本給、手当、賞与などが含まれますが、退職手当は含まれません。
また、賃金改善に伴う法定福利費等の事業主負担の増加分を含めることも認められています。
ここで注意したいのは、法人全体の賃金改善額が加算収入額以上であれば、ほかの算定要件も満たしたことになるわけではないという点です。
令和8年度には、月額賃金改善要件に加え、令和7年度と比較して新たに増加した加算額に相当する賃金改善を実施する取扱いも定められています。
そのため、法人全体の加算収入額と支給額を集計するだけでなく、各事業所の加算区分、対象職員、基本給・手当・賞与の改善内容などを確認します。
また、基本通知4(2)(3)(11ページ)では、処遇改善計画書・実績報告書とその根拠資料について、2年間保存することとされています。
法人で一括管理する場合も、各事業所の加算収入額と、職員への賃金改善額を後から確認できる資料を整理しておくことが重要です。
5.事業所の新設・廃止、職員の入れ替わりがあった場合
年度途中で事業所を新設・廃止した場合には、法人一括管理の対象事業所が変わることがあります。
基本通知5(1)②(12ページ)では、法人単位で一括申請している場合に、新規指定や廃止等によって対象事業所が増減するときは、変更届を提出することとされています。
また、加算区分やキャリアパス要件等の変更についても、届出が必要となる場合があります。
一方、職員の退職や新規採用があった場合には、賃金改善額の計算にも注意が必要です。
国のQ&A問1-2(3ページ)では、職員構成の変化によって賃金総額に差が生じる場合の考え方が示されています。
例えば、年度途中で経験年数の長い職員が退職し、新たに経験年数の短い職員を採用した場合を考えます。
この場合、個々の職員の賃金水準を引き下げていなくても、職員構成が変わったことによって法人全体の給与総額が減少することがあります。
国のQ&Aでは、このような場合について、退職者が前年度に在籍していなかったと仮定した賃金総額を推計する方法や、新規採用職員と同じ職種・勤務年数等の職員が在籍していたと仮定する方法などが示されています。
つまり、実際に賃金水準を引き下げたのか、それとも職員の入れ替わりによって給与総額が減少したのかを区別する必要があります。
そのため、前年度と今年度の給与総額を単純に比較するのではなく、職員構成の変化を考慮したうえで、処遇改善加算による賃金改善額を確認します。
事業所の増減に伴う変更届と、職員の入れ替わりによる賃金改善額の計算は、確認する内容が異なります。
年度途中に変更が生じた場合には、届出の要否と賃金改善額の算定をそれぞれ確認することが重要です。
※賃金改善額の算定に関する注意点
国のQ&A問1-2(3ページ)は、職員構成の変化による賃金総額の増減を調整する考え方を示したものです。すべての法人に同じ計算方法を適用するものではありません。 実際の算定では、職員の退職・採用状況や賃金水準を踏まえ、令和8年度の計画書・実績報告書の様式に従って整理する必要があります。
6.複数事業所を運営する法人の管理例

ここでは、就労継続支援B型と放課後等デイサービスの2事業所を運営する法人を考えます。
仮に、年間の加算収入額と賃金改善額が次のようになったとします。
| 項目 | A事業所(B型) | B事業所(放デイ) |
| 年間加算収入額 | 360万円 | 240万円 |
| 年間賃金改善額 | 300万円 | 300万円 |
| 差額 | ▲60万円 | +60万円 |
法人全体では、加算収入額600万円に対し、賃金改善額も600万円となります。
A事業所では賃金改善額が加算収入額を60万円下回っていますが、B事業所では60万円上回っています。
法人単位で一括管理する場合には、このように事業所ごとの加算収入額と賃金改善額が一致しないことも考えられます。
ただし、法人全体で加算収入額以上の賃金改善を実施しているという理由だけで、算定要件をすべて満たしていると判断することはできません。
例えば、A事業所の職員数や勤務実態に対して賃金改善額が著しく少なくなっていないか、B事業所への配分が職務内容や勤務実態に見合っているかを確認する必要があります。
また、両事業所について、月額賃金改善要件などの算定要件を満たしているかも別途確認します。
このように、法人本部では全体の加算収入額と賃金改善額を管理しながら、各事業所では対象職員、配分内容、算定要件を確認することになります。
法人全体の金額の確認と、事業所ごとの配分・算定要件の確認を組み合わせることが、一括管理の基本となります。
まとめ
処遇改善加算は、複数事業所を運営する法人について、計画書や実績報告書を法人単位で一括作成することが認められています。
また、一定の条件のもとで、法人全体の加算収入額と賃金改善額を比較する取扱いも示されています。
ただし、法人一括管理によって、各事業所の算定要件や賃金改善の配分に関する確認が不要になるわけではありません。
法人本部では加算収入額と賃金改善額を一括管理し、各事業所では算定区分、対象職員、勤務実態、実際の配分内容を確認する。
この2つを区別して管理することが、複数事業所を運営する法人にとって重要です。
(参考資料)
1.「福祉・介護職員等処遇改善加算に関するQ&A(第1版)」(令和8年4月9日)(厚生労働省・こども家庭庁)
本記事では、主に問1-2、問2-6、問2-7、問2-8を参照しています。法人全体の賃金改善額の確認、兼務職員や本部職員への配分、職員構成が変化した場合の賃金改善額の考え方などを確認できる資料です。
2.「福祉・介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について(令和8年度分)」(令和8年3月31日)(厚生労働省・こども家庭庁)
令和8年度の処遇改善加算について、賃金改善の配分、算定要件、法人単位での計画書・実績報告書の作成、変更届、根拠資料の保存などを示した基本通知です。
3.「2019年度障害福祉サービス等報酬改定に関するQ&A(Vol.1)」(令和元年5月17日)(厚生労働省)
本記事では問19を参照しています。複数事業所を運営する法人における賃金改善の考え方を示した旧制度のQ&Aです。現行制度の取扱いについては、令和8年度の基本通知・Q&Aを優先して確認する必要があります。