はじめに|報酬だけでなく開業時の確認事項も見直しへ
令和9年度の障害福祉サービス等報酬改定に向けて、厚生労働省とこども家庭庁による検討が進められています。
基本報酬や加算に加え、指定申請時の事業計画、支援体制、管理者の要件なども、新規開業に関係する論点となっています。
既に令和8年度には、一部の新規指定事業所に適用する基本報酬が見直されました。これから開業する場合や、既存法人が事業所を増やす場合には、施行済みの制度、今後施行される制度、検討中の内容を区別することが重要です。
本記事では、これまでの経緯と、令和8年10月時点で確認できる変更点を整理し説明します。
1.令和6年度から続く報酬・指定基準の見直し

障害福祉サービス等の報酬は、原則として3年ごとに見直されています。
令和6年度報酬改定では、就労継続支援B型の平均工賃月額の算定方法や、児童発達支援・放課後等デイサービスの支援時間に応じた基本報酬などが見直されました。
一方、給付費の増加や人材不足を背景に、サービスの質と制度の持続可能性の確保も課題となっています。令和8年度には、収支差率が高く、事業所数が急増している一部のサービスで、新規指定事業所を対象とする応急的な報酬の見直しが実施されました。
さらに、令和8年6月には「障害福祉サービス事業者等の指定のガイドライン」が公表されています。指定する段階で、地域のニーズや事業内容、運営体制を確認することも重視されています。
2.令和8年度の基本報酬見直し|新規指定事業所への適用
令和8年6月1日以降に新規指定された対象事業所には、原則として、次の割合による応急的な基本報酬単価が適用されます。
| サービス | 対象となる基本報酬の適用割合 |
| 就労継続支援B型 | 従前の98.4% |
| 共同生活援助(介護サービス包括型・日中サービス支援型) | 従前の97.2% |
| 児童発達支援 | 従前の98.8% |
| 放課後等デイサービス | 従前の98.2% |
例えば、放課後等デイサービスでは、対象となる基本報酬に98.2%の割合が適用されます。加算を含む報酬収入全体が、一律に1.8%減少するという意味ではありません。
また、重度障害児者への支援や、サービスが不足している地域での開設などには、一定の配慮措置があります。対象加算や所在地等の要件に応じて、利用者単位又は事業所全体で従前の単価が適用されます。
この措置は令和9年度報酬改定までの臨時応急的なものです。令和9年度以降も、同じ割合が継続すると決まっているわけではありません。
3.令和9年度に向けたサービス別の変更点

① 就労継続支援B型|スコア方式と支援方法の見直し
B型では、令和7年11月に示された指定・指導に関するガイドラインを踏まえ、申請内容の把握や地域ニーズの確認などを、施行規則や指定基準等に位置付けることが検討されています。
報酬面では、平均工賃月額に加え、支援時間、利用者の障害の程度、支援内容などを評価する「スコア方式導入」が論点となっています。
また、「在宅支援」の対象者・支援体制・報酬上の取扱い、「施設外就労」の実施場所や収支の確認方法なども見直しの対象です。
開業計画では、工賃の見込みだけでなく、誰に、どこで、どのような支援を提供するかを整理することになります。具体的な配点や単価、適用要件は、現時点では確定していません。
② 児童発達支援・放課後等デイサービス|職員研修と人員配置
障害児支援では、新たな研修体系、人員配置、専門的な支援の評価などが検討されています。
令和9年度から導入が予定されている基礎・実践研修についても、運営基準上の位置付けなどが論点です。児童発達支援管理責任者になるための基礎研修・実践研修とは別の研修である点に注意が必要です。
開業時の職員確保に加え、採用後の受講計画や、研修中の人員配置にも関係する内容となっています。
③ 共同生活援助|地域ごとの指定の取扱いと管理者要件
共同生活援助(障がい者グループホーム)は、令和9年4月1日から総量規制の対象サービスに追加されます。これは、令和8年3月31日に公布された改正省令による決定事項です。
総量規制とは、障害福祉計画に定める必要なサービス量に達している場合などに、指定権者である都道府県・指定都市・中核市等が、新規指定等を行わないことができる仕組みです。
全国の市町村で、一律に新規開設が制限されるわけではありません。規制の実施や対象区域は、地域の供給状況や障害福祉計画等を踏まえた自治体の判断によります。重度障害者など、地域で支援ニーズが高い方へのサービス確保にも配慮した運用が求められています。
開設予定者は、予定地を管轄する指定権者が公表する規制の有無、対象区域、開始時期、例外的な取扱いを確認することになります。www.city.matsue.lg.jp
一方、管理者については、3年以上の障害者支援等の実務経験と、管理者研修の修了を求める案が示されています。令和9年度以降の新規開設事業所では、実務経験要件に経過措置を設けない案であり、正式な基準を確認する必要があります。
④ 訪問系サービス|ピアサポートと同一建物等減算
訪問系サービスでは、障害のある当事者等が経験を生かして相談や助言を行う、ピアサポートの専門性を報酬上で評価することが検討されています。
また、「同一建物等減算」も論点です。居宅介護では既存の減算の見直し、重度訪問介護では新たな減算の導入案が示されています。
集合住宅への訪問を中心とする開業計画では、訪問先と事業所の位置関係なども収支に関係します。ただし、改定後の減算率や適用要件は未確定です。
4.開業準備では事業計画と収支の根拠を整理する
指定申請では、人員・設備の基準に加え、予定する支援を実施できる運営体制が確認されます。
例えば、定員20人のB型を開設する場合、想定する利用者、作業内容、必要な職員数、生産活動の収入見込みを関連付けて整理することになります。利用者像や支援内容と、人員配置・収支計画が一致しているかが確認点です。
収支計画では、利用者数と利用日数を分けて試算し、加算も要件を満たして算定できるものを計上します。B型では、サービス報酬による運営収支と、工賃の原資となる生産活動収支の区別も必要です。
検討中の報酬による増収を前提とせず、現行制度で試算し、正式な改定内容に合わせて更新することになります。
5.既存法人の増設も手続きによって扱いが異なる

既に事業所を運営している法人でも、新たな事業所の指定を受ける場合は、令和8年度の応急的な基本報酬の対象となることがあります。原則として、法人の運営実績ではなく、事業所の新規指定日が基準となるためです。
一方、新規指定を伴わない定員増加や住居追加等は、この報酬特例の対象外です。また、事業譲渡や吸収合併等で、国の事務連絡に基づく手続きの簡略化や実績の通算等を行う場合にも、対象外とする取扱いがあります。
ただし、報酬特例の対象外であることと、総量規制の対象外であることは別です。
共同生活援助では、令和9年4月以降、住居追加などによって事業所の利用定員を増やす場合も、総量規制の対象となり得ます。ただし、全国一律に増設が制限されるわけではありません。予定地を管轄する指定権者が公表する、規制の有無や対象区域、例外的な取扱いを確認する必要があります。
まとめ|指定予定日と地域の取扱いを確認する
令和9年度に向けた見直しは、報酬だけでなく、開業時の支援体制や管理者の確保にも関係しています。
指定予定日、開設地域、提供するサービスを明確にし、適用される報酬・基準と自治体の申請案内を照合することが、開業準備の基本となります。
※本記事は、令和8年10月15日時点で公表されている資料に基づいています。検討事項は、今後変更される可能性があります。
(参考資料)
1.「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定について」(厚生労働省)
※改定事項及び報酬改定等に関するQ&A VOL.1・VOL.2を参照。応急的な報酬単価、配慮措置、事業譲渡等の取扱いを確認。
2.「障害福祉サービス事業者等の指定のガイドライン」(令和8年6月30日)(厚生労働省・こども家庭庁)
※指定事務、申請内容の確認、総量規制及び意見申出制度の活用に関する内容を参照。
3.「就労系サービスに係る報酬・基準について≪論点等≫」(令和8年9月28日)(厚生労働省)
第64回障害福祉報酬改定検討チーム資料
※新規指定、スコア方式、在宅支援、施設外就労及び生産活動収支に関する検討内容を参照。
4.「障害児支援に係る報酬・基準について≪論点等≫」(令和8年10月5日)(厚生労働省・こども家庭庁)
第65回障害福祉報酬改定検討チーム資料
※新たな研修体系、人員配置及び専門的な支援の評価に関する検討内容を参照。
5.「障害福祉サービスの質の確保について」(令和8年6月5日)(厚生労働省)
第156回社会保障審議会障害者部会・資料3
※共同生活援助の管理者要件及び経過措置案を参照。
6.「訪問系サービスに係る報酬・基準について≪論点等≫」(令和8年9月24日)(厚生労働省・こども家庭庁)
第63回障害福祉報酬改定検討チーム資料
※ピアサポートの専門性の評価(4~5ページ)、居宅介護の同一建物等減算の見直し(18ページ)、重度訪問介護への導入案(38ページ)を参照。
7.「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律施行規則の一部を改正する命令の公布等について(通知)」(令和8年3月31日・障発0331第3号)(厚生労働省)
※共同生活援助の総量規制への対象追加、令和9年4月1日の施行期日及び地域の個別ニーズへの配慮を参照。