はじめに
介護タクシーの開業準備では、営業所や車庫、車両、資金など、許可を取得するための要件に目が向きます。一方、運輸を開始すると、車両を動かす日ごとに点検や点呼を行い、運行した内容を記録することになります。
たとえば、朝一番の予約で利用者の自宅へ向かう日も、車に乗ってそのまま出発するわけではありません。日常点検で車両を確認し、乗務前点呼を受けてから運行するのが基本です。運行後には業務記録を作成し、乗務後点呼で車両や道路の状況を報告します。
近畿運輸局も、事業開始時に備える帳票として、点呼記録簿、日常点検記録、運転日報(業務記録)などを挙げています。この記事では、開業後の一日に沿って、それぞれ何を確認し、どのように記録するのかを解説します。
1.出発前に、車両の日常点検を行う

最初に確認するのは、今日使う車両の状態です。
事業用自動車は、運行開始前に日常点検を行います。ブレーキ、タイヤ、灯火類、ワイパー、各種液量などを、車両に応じた点検項目に沿って確認します。前日の運行で異常が見つかっていれば、その箇所も確かめます。
介護タクシーでは、車両本体に加え、スロープやリフト、車いすの固定装置など、利用者の乗降に使う設備も確認しておきたいところです。病院に到着してからスロープの不具合に気づけば、その場で安全な乗降ができなくなるおそれがあります。
点検で異常を見つけた場合は、そのまま運行するかを決めず、必要な整備や確認につなげます。点検日、車両、確認結果、不具合と対応内容が後から分かるよう、日常点検記録に残しておくと管理しやすくなります。
なお、運行前の日常点検と、事業用タクシーについて行う3か月・12か月ごとの定期点検整備は別のものです。定期点検を受けていても、その日の運行前の日常点検は必要です。
2.乗務前点呼で、運転者と車両の状態を確認する
日常点検の次は、乗務前点呼です。ここでは、運転者が安全に乗務できる状態か、車両を運行できる状態かを確認します。
主な確認事項は、次のとおりです。
- 運転者の疾病、疲労、睡眠不足などの状況
- 酒気帯びの有無
- 日常点検の実施状況
- 運行に必要な指示事項
酒気帯びの有無は、目視等による確認に加えて、アルコール検知器を使用して確認します。検知器は置いておくだけでなく、正常に作動する状態で管理する必要があります。
点呼を行ったら、点呼日時、点呼を行った人と受けた運転者、点呼方法、確認結果、指示事項などを記録します。体調の確認やアルコール測定を行っていても、点呼の内容が記録されていなければ、後から実施状況を確認できません。点呼記録は1年間保存します。
なお、電話など対面以外の方法による点呼には条件があります。「朝が早いから」という理由だけで自由に切り替えられるものではありません。開業時に定めた点呼の体制と方法を確認しておきましょう。
3.運行した内容を業務記録に残す
利用者を送迎した日は、実際の運行内容を業務記録(運転日報)に残します。
一般乗用旅客自動車運送事業者の業務記録では、運転者、使用した車両、業務の開始・終了の地点と日時、主な経過地点、走行距離などに加え、旅客が乗車した区間と、業務開始時・終了時の走行距離計の積算キロ数を記録します。事故などが発生した場合には、その内容も記録の対象です。記録は車両ごとに整理し、1年間保存します。
ここで、予約表や売上帳との違いを押さえておきましょう。予約表に書かれているのは予定であり、売上帳から分かるのは運賃などの金額です。業務記録には、その日に誰がどの車両で、実際にどのような運行をしたかを残します。
たとえば、予約表に「午前9時、○○病院」と書いてあっても、出発地点や旅客が乗車した区間、運行終了時の積算キロ数までは分かりません。予約変更や行先の変更があった日ほど、予定をそのまま転記せず、実際の運行に合わせて記録することが大切です。
4.乗務後点呼で、その日の運行状況を報告する

運行を終えたら、乗務後点呼を行います。酒気帯びの有無を確認するとともに、運転者から自動車、道路、運行の状況について報告を受けます。交替する運転者に伝える事項があれば、その内容も確認します。
たとえば、「スロープの動きがいつもより重い」「送迎先までの道路が工事で通れなかった」といった報告です。その場で聞いて終わりにせず、点呼記録に残し、必要に応じて整備や次回の運行準備につなげます。
乗務後点呼は、運行が終わったことを確認するだけでなく、次の運行に持ち越してはいけない異常を拾う機会でもあります。
5.3つの記録は、確認する内容が違う
日常点検記録、点呼記録、業務記録は、同じ日の運行に関する書類でも役割が異なります。
| 記録 | 主に確認・記録すること | 主なタイミング |
| 日常点検記録 | 車両や乗降設備の状態、不具合と対応 | 運行開始前 |
| 点呼記録 | 運転者の状態、酒気帯び、点検結果、指示・報告 | 乗務前・乗務後 |
| 業務記録(運転日報) | 実際の運行区間、時間、走行距離、異常など | 運行した日 |
点呼記録と業務記録の保存期間は、それぞれ1年間です。日常点検は運行前に実施し、点検結果や不具合への対応を記録しておきます。日常点検記録には、点呼記録や業務記録のような一律の法定保存期間は確認できませんが、実施状況を後から確認できるよう、事業所で保管期間を決めて管理しましょう。
なお、運行記録計(タコグラフ)は、すべての介護タクシーに一律で装着義務があるわけではありません。近畿運輸局の資料では、指定地域における取扱いについて、福祉車両とハイヤー車両を対象から除く旨が示されています。使用する車両と営業所の所在地に応じて確認してください。
6.毎日の記録以外に、営業所で管理する帳票

開業後に管理する書類は、この3つだけではありません。近畿運輸局の資料には、乗務員等の台帳や乗務員証、教育記録、事故記録、定期点検整備記録簿、苦情処理簿、事業報告書・輸送実績報告書なども挙げられています。
ただし、すべてを「毎日書く書類」として扱う必要はありません。開業時に帳票をそろえたうえで、運行のたびに記録するもの、点検や教育を実施したときに記録するもの、毎年度提出するものを分けて管理すると、記録漏れを防ぎやすくなります。
1人・1台で始める場合も、車両点検、点呼、運行の実績を確認できる状態にしておくことが必要です。開業直後から使う帳票ほど、初日の運行前に記入方法と保管場所を決めておきましょう。
まとめ|最初の運行日から記録できる準備を
介護タクシーの一日は、日常点検 → 乗務前点呼 → 運行と業務記録 → 乗務後点呼という流れで考えると整理しやすくなります。
開業初期は、予約の受付、運転、乗降の介助、会計までを一人で行うこともあります。記録を後でまとめて書こうとすると、乗降地点や時刻、不具合の内容を正確に思い出せなくなるかもしれません。
運輸を開始する前に、どの帳票を使い、いつ記入し、どこに保管するかを決めておく。毎日の安全確認を無理なく続けるために、まず取り組みたい準備です。
参考資料
- 近畿運輸局「法令関係について」
「事業を開始する際に備えておく帳票類等」に、点呼記録簿、日常点検記録、運転日報などが整理されています。 - e-Gov法令検索「旅客自動車運送事業運輸規則」
第24条で点呼、第25条で業務記録に関する規定を確認できます。 - 国土交通省「旅客自動車運送事業運輸規則の解釈及び運用について」
点呼の方法やアルコール検知器の管理について、実務上の取扱いが示されています。 - 国土交通省「点検整備の種類」
日常点検と定期点検整備の違い、事業用タクシーの定期点検時期を確認できます。