はじめに
介護タクシーの開業を検討する際、初期費用の中でも大きな割合を占めるのが車両購入費です。
中古の福祉車両を選ぶことで、開業時の負担を抑えられる場合があります。一方、購入後の修理費や福祉装置の状態など、新車とは異なる確認も必要です。
今回は、新車との価格差、使用年数の考え方、中古車選びのポイント、許可申請との関係を説明します。
※本記事は、販売価格や統計資料を参考にした一般的な解説です。価格や使用可能年数は、車種・年式・走行距離・整備状況などによって異なります。掲載した事例や試算は、個別車両の費用や寿命を保証するものではありません。
1.介護タクシーは中古車でも開業できる?

介護タクシーは、中古車を使用して開業することも可能です。
近畿運輸局の審査基準では、使用できる車両として、車いす用のリフト・スロープや、乗降を容易にする回転シートなどを備えた福祉自動車が示されています。一定の資格を持つ乗務員が乗務する場合には、セダン型などの一般車両も対象になります。
また、申請者が車両の使用権原を有することも必要です。使用権原とは、所有やリースなどに基づき、その車両を使用できる権利をいいます。
審査基準には、新車であることを求める規定はありません。中古車かどうかに加え、予定している車両が許可基準に適合するかを確認します。
2.介護タクシーの中古車は新車よりどれくらい安い?
価格差の一例として、トヨタ「シエンタ ウェルキャブ」の車いす仕様車を見てみます。
新車のメーカー希望小売価格は、車いす仕様車タイプⅠ・助手席側セカンドシート付・2WDの場合、次のとおりです。
- ガソリン車 X:230.9万円
- ガソリン車 G:261.7万円
- ハイブリッド車 G:293.2万円
※消費税非課税。オプションや登録諸費用などは別途必要です。
一方、中古車では、2021年式のXグレード・車いす仕様車タイプⅠ・走行距離約9.4万kmで、支払総額135.8万円という掲載例があります。
新車Xグレードの230.9万円との差は、約95万円です。ただし、新旧モデルの違いがあり、新車は諸費用別、中古車は諸費用込みのため、同じ条件での比較ではありません。
この掲載例からも、中古車によって購入時の負担を抑えられる場合があることは分かります。ただし、個別の販売例であり、中古車全体の相場を示すものではありません。
実際に比較する際は、新車・中古車ともに、登録や必要な整備を含めた見積総額を確認することが大切です。
3.中古の福祉車両は何年使える?|新車との使用年数の違い

中古車の使用可能年数は、年式だけでは判断できません。
自動車検査登録情報協会によると、令和7年3月末時点の乗用車〈軽自動車を除く〉の平均使用年数は13.35年です。
これは初度登録から抹消登録までの平均年数で、一時抹消も含まれます。介護タクシーの寿命や、故障せず使用できる期間を示す数値ではありません。
例えば、初度登録から合計13年間使用すると仮定すれば、新車から購入する場合は13年間、5年落ちで購入する場合は残り8年間という計算になります。
ただし、これは同じ時期に使用を終えると仮定した説明です。「5年落ちなら、あと8年間使える」という意味ではありません。
実際には、走行距離、整備履歴、使用環境などによって状態が異なります。福祉車両では、車両本体に加えて、リフトや電動ウインチ、車いす固定装置などの状態も確認します。
4.中古車は本当に経済的?|購入価格と使用期間を比較する
購入価格が安くても、短期間で買い替えが必要になれば、年間の負担が大きくなる場合があります。
購入価格と使用期間を仮定して、比較してみます。
| 比較項目 | 新車 | 中古車 |
| 購入価格 | 262万円 | 179万円 |
| 購入時の車齢 | 0年 | 5年 |
| 想定使用期間 | 13年 | 8年 |
| 購入価格を使用期間で割った額 | 年約20.2万円 | 年約22.4万円 |
※説明用の試算です。実際の販売価格や寿命を示すものではありません。維持費・保険料・税金・売却価格などは含めていません。また、税務上の減価償却費とは異なります。
この例では、中古車の購入価格は83万円安くなりますが、使用期間で割った額は中古車の方が高くなります。
購入後には、タイヤやバッテリーの交換、福祉装置の修理などが必要になる場合もあります。故障で営業を休めば、その間の売上にも影響します。
開業時に支払える金額と、購入後に見込む修理費・買い替え時期を併せて検討します。
5.介護タクシーの中古車選びで確認したい5つのポイント
① 車検証の記載内容
販売店から車検証の写しなどを受け取り、次の事項を確認します。
- 初度登録年月
- 用途・車体の形状・乗車定員
- 車両の長さ・幅・高さ
- 所有者と使用者
電子車検証の場合は、自動車検査証記録事項も併せて確認すると、必要な情報を把握しやすくなります。
② 福祉装置の状態
スロープやリフト、電動ウインチ、車いす固定装置、シートベルトなどを確認します。
外観だけで判断せず、実際に作動させ、乗降や固定の操作に支障がないかを確認することが重要です。
利用を想定する車いすやストレッチャーに対応できるかも確認しておきます。
③ 整備履歴と走行距離
走行距離に加え、点検整備記録簿、修理・修復歴、福祉装置の整備状況を確認します。
購入後、近いうちに交換や修理が必要な箇所がないか、販売店に説明を求めておくと、資金計画に反映できます。
④ 車庫との適合
購入予定車両を車庫に収容できるか、出入りに支障がないかを確認します。近畿運輸局の審査基準でも、配置する車両を確実に収容できることなどが求められています。
車両寸法だけでなく、乗降のためにスロープを展開する場所も具体的に想定しておきます。
⑤ 保証と修理の対応先
保証期間や対象範囲、福祉装置を修理できる整備先、部品の供給状況を確認します。
車両本体に保証が付いていても、福祉装置まで対象になるとは限りません。保証書や契約内容で確認しておきます。
6.中古車の購入・リースと一般許可申請の注意点

一般許可申請では、車両の使用権原を確認できるように準備します。
中古車を購入・リースする場合は、次の事項を整理します。
- 売買契約書・リース契約書などの内容
- 車検証上の所有者・使用者
- 事業用として使用できる契約か
- 申請に必要な車両関係書類を準備できるか
所有者が販売店やリース会社の場合でも、申請者がどの契約に基づいて使用するのかを確認します。
購入契約の前に、車両の仕様、使用権原、申請に必要な書類を確認しておくことが大切です。購入後に問題が分かると、追加費用や開業時期の変更につながる場合があります。
7.中古車を事業用に登録する際の確認事項
中古車を購入しただけでは、介護タクシーとして営業を始めることはできません。
一般許可取得後は、事業用自動車等連絡書の手続きや事業用登録など、営業開始に向けた準備を進めます。登録後には、車検証の使用者や用途なども確認します。
※軽自動車の場合、事業用のナンバープレートは黒地に黄色文字です。
また、事業用登録やナンバープレートの取得だけで、営業開始の準備が全て終わるわけではありません。保険や運賃などの必要な対応、運輸開始後の届出も含めて、手順を整理します。
販売店が登録を担当する場合は、書類の準備・提出・登録を誰が行うのか、事前に役割分担を決めておきます。
8.中古車で介護タクシーを開業する際の確認事例
例えば、車いす対応の中古シエンタを1台購入し、大阪府内で開業する場合を考えます。
購入前には、次の順序で確認すると整理しやすくなります。
- 車検証などで仕様・寸法・乗車定員を確認する
- 福祉装置の作動と、想定する利用者への対応を確認する
- 整備履歴・保証・購入後の修理費を確認する
- 車庫の広さや出入りに支障がないか確認する
- 使用権原と申請書類を確認する
- 販売店と事業用登録の手順・費用を確認する
車両代だけで予算を使い切らず、開業準備と購入後の整備に必要な資金も残しておくことが必要です。
まとめ
中古車は、介護タクシーの開業資金を抑える選択肢の一つです。
ただし、価格差や年式だけでは経済性を判断できません。福祉装置の状態、修理費、使用予定期間、許可基準への適合を併せて確認します。
購入時の見積総額と、購入後に見込む費用を整理したうえで、事業計画に合う車両を選ぶことが大切です。
(参考資料)
1.「一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業)の許可等の申請に関する審査基準について」(令和8年2月20日最終改正)(近畿運輸局)
※2ページ「使用する事業用自動車」、3ページ「事業用自動車」「自動車車庫」を参照。車両の設備、使用権原、車庫の要件を確認。
2.「シエンタ ウェルキャブ 車いす仕様車」(トヨタ自動車)
※車いす仕様車タイプⅠ・助手席側セカンドシート付の価格表と装備を参照。価格・仕様は変更される場合があります。
3.「平均使用年数」(令和7年3月末現在)(一般財団法人自動車検査登録情報協会)
※1ページの平均使用年数の定義と乗用車の数値を参照。個別車両や介護タクシーの使用可能年数を示す資料ではありません。