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はじめに
会社を退職し、介護タクシーの開業を検討される際、「会社を設立する必要はあるのか」「自分一人でも運営できるのか」「事務所や車庫にはどのような要件があるのか」「自己資金はいくら用意すればよいのか」など、多くの疑問が生じるかと存じます。 法人設立、税務署への開業届、運輸支局への許可申請は、それぞれ目的が異なる手続きであり、全体像が把握しづらい部分があります。 介護タクシーは、正式には一般乗用旅客自動車運送事業のうち、利用者を要介護者などに限定して行う「福祉輸送事業」に該当します。事業を始めるには、管轄の運輸局が定める厳格な審査基準を満たし、許可を受ける必要があります。 本記事では、個人事業主として始められるのかという点から、開業にあたって最低限必要となる「人」「場所」「車両」「資金」の要件について、順を追って整理・解説いたします。
1.介護タクシーは個人事業主でも始められる

介護タクシーの事業許可は、法人格を前提とした制度ではありません。株式会社や合同会社を設立せずとも、個人を申請者として許可を受けることが可能です。 したがって、申請者ご自身が運転者となり、車両1台からスモールスタートを切る事業計画も制度上認められています。運輸局の審査基準においても、営業所ごとに必要な最低車両数は「1両以上」と定められています。 個人事業主として申請する場合、許可、営業所、車両、各種契約などは原則として個人に帰属します。一方で、法人として申請する場合は、法人が許可の主体となり、これらを事業として管理します。 どちらの形態が適しているかは、今後の事業展開のビジョンによります。ご自身一人で小規模に始めるのか、早い段階から従業員を雇用するのか、将来的に訪問介護や障がい福祉事業への展開を見据えているのかによって、最適な形は異なります。 一つご留意いただきたいのは、個人名義で許可を取得した後に法人化(法人成り)する場合、許可の名義は自動的には引き継がれず、事業譲渡等の手続きが新たに必要になる点です。数年以内の法人化を具体的に見据えている場合は、初期段階から法人設立を先行させる選択肢もご検討いただくことをお勧めいたします。
2.法人設立、開業届、運送事業許可はそれぞれ別の手続き
開業準備において、性質の異なる3つの手続きが存在します。 1つ目は、株式会社や合同会社など、事業の主体となる法人を設立する手続きです。法人で開業される場合は、法務局での設立登記を完了させた上で、原則として法人名義で運送事業の許可を申請します。 2つ目は、税務署への「開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)」の提出です。これは個人が事業を開始したことを税務上の目的で知らせる手続きであり、青色申告を希望される場合には併せて申請を行います。 3つ目は、運輸支局への「一般乗用旅客自動車運送事業経営許可申請」です。これが、対価を得てお客様を自動車で輸送するための営業許可を得るための手続きとなります。 つまり、税務署に開業届を提出しただけ、あるいは法人を設立しただけでは、介護タクシーの営業は開始できません。税務・法務上の手続きと、道路運送法上の営業許可は、分けて進行していく必要があります。
3.最低限、何人必要なのか(人員要件と資格)
車両1台で事業を始める場合、申請者ご本人が第二種運転免許を保有し、自ら運転者となる計画が考えられます。 運輸局の審査基準では、「事業計画を遂行するに足る員数の有資格の運転者を常時選任する計画があること」と規定されています。これは必ずしも複数人が必要という意味ではなく、設定した営業日数や営業時間、休息期間のルールに無理なく対応できる人数であれば問題ありません。 ただし、事業を運営する上で「運行管理者」や「整備管理者」といった役職を選任する必要があります。 人員配置において非常に重要なルールとして、原則「運行管理者は、運転者と兼任することができない」という点が挙げられます。例外として、ご自身1名のみで事業を行う(運転手も自分のみ)場合に限り兼任が認められますが、ご家族などを運転手として迎えるなど複数人体制となる場合は、運転手とは別の方を運行管理者として配置する必要があります。 なお、予定する車両台数が「4台以下」であれば、運行管理者や整備管理者に特別な資格(運行管理者資格者証や自動車整備士資格など)を持つ方を選任する義務はありません。車両が「5台以上」になった段階で有資格者の配置が求められます。
4.最低限、どのような場所が必要なのか(営業所・車庫・休憩施設)

介護タクシーの申請には、以下の3つの施設を事業計画上で確保する必要があります。
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営業所
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自動車車庫
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休憩、仮眠または睡眠のための施設
営業所は、予約の受付、点呼、運行記録の管理などを行う拠点です。自宅の一室を営業所として使用することも可能ですが、用途地域(都市計画法や建築基準法など)の制限に抵触しないかの事前確認が求められます。また、賃貸物件の場合は、賃貸借契約書の利用目的に「一般乗用旅客自動車運送事業の営業所等として使用する」旨が記載されているか、貸主からの別途の使用承諾書が必要となります。 自動車車庫は、原則として営業所に併設します。併設が難しい場合でも、営業所からの直線距離が「2キロメートル以内」の範囲に設ける必要があります。 前面道路の幅員が車両制限令に抵触しないか、車両全体が確実に収容できる面積があるかどうかも審査の対象となります。 物件や駐車場を本契約する前に、これらの要件を満たしているか、行政の窓口等で事前にご確認いただくことをお勧めいたします。
5.最低限、どのような車両や設備が必要なのか(車種区分と運賃)
車両は1台から申請が可能です。購入だけでなく、リース契約の車両でも申請対象となります。 使用する車両には、車いす用のスロープやリフトなどを備えた「福祉自動車」のほか、福祉設備のない一般的なセダン型車両も認められます。ただし、セダン型を使用する場合は、乗務する運転者が介護福祉士、訪問介護員、居宅介護従業者等のいずれかの資格を有している必要があります。 運賃の設定においては、車両の「車種区分」を把握しておくことが大切です。原則として排気量等で区分されますが、車検証の用途が「特種(8ナンバー)」である福祉車両の場合、排気量に関わらず「乗車定員」のみで区分される特例があります。 介護タクシーの運賃は、運輸局が定めた「自動認可運賃」の幅(上限〜下限)から選択して申請します。距離制運賃(メーター)を導入せず「時間制運賃のみ」で営業する場合は、高額なタクシーメーターを設置する必要はありません。基本となる運賃を上限額で設定し、介助の度合いに応じた「基本介助料」や「機材レンタル料」などのオプション料金(認可不要)を組み合わせることで、持続可能な収益バランスを設計される事業者様が多く見受けられます。
6.最低限、いくら用意すればよいのか(資金要件と残高証明)

介護タクシーの許可審査において、資金要件は非常に厳格に確認されます。「一律〇百万円必要」という基準ではなく、提出する事業計画に基づいて算出された「所要資金」に対して、十分な自己資金が確保されているかが問われます。 具体的には、以下の両方を満たす必要があります。
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所要資金の50%以上の自己資金
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事業開始当初に要する資金の100%以上の自己資金
所要資金には、車両購入費(リースの場合は1年分)、施設賃料等、保険料(1年分)、各種税金に加え、2ヶ月分の運転資金(人件費、燃料費など)を計上します。 資金の証明として、金融機関が発行する「残高証明書」を2回(運輸支局での申請受付日時点のものと、後日運輸局が指定する任意の日付のもの)提出することが求められます。審査期間中(数ヶ月間)に、口座残高が一度でも必要な基準額を下回ってしまうと申請が取り下げとなってしまうため、事業用の資金は許可が下りるまで動かさずに確保し続ける点に十分なご留意が必要です。
7.準備は何から始めるのか
開業準備をスムーズに進めるためには、事前の計画と手順の整理が重要です。
①事業形態とコンセプトの決定: 個人事業か法人かを選択し、営業日、営業時間、想定する利用者の層、必要な車両台数と運転手の人数を計画します。
②施設・車両の候補選定: 計画に合わせて、営業所や車庫の候補地を探し、都市計画法等の法令に適合するかを確認します。また、車両の見積もりやリース料、任意保険料(事業用・対人8000万円以上、対物200万円以上)などを調査します。
③資金計画の作成: 集めた見積もりを基に資金計画表を作成し、必要な自己資 金が手元の口座に確保されているかを確認します。
ここまでの要件がクリアできることを確認した段階で、物件の賃貸借契約や申請書類の作成へと進むのが確実な流れとなります。要件の確認前に見切り発車で契約を進めてしまうと、後から許可基準に合致しないことが判明した場合に、費用だけが発生してしまうリスクがあります。
まとめ
介護タクシー事業は、個人事業主として車両1台、ご自身が運転者となる規模から始めることが制度上十分に可能です。
しかし、実際に運輸支局から営業許可を得るためには、運転免許や福祉車両の準備だけでなく、都市計画法等に適合する営業所・車庫の確保、適正な運行管理体制の構築、そして数ヶ月間にわたる厳格な自己資金の証明など、多岐にわたる要件を満たす必要があります。
「どのような利用者様にサービスを届けたいか」「持続可能な事業とするためにどのような体制・運賃設定が必要か」。これらを一つひとつ事業計画として具体化していくことが、許可取得、そして開業後の安定した事業運営への第一歩となります。
法人の設立登記、税務署への開業届、運輸支局への許可申請といった各手続きは、それぞれ管轄も目的も異なります。見切り発車で車両や物件を契約してしまい要件を満たせなかった、という事態を防ぐためにも、まずは本記事で整理した要件の全体像を把握し、順序立てて確実な準備を進めていくことが求められます。
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