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介護タクシーは1日何件で利益が出る?|売上・経費・必要受注件数の考え方

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はじめに:件数だけで黒字化を一律に判断できない理由

個人で介護タクシー(福祉輸送事業限定の一般乗用旅客自動車運送事業)を開業する際、生活を維持するためにどの程度の予約が必要かは、最も重要な関心事です。 しかし、「1日○件走れば黒字になる」という一律の基準はありません。近距離の通院が中心か、待機や付き添いを伴うかによって、1件あたりの売上高も拘束時間も大きく異なるためです。 お迎えに向かう迎車、診察を待つ待機、次の予約先への空車移動など、すべての「拘束時間」を考慮して件数を算出する必要があります。 本記事では、1人・1台で開業する場合を想定し、固定経費、売上目標、実務ルールから必要受注件数の論理的な組み立て方を解説します。

1.利益と客単価を決定づける「運賃と料金の二階建て構造」

介護タクシーの料金は、国が認可する「運賃」と、事業者が自由に設定できる「オプション料金(介助料等)」の二階建て構造です。 一階の「運賃」は、近畿運輸局の「自動認可運賃表」をベースに距離制や時間制などを選択・申請し、認可を受けます。通常の送迎には「距離制」を用いますが、観光や長時間の待機・付き添いを伴う場合は「時間制(貸切)」を適用することも可能です。 時間制運賃は標準の30分単位のほかに、10分や15分といった小刻みな時間に「短縮設定」して申請することも可能となっています。しかし、これは実質的な運賃が「割高」になりやすいため注意が必要です。 なぜなら、短縮した割合で運賃を日割り計算する際、10円未満の端数が生じるとルール上「切り上げ」処理されて単価自体が高くなるためです。さらに、時間制は「1分でも超過すれば次の1単位分が丸ごと加算される」という切り上げ加算のルールになっています。そのため、10分単位など細かく設定するほど、診察や会計のわずかな遅れで加算が次々と発生し、結果的に時間あたりの料金が実質的に高くなりやすくなります。利用者の負担増とトラブルを招きやすくなるため、実務上は標準の30分単位で申請するのが最善であり、大半の事業者もこの標準設定を採用しています。 二階の「オプション料金」は、乗降・移乗介助や、車いす・ストレッチャーのレンタル、院内付き添い等の対価であり、認可申請は不要です。 これらを組み合わせ、迎車・実車運賃に介助料やレンタル料を加え、平均客単価5,000円〜6,000円を目指すケースが多く見られます。

2.固定経費の整理と損益・資金繰りのズレ

必要件数を算出するためには、毎月発生する固定費を正確に把握しなければなりません。主な支出には、車両のローンやリース料、営業所・車庫の賃料、事業用任意保険料(対人8,000万円以上・対物200万円以上)、燃料費、車検代や定期点検費などの車両維持費があります。 ここで混同しやすいのが、帳簿上の「経費(損益)」と実際の「現金引き出し(資金繰り)」のズレです。 個人事業主の場合、自身の生活費や所得税、各種保険料は事業上の必要経費になりません。そのため、帳簿上の「事業利益」と、生活に必要な「手元資金」は分けて考える必要があります。 また、車両購入費は減価償却されますが、ローンの元金返済分は経費になりません。帳簿上は黒字でも、返済や生活費の引き出しで手元資金が不足することがあります。黒字倒産を防ぐため、損益と資金繰りの双方を確認することが重要です。

3.損益分岐点から逆算する月間必要売上高と1日の目標額

1人・1台で開業し、手元に必要な現金を残すための目標額を算出します。

  • 固定費(車両維持費、車庫代、保険料等):15万円
  • 生活資金(税・社会保険料等含む):30万円
  • 事業用の予備費(修繕等の積立):5万円

これら、売上の増減に関わらず毎月発生する「固定費」の合計は50万円です。 ここに、走る距離に応じて増えるガソリン代などの「変動費(売上の15%と仮定)」を考慮します。 赤字にならない(=利益がゼロ、あるいは必要資金を完全にまかなえる)売上高を導き出すには、経営計画でも使われる「損益分岐点売上高」の公式を用います。

目標売上高(損益分岐点売上高) = 固定費 ÷ (1 − 変動比率)

売上から15%の変動費が引かれるということは、手元に残る粗利益(限界利益)の割合は85%(1 − 0.15)になります。この「手元に残る 85%」で固定費50万円をまかなうために必要な総売上を逆算する仕組みです。

50万円 ÷ (1 − 0.15) = 約58万8,000円

月間稼働日数を「22日」とした場合、1日あたりの売上目標は以下の通りです。

58万8,000円 ÷ 22日 = 約2万7,000円

この約2万7,000円を基準に、想定する平均客単価から必要件数を逆算します。

4.平均客単価に基づく必要受注件数と時間管理

1日の目標2万7,000円に必要な予約件数は、平均客単価によって変動します。

平均客単価3,000円の場合(必要件数:9件)

近距離送迎のみで、介助料等を収受しないケースです。1台で1日9件をこなすのは、予約重複や渋滞などを考慮すると、物理的に極めて困難です。

平均客単価5,000円の場合(必要件数:5〜6件)

通院送迎に介助料や車いすレンタルを組み合わせるケースです。送迎を効率よく組めれば、1人・1台でも現実的な件数となります。

平均客単価8,000円の場合(必要件数:4件)

長距離送迎や病院内での付き添い、観光等での長時間の貸切(時間制運賃)を伴うケースです。件数は少ないですが拘束時間が長いため、診察遅延などのリスク管理が必要です。

件数を決めるのは運賃の高さだけではなく、介助内容と拘束時間のバランスです。

5.営業開始を遅らせないための実務申請スケジュール

介護タクシーを開業し、想定したシミュレーション通りに営業をスタートさせるためには、申請手続きにおけるスケジュール管理が不可欠です。 近畿運輸局では、営業許可の申請時に、運賃認可申請書を同時に提出します。運賃認可には期間を要するため、同時提出を怠ると許可取得後のメーター設定が行えず、営業開始が遅れます。ここで実務上のポイントとなるのが、時間制運賃の設定です。当初は時間制を導入するつもりがなくても、今後のために申請時に距離制と時間制のすべてに◯をつけておくことが推奨されます。変更したければ後日変更もできますが、あらかじめ申請しておくことで事業の幅を広げやすくなります。 また、自治体が発行する福祉タクシー利用券は、許可後に自治体(吹田市等)と個別に契約手続きを行わなければ取り扱えません。あらかじめ対象自治体の登録条件や請求方法を確認しておく必要があります。

まとめ:件数ではなく「売上・時間・距離」の三点から組み立てる

介護タクシーで利益を確保するために必要な件数は、事業者ごとに異なります。 「1日何件走るか」という結果の数字から入るのではなく、以下の手順に沿って論理的に組み立てることが実務上の鉄則です。

  1. 毎月の事業固定費と、確保すべき生活資金、予備費を算出する。
  2. 燃料費等の変動費率(15%等)を考慮し、月間の必要売上高を計算する。
  3. 稼働日数で割り、1日の必要売上目標額を導き出す。
  4. 提供するサービスから、現実的に稼働可能な「客単価」と「時間枠」を定め、必要な件数を決める。

実際の経営では、実車距離だけでなく迎車や空車の移動距離、乗降・付き添いにかかる時間(拘束時間)を時間軸で予測し、損益と資金繰りの双方に齟齬のない計画を立てることが、安全な開業と安定した経営の第一歩となります。

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