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運営指導・書類整備

利用者同士のトラブルが続いたら席を離してよい?|支援上の配慮と身体拘束・権利擁護の境界

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はじめに

障害福祉サービスや児童福祉サービスの現場において、利用者様同士の言い争いや突発的なトラブルへの対応は、日常の実務として避けて通ることはできません。 職員が間に入ってその場を収めた後、管理者やサービス管理責任者(児童発達支援管理責任者)のもとには、「同じ二人のトラブルが続いているため、明日からあらかじめ座る席を離してもよいか」という支援現場からの具体的な相談が頻繁に寄せられます。

他の利用者様の安全を守るためには物理的な距離を取る必要がありますが、一方で、「本人が希望しない席への移動を求め、そこに留まらせる行為は、本人の自由を制限する『身体拘束(行動制限)』や権利侵害に該当してしまうのではないか」という実務上の迷いが生じることも事実です。 結論から申し上げますと、ご本人が自由に移動でき、活動への参加機会も損なわれていない状態での「席の変更」であれば、それだけで直ちに基準違反や身体拘束に該当するとは考えにくいでしょう。

ただし、単に「席替え」という名目で処理して終わらせるのではなく、「どのような背景から、何のために、どのような方法で環境を調整したのか」という事業所内における検討と判断のプロセスを客観的な記録として残しておくことが、運営指導においても極めて重要となります。 本記事では、支援上の適切な配慮と、身体拘束・権利擁護の境界線について、運営指導の着眼点を踏まえた実務管理の方法を整理します。

1. 席を離す環境調整は、双方の権利と安全を守る適法なアプローチ

指定障害福祉サービス等の運営基準において、事業者には利用者様ご本人の安全だけでなく、周囲の他の利用者様の生命や身体を保護し、安全にサービスを提供する義務が課されています。したがって、暴言や威嚇、身体的接触などのトラブルが継続している際に、「身体拘束への懸念」から必要な介入を控えることは必ずしも適切とは言えません。

厚生労働省の『障害者虐待防止の手引き』においても、「他の利用者に暴力を振るう障害者に対して、何ら予防的手立てをしていない」ことは、虐待の類型の一つである「放棄・放置(ネグレクト)」に該当し得ると明記されています。

権利擁護とは、特定の一人の行動の自由を無制限に認めることではなく、被害を受けるおそれのある他者の安全を確保することと、移動を求める対象者の自由や人権への配慮を双方高い次元で成り立たせることです。 したがって、言い争いの直後に一時的に引き離す対応や、その後に座る席を離す、活動時間帯をずらす、個別に落ち着ける静かな空間(クールダウンエリア)を用意するといった「環境調整」を行うことは、双方の利用者様が安心して過ごすための極めて適法かつ適切な支援手順となります。

ただし、「トラブルを起こす特定の人物」と決めつけ、一方の利用者様のみを合理的な理由なく狭い個室に隔離するような、安易で偏った対応は「不適切な支援」として行政上指導の対象となる点には留意が必要です。

2.「客観的事実の把握」と「不適切な行動制限」を分ける境界線

席を離すなどの環境調整を検討・実施する際は、まず職員間で状況を客観的に検証するアプローチから開始します。

  • 毎回、特定の時間帯(昼食前の待ち時間、活動の切り替え時など)に発生していないか
  • 相手の特定の物音や声、視線に反応して興奮が始まっていないか
  • 隣り合う座席の間隔が狭く、パーソナルスペースが保てなくなっていないか
  • 言い争いが発生する直前、職員がどのような声かけや配置をしていたか

これら多角的な状況分析を行うとともに、日々の経過記録(ケース記録等)には「〇〇さんが感情的になってBさんに怒鳴った」といった主観的な評価ではなく、「12時10分、昼食を待っている時間。Bさんが机を繰り返し叩いたのに対し、隣に座っていたAさんが大声で『やめて』と怒鳴り、机を叩こうとした」というように、職員が見聞きした客観的な「事実」を記録する体制を徹底します。

席の変更が「適切な環境調整」となるか、あるいは「身体拘束(行動制限)」に抵触するかは、アプローチの具体的方法によって切り分けられます。

【環境調整と評価される望ましい手順】

ご本人に対して、トラブルの発生や周囲の状況(にぎやかさ等)を丁寧に説明した上で、「少しにぎやかなので、あちらの静かな席と、こちらの席のどちらが落ち着きますか」と選択肢を示し、本人の選択・納得のもとで座る位置を変更する手順です。興奮が収まったり周囲の状況が落ち着いたりした際には、適宜元の配置に戻すといった柔軟な対応を行うことは、本人の意思決定支援に配慮した適切な環境調整とみなされます。

【身体拘束・不適切な行動制限と判断される事例】

本人が席を立って自由に移動することを職員が前に立ち塞がって拒む、机や周囲の什器を物理的に配置して動線を塞ぎ座席から出られないようにする、終了時期や見直しの期日を定めずに長期間にわたってフロアから隔離した場所に座らせ続ける、といった手順です。 運営基準が禁止している「身体拘束等」には、直接身体をロープ等で縛る行為(直接的拘束)だけでなく、「その他利用者の行動を制限する行為(物理的・精神的に行動の自由を奪う行為)」も含まれます。威圧的な声かけや態度によって着座を強制することは、心理的虐待や不適切な支援(虐待の芽)に直結するおそれがあります。

3.やむを得ず「身体拘束(行動制限)」を行う場合の3原則と4大措置

トラブルの激しさから、どうしても一時的に本人の行動を制限(自傷他害防止のための制止や隔離等)せざるを得ない場合には、以下の「緊急やむを得ない3要件」をすべて満たしていることが前提となります。

  1. 切迫性:利用者本人または他の利用者等の生命や身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと
  2. 非代替性:身体拘束その他の行動制限を行う以外に、安全を確保できる代替手段がないこと
  3. 一時性:行動制限が一時的な対応であり、目的を達成した後は速やかに解除されること

行政の運営指導において、やむを得ず行動制限を行った日があるにもかかわらず、以下の「4つの義務措置」のいずれか1つでも未実施、あるいは記録が不足している場合、指定基準違反(身体拘束廃止未実施減算)が遡及適用されることになります。

【身体拘束廃止未実施減算を回避する4つの基準】

措置①:徹底した経過の記録(実施した都度、時間、利用者の心身の状況、緊急やむを得ない理由等の詳細記録)

措置②:適正化委員会の定期開催(最低年1回以上の委員会開催と、検討結果の全スタッフへの周知)

措置③:適正化のための指針整備(基本的な考え方、対応フロー等を定めたマニュアル等の策定)

措置④:定期的な職員研修の実施(年1回以上の全従業者向け研修。新規採用時の実施は必須)

減算割合は、施設・居住系サービス(グループホーム等)の場合は基本報酬の10%減算、通所・訪問系サービス(生活介護、放デイ等)の場合は基本報酬の1%減算と規定されており、長期化すると事業運営に致命的な打撃を与えます。

一体開催・研修共通化による実務の省力化テクニック 多忙な日常支援の中で、身体拘束と虐待防止のための各種会議や研修を別々に実施することは現場の疲弊を招きます。 国の解釈通知等においては、これらの実務負担を軽減するため、「身体拘束適正化検討委員会は、虐待防止委員会と一体的に設置・運営(同日・一体開催)して差し支えない」、また「身体拘束に関する研修は、虐待防止に関する研修と一体的に実施(共通のプログラム内に身体拘束のテーマを組み込む)して差し支えない」と明確に定められています。これらを年間の定例スケジュールに一体的に組み込んでおくことで、義務要件を漏れなくクリアしながら業務効率化を図ることが可能です。

なお、自所の職員だけで対応に苦慮する困難事例である場合は、これらを抱え込まずに、担当の相談支援専門員や市町村(指定権者)、基幹相談支援センター等の外部機関に対して、実務的な支援方法のアドバイスを求める「外部連携」を並行して実行することが強く推奨されます。

4.運営指導で厳格に突合される「目視(現認)」と「書類の整合性」

自治体による運営指導においては、書面上の記述だけで身体拘束の有無が判断されることはありません。 行政の監査員は、当日にフロアを直接巡回(目視)し、車いすのベルト、ベッドの四方柵、活動スペースや玄関・勝手口等の不適切な施錠など、利用者の移動の自由を奪う状況がないか、実際の生活実態を厳格に確認(現認)します。

万一、やむを得ない事情から一時的な行動制限(身体拘束)を実施している利用者がいる場合、運営指導においては以下の「3つの書類の完全な整合性(つながり)」が厳しく照合(クロスチェック)されます。

  1. 個別支援計画(計画書):どのような理由から、どのような身体拘束(または行動制限)をいつまで実施するのか、具体的な態様と時間が明記されているか。
  2. 説明同意書:3原則(切迫性、非代替性、一時性)を満たすやむを得ない事情について、本人または保護者に対して事前に十分な説明を行い、客観的な署名等による合意(同意)を得ているか。
  3. 日々の支援記録(経過記録等):実施したその日付、具体的な時間帯、その際のご本人の様子、緊急やむを得ない事情が、1回の手抜きもなく、すべて時系列で一貫して詳細に記録されているか。

書類間で日付の不整合(ズレ)があったり、個別計画に載っていない拘束が日々の記録から見つかったり、あるいは「家族の同意があるから」という理由だけで日々の経過記録を怠っていたりした場合、運営指導において厳格な減算指摘(または指導監査から監査への移行)を招く原因となります。

まとめ

トラブル時に「席を離す(席替え)」という対応そのものが直ちに不適切な支援となるわけではありません。 大切なのは、席の位置という「結果」だけで捉えるのではなく、そこに至る「アセスメントと客観的な判断のプロセス」を記録という仕組みに正しく組み込んでおくことです。

現場職員の個人の誠実さや注意深さだけに依存するのではなく、「アセスメント、意思確認、組織決定、説明同意、その都度の経過記録」という標準的な意思決定支援のステップを日常の業務フロー(進捗チェック表等)に組み込み、自然と書類のつながりが整理されるシステムを構築することこそが、利用者様の尊厳を守り、同時に現場で働くスタッフと事業所を法律から強固に守るための最大の防衛策(権利擁護)へとつながります。

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