はじめに
障害福祉サービスや障害児通所支援の事業所で、処遇改善計画書を作成する際、「賃金改善見込額はどのように計算すればよいのか」と迷われることはないでしょうか。
処遇改善計画書は、過去の給与台帳や賃金規程を確認し、今後の支給予定から賃金改善見込額を計算して作成します。
その際、加算による継続分・新規増額分と、加算以外の定期昇給を区別します。
今回は職員別の計算例から、令和8年度に必要な「改善の総額・月額賃金への配分・加算増額分への新たな改善」の確認までを説明します。
1.処遇改善計画書を作る前に、何を準備する?

最初に、事業所が算定する処遇改善加算の区分と、対象期間の加算見込額を確認します。
加算見込額は、利用者数や報酬単位数、算定する加算区分などをもとに見積もります。
そのうえで、職員の賃金改善見込額を計算するため、次の資料を準備します。
・給与台帳:基本給、各種手当、賞与の支給状況
・雇用契約書・労働条件通知書:賃金額や勤務条件
・就業規則・賃金規程:処遇改善手当の支給条件
・前年度の処遇改善計画書・実績報告書:これまでの改善内容
・職員名簿・勤務予定表:対象職員、在籍期間、勤務時間
確認するのは、給与のうち、どの部分が加算による賃金改善に当たるかという点です。
なお、令和8年度は6月から加算区分や加算率等の見直しが行われているため、4・5月と6月以降の算定内容を区別して確認します。
2.給与台帳で「加算による改善分」を確認する
給与台帳では、加算によって基本給・手当・賞与に上乗せした部分を確認します。
例えば、生活支援員Aさんの給与が、次のとおりだったとします。
| 給与項目 | 月額 |
| 基本給 | 230,000円 |
| 処遇改善手当 | 20,000円 |
|
給与合計 |
250,000円 |
この例では、基本給230,000円に加算による改善分は含まず、別に処遇改善手当20,000円を支給していたとします。この手当を継続する場合、今年度の支給予定に含めて計算します。
手当の名称だけで判断せず、賃金規程や過去の計画書と照合します。基本給に改善分を組み込んでいる場合は、その金額も確認します。
Q&A問1-1では、賃金改善額を「改善後の賃金」と「加算を算定しない場合の賃金」の差として捉えています。
比較の基準は、原則として初めて加算・旧3加算・交付金等を算定した年度の前年度です。推計が難しい場合は、令和7年度の賃金から加算・交付金等を原資とする額を除く方法なども認められています。
前年度の給与との差額が、そのまま賃金改善額になるわけではありません。
【加算以外の定期昇給がある場合】
例えば、自己財源による定期昇給で基本給を3,000円上げ、加算による手当を5,000円増額すると、月給は258,000円になります。
給与の増加8,000円のうち、加算による新規増額分は5,000円です。継続分20,000円と合わせた月25,000円を、加算による改善分として整理します。
ここでは、定期昇給3,000円を加算以外による昇給として区別しています。
3.継続分と新規増額分を分けて計算する
Aさんの処遇改善手当を月20,000円から25,000円へ増額し、12か月支給する例です。
【図① Aさんの年間賃金改善見込額】

※12か月支給する仮定例です。6月から増額する場合などは、計画書で設定した実施期間内の対象月数で計算します。
年間見込額は、継続分240,000円と新規増額分60,000円を合わせた300,000円です。加算による改善分と確認できれば、継続分も含められます。
総額だけでなく、加算増額分に見合う新たな改善があるかも確認するため、継続分と新規増額分を分けて集計します。
支給時期はQ&A問1-8-1を確認し、計画書で設定した実施期間にそろえます。
4.職員別の見込額を合計する
ほかの職員も同じ方法で計算し、合計します。
次の図は、就労継続支援B型事業所の計算対象者3名を取り上げた例です。
【図② 職員別の年間賃金改善見込額】

※計上可能な改善分を示した仮定例です。Aさんは毎月の手当、Bさん・Cさんは毎月の手当と賞与による改善を想定しています。
3名の合計は600,000円で、継続分420,000円、新規増額分180,000円となります。
集計表には「基本給・毎月の手当・賞与」の内訳も残し、月額賃金改善要件の確認に使います。
年度途中の採用・退職は、支給予定月数に反映します。職員の入れ替わりによる給与総額の変化は、Q&A問1-2を踏まえ、加算による改善額と区別します。
5.法定福利費等の増加分を加える

賃金改善に伴って増える健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料などの事業主負担分も、見込額に含められます。
Q&A問1-7では、合理的な方法による概算も認められています。使用した保険料率と計算方法を残します。
事業主負担の増加分を年間60,000円と見積もった場合、合計は次のとおりです。
・職員への賃金改善見込額:600,000円
・法定福利費等の事業主負担増加分:60,000円
・賃金改善見込額の合計:660,000円
対象は、加算による賃金改善に対応する増加分です。保険料の全額や、任意加入の退職手当共済制度等の掛金増加分は含めません。
6.賃金改善の金額を3つの視点で確認する
① 改善見込額の総額が加算見込額以上か
職員への改善見込額に法定福利費等の増加分を加え、加算見込額と比較します。
年間の加算見込額が650,000円の場合は、次のとおりです。
| 確認項目 | 金額 |
| 年間加算見込額 | 650,000円 |
| 職員への賃金改善見込額 | 600,000円 |
| 法定福利費等の増加分 | 60,000円 |
| 賃金改善見込額の合計 | 660,000円 |
|
差額 |
+10,000円 |
改善見込額660,000円が加算見込額650,000円以上となっています。同額でも、総額の条件は満たします。
② 月額賃金改善要件を満たしているか
就労継続支援B型など、従来からの対象サービスでは、加算Ⅳ相当額の2分の1以上を、基本給または決まって毎月支払われる手当の改善に充てます。
例えば、加算Ⅳ相当額が年間400,000円なら、基本給等による改善は年間200,000円以上必要です。算定する加算額全体の2分の1ではなく、賞与等を含む改善総額でも判定しません。
③ 加算増額分に見合う新たな賃金改善があるか
令和8年度は、新規算定・上位区分への移行・6月以降の加算率引上げによる増加分に相当する、新たな賃金改善も必要です。過去の賃上げ実績だけでは満たせません。
新規改善は、基本給や毎月の手当を一律に引き上げるベースアップを基本とします。それだけでは対応できない場合は、その他の手当・一時金等との組合せも認められています(基本通知2(2))。
別の仮定例として、加算増額分が200,000円、対応する法定福利費等の増加分を含めた新規改善見込額が180,000円なら、20,000円不足します。総額が足りていても、この内訳の確認が必要です。
③は①の総額の内訳です。別に同額を追加支給する意味ではありません。毎月の基本給・手当で新規改善を行えば、②の確認にも関係します。
④確認した金額を計画書に反映する
確認した金額を、指定権者が案内する計画書に入力します。大阪府掲載の令和8年度様式では、6月以降も算定する場合、別紙様式2-3の記入も必要です。
キャリアパス要件・職場環境等要件など、金額以外の算定要件も別途確認します。
まとめ
賃金改善見込額は、給与台帳などで改善分を確認し、今後の支給予定から計算します。
作業では、次の点を押さえます。
・加算以外の昇給と、加算による継続分・新規増額分を区別する
・職員別の改善見込額を合計し、法定福利費等の増加分を加える
・総額・月額賃金への配分・加算増額分への新たな改善を確認する
継続分と新規増額分を分けることで、総額と新たな改善額の両方を確認できます。
職員別の内訳と計算根拠は、年度終了後の実績報告にも使えるよう保管します。
(参考資料)
1.「福祉・介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」(令和8年度分)(令和8年3月31日)(厚生労働省・こども家庭庁)
・主に2(1)、2(2)、3を参照。加算額の算定、賃金改善の実施、令和8年度の新たな賃金改善、月額賃金改善要件等を記載。
2.「福祉・介護職員等処遇改善加算に関するQ&A(第1版)」(令和8年4月9日)(厚生労働省・こども家庭庁)
・主に問1-1、問1-2、問1-3、問1-4、問1-7、問1-8-1を参照。賃金改善の基準点、職員構成の変化、基本給等、法定福利費等、賃金改善実施期間について記載。
3.「令和8年度福祉・介護職員等処遇改善加算」掲載の処遇改善計画書・記載例」(令和8年8月3日改訂版)(大阪府)
・別紙様式2-1、2-2、2-3及び記載例を参照。加算見込額、賃金改善見込額、月額賃金改善要件等の記載方法を確認できる資料。