はじめに
障がい福祉サービスや障がい児通所支援の事業所で、処遇改善加算の計画書や実績報告書を作成する際、「どの数字を入力すればよいのか分からない」と悩まれることはないでしょうか。
特に、加算額と賃金改善額の比較、法定福利費の計算、月額賃金改善要件の確認は、混同しやすい部分です。
計画書と実績報告書の数字は、必ず一致するものではありません。大切なのは、実際の加算額に対して必要な賃金改善を行い、計算の根拠を説明できることです。
今回は、架空の事業所の計算例を使いながら、数字が合わないときの確認方法を解説します。
なお、計算例は令和8年度の障がい福祉サービス事業所を想定しています。実際の作成では、算定する加算区分や対象期間、最新の通知・様式に従って確認してください。
1.計画書と実績報告書の数字はなぜ違う?

計画書と実績報告書では、使用する数字の性質が異なります。
- 計画書:これから算定する加算額と、実施する賃金改善額の見込み
- 実績報告書:実際に算定した加算額と、実施した賃金改善額
例えば、ある事業所で、次のような計画を立てたとします。
- 年間の加算見込額:1,200,000円
- 年間の賃金改善見込額:1,250,000円
年度終了後に確認すると、実績は次のとおりでした。
- 実際の加算額:1,070,000円
- 実際の賃金改善額:1,100,000円
利用者数や報酬単位数、加算区分の変更などによって、実際の加算額が見込みと異なることはあります。職員の入退職や給与改定により、賃金改善額が変わる場合もあります。
この例では、実際の賃金改善額が加算額を30,000円上回っています。
計画額との差だけを見るのではなく、まず実際の加算額と賃金改善額を比較します。
ただし、この比較だけで、すべての算定要件を確認できるわけではありません。月額賃金改善要件なども別に確認する必要があります。
2.賃金改善額は給与総額の差額ではない
例えば、事業所全体の給与総額が次のように変化したとします。
- 前年度の給与総額:24,000,000円
- 今年度の給与総額:25,000,000円
- 差額:1,000,000円
この1,000,000円を、そのまま処遇改善加算による賃金改善額にできるとは限りません。
給与総額が増えた理由には、次のような事情も考えられるためです。
- 新しい職員を採用した
- 職員の勤務時間が増えた
- 加算とは別に、法人独自の昇給を行った
国の「福祉・介護職員等処遇改善加算に関するQ&A(第1版)」(令和8年4月9日、問1-1)では、改善後の実際の賃金水準と、加算を算定しない場合の賃金水準を比較する考え方が示されています。
例えば、加算による毎月の手当を前年度から継続して支給している場合、その改善分も確認対象になります。「前年より増えた額だけ」を集計すると、継続している改善分を見落とす可能性があります。
給与総額の増減と、加算による賃金改善額を分けて整理することが大切です。
3.加算額と賃金改善額を計算してみる

ここからは、一つの就労継続支援B型事業所を例に、順番に計算します。
年度終了後、年間の処遇改善加算額は1,070,000円でした。
一方、職員への賃金改善額を給与資料から集計すると、次のとおりでした。
- 基本給による改善額:480,000円
- 毎月の処遇改善手当:300,000円
- 賞与による改善額:200,000円
- 合計:980,000円
加算額と比較すると、
1,070,000円-980,000円=90,000円
となり、給与・手当・賞与による改善額だけでは、90,000円不足しています。
ただし、ここで不足と判断する前に、もう一つ確認したい項目があります。賃金改善に伴って増加した、法定福利費等の事業主負担分です。
なお、この例では、各金額が加算による賃金改善として計上できることを前提としています。賞与の支給総額や、加算による改善とは関係のない給与を含めないようにします。
4.法定福利費等を加えるとどうなる?
賃金を引き上げると、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料などの事業主負担も増える場合があります。
処遇改善加算では、賃金改善に伴って増加した法定福利費等の事業主負担分を、賃金改善額に含めることができます。
国の令和8年度Q&A問1-7では、合理的な方法に基づく概算計算も認められています。法人が負担した保険料の全額や、任意加入の退職手当共済制度等の掛金を、そのまま含めるものではありません。
先ほどの事業所で、対象となる事業主負担増加分を計算した結果、120,000円だったとします。
賃金改善額の合計は、
980,000円+120,000円=1,100,000円
となります。
これを加算額と比較すると、
1,100,000円-1,070,000円=30,000円
となり、賃金改善額が加算額を30,000円上回りました。
120,000円は、今回の計算例で設定した仮の金額です。実際には、職員の保険加入状況や適用される保険料率などを踏まえて計算します。
管理表には、職員への支給額と事業主負担増加分を分け、使用した保険料率や計算式も残しておくと確認しやすくなります。
5.加算Ⅳ相当額の2分の1も確認する
ここまでで、賃金改善額の合計が加算額を上回ることを確認しました。
次に確認するのが、基本給または決まって毎月支払われる手当による「月額賃金改善要件」です。
従来から対象となっているサービスでは、原則として、加算Ⅳ相当額の2分の1以上を基本給等の改善に充てます。上位区分を算定している場合も、実際の加算総額の半分ではなく、仮に加算Ⅳを算定した場合の金額が基準になります。
今回、対象期間の加算Ⅳ相当額が392,000円だったとします。
392,000円÷2=196,000円
一方、基本給と毎月の手当による改善額は、次のとおりです。
- 基本給による改善額:480,000円
- 毎月の手当による改善額:300,000円
- 合計:780,000円
780,000円は196,000円以上であるため、この例では加算Ⅳ相当額の2分の1以上という要件を満たしています。
今回の196,000円は、基本給や毎月の手当によって、年間で改善する必要がある金額です。この事業所では年間780,000円を改善しているため、この要件を満たしています。
また、この計算の780,000円には、賞与や法定福利費等の増加分を含めていません。手当についても、名称だけでなく、支給条件を確認します。
なお、令和8年6月以降に加算Ⅰロ・Ⅱロを算定する場合は、令和8年度特例要件に基づく基本給等への配分も別途確認が必要です。今回の196,000円との比較だけで、ロ区分の要件まで確認できるわけではありません。
6.数字が合わないときは、どこから確認する?

計算結果が合わないときは、次の順番で資料を照合してみてください。
① 加算額の集計元を確認する
国保連から送付される加算総額・内訳のお知らせなどを基に、事業所ごとの加算額を確認します。令和8年度の実績報告書の記入上の注意でも、これらのお知らせに基づく記入が示されています。
通帳への振込額を、そのまま処遇改善加算額として入力しないことが大切です。
利用者負担が発生する場合も含め、確認するのは加算全体の額です。ただし、国保連のお知らせに利用者負担分を含む総額が表示されていれば、別に上乗せする必要はありません。
また、サービス提供月と入金月を区別し、対象年度分の集計になっているか確認します。
② 賃金改善の集計期間を確認する
計画書で設定した賃金改善実施期間と、給与台帳から集計した期間を照合します。
年度末の給与や賞与について、支給月のずれによる集計漏れがないかも確認します。
③ 支給総額と改善額を区別する
基本給や賞与の支給総額を、そのまま改善額にしていないか確認します。同じ手当を給与一覧と別の管理表で二重に計上していないかも照合します。
④ 法定福利費等の計算根拠を確認する
賃金改善に対応する事業主負担増加分について、対象職員、保険料率、計算式を確認します。
⑤ 月額賃金改善要件を別に確認する
賃金改善額の合計とは別に、基本給等による改善額を集計し、自事業所に適用される基準額と比較します。
確認後も賃金改善額が加算額を下回る場合は、そのままにせず対応を整理します。
国の令和8年度Q&A問1-9では、不足は返還の対象となる一方、不足分を賞与等の一時金として追加配分することで、返還を求めない取扱いも示されています。具体的な手続は、指定権者に確認して進めます。
不足額を埋めるために、根拠のない数字を入力して帳尻を合わせることはできません。
まとめ
処遇改善加算の計画書は見込み、実績報告書は実際の加算額と賃金改善額を基に作成します。
今回の例では、職員への改善額980,000円に、対象となる法定福利費等の増加分120,000円を加え、合計1,100,000円となりました。
また、基本給等による改善額780,000円について、加算Ⅳ相当額の2分の1である196,000円との比較も行いました。
加算額、職員への改善額、法定福利費等の増加分、基本給等による改善額を分けて管理することが、確認の出発点です。
給与台帳や国保連のお知らせと管理表を毎月照合しておくと、差額の原因を見つけやすくなり、年度末の実績報告にもつながります。
(参考資料)
1.「福祉・介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」(令和8年度分)、別紙様式3(実績報告書)(令和8年3月31日)(厚生労働省・こども家庭庁)
2.「福祉・介護職員等処遇改善加算に関するQ&A(第1版)」問1-1~問1-3、問1-7、問1-8-1、問1-9(令和8年4月9日)(厚生労働省・こども家庭庁)
3.「令和8年度福祉・介護職員等処遇改善加算」掲載の処遇改善計画書・記載例(令和8年8月3日付改訂版)(大阪府)