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はじめに
障害福祉サービスの利用者に成年後見人が付いているため、利用契約書には成年後見人に署名してもらっている。
障害福祉事業所では、このような場面も珍しくありません。
その成年後見制度について、令和8年(2026年)6月に大きな法改正が成立しました。
ただし、令和8年9月現在、すでに新しい制度へ移行したわけではありません。今すぐ利用契約書や重要事項説明書を新制度に合わせて変更する段階でもありません。
では、障害福祉事業所は今、何を確認しておけばよいのでしょうか。
今回は成年後見制度そのものを詳しく解説するのではなく、利用契約や個別支援計画に関係する部分に絞って、現在の制度がどうなっているのか、今後どのように変わるのか、令和8年9月時点で事業所が確認しておきたい事項を整理します。
1.現在は「後見・保佐・補助」の3類型です

現在の法定後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて次の3つに分かれています。
- 後見:契約や財産管理などについて、自分で判断する能力を欠いていることが通常の状態にある方を対象とする制度
- 保佐:契約や財産管理などについて、自分で判断する能力が著しく不十分な方を対象とする制度
- 補助:契約や財産管理などについて、自分で判断する能力が不十分な方を対象とする制度
そして、それぞれ本人を支援する人を、成年後見人・保佐人・補助人といいます。
ここで障害福祉事業所が押さえておきたいのは、成年後見人・保佐人・補助人では、本人に代わって行える法律行為の範囲が同じではないということです。
例えば、利用者に補助人が付いていると聞いただけで、その補助人が障害福祉サービスの利用契約を本人に代わって締結できるとは限りません。
大阪家庭裁判所も、現在の保佐・補助について、必要に応じて特定の法律行為に関する代理権を付与する申立てが必要になることを案内しています。
つまり、現在の制度でも、「後見人等がいるか」だけではなく、誰に、どの範囲の権限があるのかを確認することが重要です。
2.令和8年の改正で何が変わるのか
令和8年6月17日に「民法等の一部を改正する法律」が成立し、同月24日に公布されました。
成年後見制度について特に大きな変更となるのが、現在の後見と保佐を廃止し、補助制度に一元化することです。
改正後は、現在のように判断能力の程度によって後見・保佐・補助の類型に分けるのではなく、本人に必要な事項について代理権や取消権などを付与する制度へ見直されます。
また、判断能力を欠くことが通常の状態にある人については、「特定補助人」の仕組みが設けられます。
障害福祉事業所の立場から見ると、制度の名称以上に重要なのは、「成年後見人だから広く任せればよい」という考え方ではなく、その利用者について、誰にどのような支援や権限が必要なのかを個別に確認する制度へ変わるという点です。
3.新しい制度はいつから始まる?

ここは誤解しやすいところです。
改正法はすでに成立・公布されていますが、成年後見制度の見直し部分については、公布の日から2年6か月を超えない範囲内で、政令により定める日に施行されます。
したがって、令和8年9月現在は、まだ新制度ではありません。現在も「後見・保佐・補助」の現行制度が適用されています。
そのため、今の時点で新制度を前提として、利用契約書や重要事項説明書を全面的に作り直す必要はありません。
今後、具体的な施行日や経過措置、関係する法令・通知等が示された段階で、改めて確認することになります。
4.今、まず確認したいのは「誰が契約しているか」
制度改正を待たず、事業所が今から確認できることがあります。
例えば、新規利用者Aさんについて、家族から次のように言われたとします。
「Aには成年後見人が付いていますので、契約は成年後見人にお願いします」
ここで事業所が確認したいのは、次の2点です。
- その人が成年後見人等であるのか
- 今回の利用契約を代理する権限があるのか
成年後見人等の地位や権限は、戸籍ではなく、法務局の成年後見登記に係る登記事項証明書によって確認します。
厚生労働省の介護・障害福祉事業者向け資料でも、成年後見人等と契約する場合には、登記事項証明書の提示を求めることで、本人との関係や代理権の有無などを確認できると案内しています。
実務上は、成年後見人等から登記事項証明書の提示を受け、次の事項を確認します。
- 成年後見人等の氏名
- 後見・保佐・補助の別
- 今回の契約に関係する代理権
確認後は、次のような事項を記録しておくと、後から契約手続を説明しやすくなります。
- 登記事項証明書を確認した日
- 確認した職員
- 契約に関する権限を確認したこと
証明書のコピーを一律に保管する必要があるとは限りません。
登記事項証明書は個人情報を含む書類です。コピーを当然に徴収するのではなく、必要な事項を確認し、その確認記録を残す方法も考えられます。
5.「成年後見人の意向」と「本人の希望」は分けて考える
もう一つ確認したいのが、個別支援計画です。
例えば、次のような状況が考えられます。
- 家族は「今の事業所を利用し続けてほしい」と考えている
- 成年後見人も利用継続がよいと考えている
- しかし、本人は別の作業や活動に関心を示している
このような場合、本人の希望、家族の意向、成年後見人等の意見を区別して整理することが重要です。
厚生労働省の「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」は、サービス等利用計画や個別支援計画を作成し、サービスを提供する際の本人の意思決定について、基本的な考え方や支援の枠組みを示しています。
さらに、成年後見人側についても「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」が示されています。
このガイドラインでは、成年後見人等を含む支援者が、本人を意思決定の中心に置き、本人の意思決定を支援する考え方が示されています。介護・福祉サービス事業者と成年後見人等が、チームとなって支援することも想定されています。
つまり、成年後見人等に権限があることと、本人自身の意思を確認することは別の問題です。
言葉による意思表示が難しい利用者であっても、日頃の発言、表情、行動、選択、過去の生活歴などから、本人の意思や選好を確認します。
そのうえで、次の点が分かるように記録しておく必要があります。
- どのように本人の意思を確認したのか
- それを個別支援計画にどう反映したのか
6.令和8年9月現在、事業所が確認しておきたい5つのこと

新制度に備えて新しい書類を増やすより、まず現在の利用者について、次の5点を確認してみてください。
① 成年後見制度を利用している利用者を把握する
成年後見・保佐・補助のいずれを利用しているのかを確認します。
② 利用契約書に誰が署名しているか確認する
本人、成年後見人等、家族の誰が契約に関与しているのかを確認します。
家族であるというだけで、当然に本人を代理できるわけではありません。
③ 成年後見人等の権限をどう確認しているか確認する
登記事項証明書の提示を受けるなどして、その人の地位と契約に関する代理権を確認する運用になっているかを点検します。
④ 個別支援計画の「本人の希望」を確認する
本人の希望と、家族・成年後見人等の意向が混在していないかを確認します。
⑤ 本人の意思確認の経過が記録されているか確認する
「本人同意済み」とだけ記載するのではなく、どのように説明し、本人がどのような反応や選択をしたのかが分かる記録になっているかを確認します。
また、成年後見制度について事業所だけで判断しにくいケースでは、市町村の相談窓口や地域の中核機関と連携することも考えられます。
大阪府は府内市町村の成年後見制度相談窓口を公表しており、中核機関を「権利擁護支援の地域連携ネットワークの中核となる機関」と位置付けています。
まとめ|今は「新制度への書類変更」より「現在の運用確認」
成年後見制度の見直しはすでに法律として成立しましたが、令和8年9月現在はまだ施行前です。
したがって、現時点で利用契約書や重要事項説明書を新制度に合わせて全面的に変更する必要はありません。
むしろ今確認しておきたいのは、次の3点です。
- 成年後見人等がいる利用者について、契約時の権限確認ができているか
- 本人の意思と、家族・成年後見人等の意向を区別できているか
- 本人の希望が個別支援計画や支援記録につながっているか
これは、将来の制度改正への準備というだけではありません。
成年後見人等の代理権確認や、本人の意思を個別支援計画へ反映することは、現行制度の下でも確認しておきたい事項です。
今後、新制度の施行日や経過措置、障害福祉サービスに関係する通知等が示された段階で、契約書や重要事項説明書、事業所内の確認方法を改めて点検することになります。
令和8年9月現在は、「新制度に合わせて書類を変える時期」ではなく、「現在の契約と本人の意思決定支援の流れを確認する時期」と考えるとよいでしょう。
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