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障害福祉サービス全般

【実務解説】障がい福祉サービスにおけるBCP運用のポイント:運営指導に対応する研修・訓練と見直しの工夫

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はじめに

令和6年度の報酬改定により、全ての障がい福祉サービス事業所において、感染症および自然災害に対する業務継続計画(BCP)の策定と運用が完全義務化されました。 日々の利用者様への支援や事務作業に追われる中で、「分厚いBCPを作成したものの、現場に周知する時間が取れない」「いざという時に本当に動けるのか不安がある」といったお悩みを抱えられている管理者様も多いのではないでしょうか。 BCPの本来の目的は、立派な書類を作ることではなく、万が一の事態が発生した際に、利用者様の安全を確保しながら必要なサービスを無理なく継続できる「仕組み」を作ることにあると考えられます。 本記事では、多忙な経営者様や管理者様に向けて、運営指導(旧:実地指導)の基準を満たしつつ、現場の負担を最小限に抑えながらBCPを運用(研修・訓練・見直し)していくための具体的な実務ポイントを一緒に整理してみたいと思います。

1. 運営指導(監査)で確認される要件と「減算リスク」

現在の制度において、行政が運営指導で確認するのは「BCPという書類が存在するかどうか」だけではありません。計画が形骸化していないか、以下の運用状況が厳しく確認されます。

業務継続計画未策定減算の適用要件

令和6年4月以降、以下の要件を満たしていない場合、「業務継続計画未策定減算」として、基本報酬から所定単位数の1%または3%(通所・訪問系等は1%、施設・居住系等は3%など、サービス種別により異なります)が減算される規定となっています。

  • 感染症および非常災害の発生時における業務継続計画が未策定の場合
  • 業務継続計画は策定しているが、当該計画に従い、従業者に対して「研修」および「訓練」を行う等、必要な措置を講じていない場合

つまり、書類があっても「研修・訓練」の実施記録がなければ、減算の対象となるリスクがあります。過度なプレッシャーを感じる必要はありませんが、日常の業務内に無理なくこれらを組み込む仕組みづくりをご検討いただくことをおすすめします。

2. 現場の負担を抑える「研修・訓練」の実施ノウハウ

BCPにおける研修と訓練は、原則として年1回以上(施設入所支援等については年2回以上)の実施が義務付けられています。これらを効率的に実施するための工夫を2つご紹介します。

「机上訓練(シミュレーション)」の活用

訓練というと、大規模な避難訓練をイメージされるかもしれませんが、厚生労働省や各自治体のガイドラインでは「机上訓練(シミュレーション)を含めその実施手法は問わない」とされています。 例えば、毎月の職員会議や申し送りの時間の「最初の15分」を活用し、「今、大雨で送迎車が出せなくなったらどうするか」「夜勤帯で停電したら誰が何をするか」といった具体的なシチュエーションを設定し、職員同士で話し合うだけでも立派な訓練実績として評価されます。

他の訓練との「合同実施(一体的実施)」

障がい福祉サービスでは、BCPとは別に「感染症及び食中毒の予防及びまん延の防止のための措置」に基づく研修・訓練の実施も求められています。これらを別々に開催すると現場の負担が倍増してしまいますが、行政の指針では「感染症の業務継続計画に係る訓練は、感染症の予防及びまん延の防止のための訓練と一体的に実施することも差し支えない」と明記されています。実施記録のテーマ欄に両方を兼ねている旨を記載することで、事務負担を大きく削減することが可能です。

3. 運営指導で客観的証拠となる「記録(議事録)」の残し方

研修や訓練を実施した後は、その事実を証明するための「記録(議事録)」を残し、原則5年間保存しておくことが求められます。以下の項目をフォーマット化しておくことで、監査担当者に対して「実効性のある運用をしている」という客観的な証明になります。

  • 実施日時・参加者名簿: ここで重要なのは「出勤簿(シフト表)との整合性」です。参加したことになっている職員が当日公休になっていないか、必ず事務的な照合を行ってください。
  • 具体的なシチュエーション: 「地震を想定」だけでなく、「平日14時、職員〇名体制時に震度6の地震が発生した想定」など、前提条件を記載します。
  • 抽出された課題と改善案: 行政が最も重視するのは「完璧にできたか」ではなく「課題を見つけ、どう改善したか」というプロセスです。懐中電灯の電池が切れていたため、置き場所とチェック担当を変更した」など、1行でも改善アクションを記載しておくことが、非常に高い評価に繋がります。

4. BCPを形骸化させない「見直し」と「引き算」の視点

作成したBCPや、訓練で見つかった課題を見直す際、最初から全体を大きく作り直す必要はありません。以下の視点を取り入れることで、実務に即した見直しが可能となります。

「引き算」による優先業務の整理

災害や感染症の発生時、職員が通常の半数以下になることも想定されます。平時と全く同じサービスを提供することは不可能です。そのため、BCPにおいては「何を足すか」よりも、「絶対に止めない業務(食事・排泄・医療的ケアなど)」と「一時休止・縮小する業務(記録作業や通常プログラムなど)」をあらかじめ仕分けておく(引き算する)ことが、現場の混乱を防ぐ最も重要な備えとなります。

「できていない理由」を深掘りする

現状のBCPを確認し、「役割分担が不明確」「連絡網が古い」といったできていない項目を見つけた場合、それを責めるのではなく「なぜできていないのか(原因)」を整理してみてください。「ひな形の項目が多すぎて今の人数に合っていないから」といった原因が見えてくれば、自施設に合った現実的な手順へと計画を修正(スリム化)しやすくなります。

まとめ

障がい福祉サービスのBCPは、一度作成して鍵をかけて保管しておくものではなく、災害や感染症が発生した際に、利用者様と職員の皆様を守るための「実用的な道具」です。 運営指導においては、計画書の分厚さよりも、内容が実態に合っているか、職員に周知されているか、定期的に見直されているかという「運用プロセス」が確認されます。 すべてを一度に完璧に整える必要はありません。まずは、既存の会議の時間を少しだけ使って「もしもの時の役割分担」を確認してみる、といった負担の少ないところから、定期的なセルフチェックの仕組みづくりをご検討してみてはいかがでしょうか。事業所の実情に合わせた、無理のない効率的な体制構築の一助となれば幸いです。

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