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はじめに
就労継続支援A型事業所の運営において、利用者の状態やニーズの変化に応じた柔軟な働き方の選択肢として、就労継続支援B型を併設するケースが見られます。A型とB型は、「多機能型事業所」として同一の場所で一体的に運営することが制度上認められています。しかし、既存のA型の指定にB型を付け加えるという簡易な手続きではなく、定員、人員配置、設備、生産活動、会計などを詳細に整理したうえで、B型について新たに指定を受ける厳格なプロセスが求められます。 この記事では、A型事業所にB型を併設して多機能型事業所へ移行するにあたり、人員・設備・定員の要件と、大阪市や北大阪エリア(吹田市、豊中市等)で追加指定を進める際の実務上の留意点を解説します。
1.「B型の併設」は単なる変更ではなく「新規の追加指定」となる

多機能型事業所とは、就労継続支援A型・B型、就労移行支援、生活介護など、複数の障がい福祉サービスを一体的に行う事業所のことです。現在のA型事業所と同じ場所でB型を新たに始める場合も、この多機能型事業所に該当します。 ここで実務上留意すべきは、多機能型として運営する場合でも、指定は「サービスの種類ごと」に行われるという点です。したがって、既存のA型事業所へのB型併設は、B型の「追加指定(新規指定)」という扱いになり、指定権者(自治体)との事前協議、申請書類の提出、書類審査、現地確認などの一連の手続きを最初から踏むことになります。同時に、既存のA型事業所についても、運営規程や平面図、人員配置などの変更が生じるため、A型の変更届の提出が必要となるケースが大半です。実務上は、「B型の追加指定申請」と「A型の変更手続き」を並行して進めていくことになります。
2.定員要件の特例と「報酬定員区分」への影響
多機能型事業所を選択する制度上の利点の一つが、利用定員の特例です。通常、単独で指定を受ける場合、利用定員はA型が「10人以上」、B型が「20人以上」必要です。しかし、これらを多機能型事業所として一体的に運営する場合、事業所全体の合計定員を20人以上とすることで、B型の定員を「10人以上」から設定できる特例が適用されます。これにより、「A型10人・B型10人」といった柔軟な定員構成が可能となります。ただし、現在のA型定員を減らしてB型へ振り替える場合は、実際の利用状況に基づく慎重な検証が求められます。また、多機能型事業所として人員の兼務特例を適用した場合、報酬算定のベースとなる定員区分は「実施するサービスの利用定員の合計数」で判断される点に注意が必要です。 例えば、「A型20人・B型20人」の多機能型で人員を兼務させた場合、事業所全体の定員は40名とみなされ、単独であれば適用される単価の高い「20人以下」の区分ではなく、A型もB型も単価の低い「21人~40人」の定員区分が適用されてしまいます。人員配置の効率化と報酬単価の低下という事業収支への影響を、計画段階でシミュレーションしておくことが重要です。
3.人員配置のポイント|サビ管の特例と直接支援員の区分

多機能型事業所では、人員配置においても特例が設けられています。代表的なものがサービス管理責任者の配置です。サービスごとに別々のサービス管理責任者を配置するのではなく、事業所全体の利用者数の合計に応じて配置することが認められています。事業所全体の利用者の合計が60人以下の場合は、サービス管理責任者は事業所全体で1人以上いれば基準を満たします。したがって、既存のA型のサービス管理責任者が、B型の業務も兼務することが可能です。 ただし、基準上1人で足りることと、実際の実務が適正に行えるかは別の視点で確認が必要です。B型の追加により、利用契約、個別支援計画の作成、モニタリング等の業務量が純粋に増加するため、各計画を適切に作成する時間を確保できるか、事前の検証が有効です。 一方、職業指導員や生活支援員といった直接処遇職員については、配置要件の合算はできません。同じ職員がA型とB型の両方を担当することは可能ですが、勤務時間をA型とB型へ重複して算入(二重計上)することは認められません。午前中はA型、午後はB型に配置するなど、勤務形態一覧表上で従事時間を明確に分けて記載し、各サービスが必要な常勤換算数を個別に満たしているかを厳密に管理する必要があります。
4.設備の要件|兼用できるスペースと「採光・換気基準」の確認
設備面についても、多機能型特有の兼用が認められている部分と、厳格に分けなければならない部分が存在します。相談室、洗面所、便所、多目的室などは、サービス提供に支障がない範囲において、A型とB型で兼用することが可能です。 しかし「訓練・作業室」については、サービスごとに設置することが法令上求められます。A型とB型の利用者が同じ空間で作業を行う場合、各サービスの面積要件を満たす十分な広さが確保されているか、動線が交錯しないか等の検証が必要です。 さらに、大阪市などの都市部において日中活動系サービスの指定申請を行う場合、建築基準法に基づく「採光・換気基準」を満たしていることが確認できる書類(採光換気計算書等)の提出が求められます。B型の追加指定に伴い、間仕切りの変更や別室の用途変更を行う場合、窓のない部屋などではこの基準を満たせない可能性があるため、事前の適合確認が物件判断の重要なポイントとなります。
5.生産活動と会計の区分|「賃金」と「工賃」の厳格な分離
既存のA型で受注している業務をB型の生産活動にも活用できれば、営業面での負担を軽減できます。ただし、A型とB型では利用者への対価の支払い基準が根本的に異なります。A型利用者は労働関係法令が適用され最低賃金以上の「賃金」が支払われますが、B型利用者は雇用契約を結ばず、生産活動の収支から必要経費を引いた「工賃」が支払われます。 そのため、同じ受注業務を行う場合であっても、「就労支援事業会計処理基準」に則り、A型とB型で会計区分を明確に分ける必要があります。どちらの利用者がどの作業工程を担当し、売上をどう配分するか、材料費や共通経費(光熱費等)をどのような基準で按分するかを整理し、それぞれの事業で適正な生産活動収支が成り立つかを予算計画に落とし込んでおくことが不可欠です。
6.利用者の移行に伴う「就労選択支援」等の手続きの整理
A型とB型を同じ場所で運営することで、利用者の状況変化に応じた事業所間移行が容易になります。しかし、同一法人の多機能型であっても、事業者側の判断のみでA型からB型へ利用者を異動させることはできません。B型は別のサービスであるため、新たにB型の支給決定を受ける必要があります。 また、令和7年(2025年)10月に「就労選択支援」が創設され、新たに就労継続支援B型の利用を希望する場合、原則として事前に就労選択支援事業所等によるアセスメントを経る仕組みへの移行が進められています。A型からB型への移行を検討する際は、市町村の障害福祉窓口や相談支援専門員と早期に連携し、客観的なアセスメントと必要な手続きのスケジュールを確認するプロセスが求められます。
7.事前協議から申請までのスケジュールと「指定制限」の状況

B型の追加指定を受けるための手続きは、指定権者(自治体)との事前協議等から始まります。管轄する自治体によって手続きの期限やルールが異なるため、初期段階での確認が事業計画の進行を左右します。
- 大阪市の場合: 新規指定にあたっては、指定を受けたい月の3か月前の月内(月初から月末まで)に事前協議書類を提出する義務があり、手続きは「大阪市行政オンラインシステム」による提出に限定されています(窓口提出不可)。さらに、就労継続支援B型の新規指定に対しては総量規制が実施されており、「令和8年8月1日指定分からの新規指定停止」が公表されています。指定には3ヶ月前までの事前協議が必須であるため、現時点において大阪市内で新たにB型の追加指定(併設)を受けることは実質的に不可能となっています。大阪市内で事業拡大を検討する場合は、B型以外のサービス(就労移行支援や生活介護等)の併設への転換や、将来的な規制解除の動向を注視する等、前提条件からの抜本的な計画見直しが求められます。
- 吹田市の場合: 就労系の新規指定・サービス追加にあたっては、指定予定年月日の「4か月前の月末日」までに事前協議書類の提出が必要です。その後、事業計画や収支予算について管理者等へのヒアリングが対面で実施されます。
- 茨木市の場合: 指定予定日からの逆算スケジュールによらず、就労継続支援A型・B型の新規指定等については独自の詳細な審査が行われるため、指定までに3~4か月程度を要する運用となっています。
予定通りの追加指定を実現するためには、管轄する指定権者の最新の手引き等を確認し、最新の指定制限の状況やローカルルールに基づいた逆算のスケジュールを構築することが実務上の要諦となります。
まとめ
A型事業所にB型を併設して多機能型として運営することは、定員要件の緩和や設備・人員の共通化といった特例を活用できる合理的な手法です。一方で、多機能型特有の報酬定員区分の取り扱いや、サービスごとに独立させるべき設備(訓練・作業室等)、就労支援事業会計に基づく賃金と工賃の区分については、厳格な管理が求められます。 検討の初期段階で「A型とB型で共通化できるもの」「サービスごとに明確に分けるべきもの」「B型の追加によって新たに必要となるもの」の3つに分類して計画を整理することが、適法かつ安定した多機能型事業所の運営を実現するための前提となります。
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