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成年後見制度改正で変わる「本人・補助人・事業所」の関係|障害福祉事業所が確認したい契約・金銭管理・意思決定支援

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はじめに

2026年6月に成立した民法等の改正により、日本の成年後見制度は抜本的に見直されることになりました。今回の改正における最大の見直しは、現行の後見・保佐制度を廃止し、新たな「補助制度」へ一元化するとともに、本人の判断能力だけを理由に包括的な権限を与えるのではなく、「本人に必要な時期に、必要な範囲で支援する」という必要性の原則を徹底することです。

この制度改正は、障害福祉サービスを提供する事業所の日常実務にも直接関係してきます。

  • 利用契約の締結時、誰に権限があるのか?
  • 選任されている補助人には、どの範囲まで代理権があるのか?
  • 利用者の金銭管理が難しくなった場合、どのように対応すべきか?
  • 個別支援計画の作成時、本人の意思をどのように確認・記録すべきか?

公布から2年6か月以内(遅くとも2028年12月まで)の施行を見据え、障害福祉事業所としては「補助人がいるか・いないか」という表面的な確認にとどまらず、「本人が何を選択し、どこを誰が支えるのか」という視点で支援体制を整理しておくことが求められます。本記事では、事業所が押さえておきたい契約確認・金銭管理・意思決定支援の実務ポイントをわかりやすく解説します。

1.補助人がいるだけでは契約を任せられない

障害福祉事業所の現場では、新規利用や契約更新の際に、補助人等の成年後見人等が選任されている利用者と契約を交わす場面があります。

ここで注意しなければならないのは、「補助人が選任されているからといって、当然に利用契約の代理権を持っているとは限らない」という点です。

新制度における補助制度では、補助人に与えられる代理権は、本人の保護に必要な「特定の法律行為」について家庭裁判所が審判で個別に設定する仕組みが基本となります。従来の後見人のように、財産に関するあらゆる法律行為について当然に包括的な代理権を持つわけではありません。

そのため、事業所が実務上確認すべきなのは、以下のポイントです。

  • ❌「補助人が選任されているか」
  • ⭕「今回の障害福祉サービス利用契約について、補助人が代理権を与えられているか」
【実務での権限確認の方法】

法務局が発行する「成年後見登記の登記事項証明書」には、補助人に与えられている具体的な代理権や同意権の範囲が記載されています。ただし、事業所が取引相手であるという理由だけで、法務局から直接利用者の登記事項証明書を取得することはできません(取得請求権者は本人、成年後見人等、一定範囲の親族等に限られています)。

したがって実務においては、本人や補助人等から登記事項証明書(または審判書控え)の提示を受け、今回の利用契約が含まれているかを事前に確認する手順を標準化しておくことが重要です。

2.「金銭管理が難しい=成年後見」ではない〜適切な支援手段の整理〜

利用者が「通帳を管理できない」「現金を使い過ぎてしまう」「ATMの操作が困難である」といった課題が生じた際、すぐに「成年後見制度を利用すべきではないか」と検討されることがあります。しかし、日常的な金銭管理の難しさと、成年後見制度の利用は必ずしもイコールではありません。

まずは、支援が必要な内容を具体的に切り分けることが出発点となります。

  • 日々の買い物や少額の出金が難しいのか?
  • 通帳や印鑑の保管・管理が困難なのか?
  • 高額な契約の判断や、不動産処分・相続などの法的行為に支援が必要なのか?

新制度では、本人の判断能力が低下していることだけを理由に補助が開始されるわけではなく、具体的な支援の必要性を家庭裁判所が個別に判断します。

【日常的な金銭管理における代替手段】

日常的な金銭管理や福祉サービスの利用手続きについては、成年後見制度以外にも活用できる仕組みがあります。

代表的なものが、社会福祉協議会等が実施する「日常生活自立支援事業」です。この事業では、本人との契約に基づき、福祉サービスの利用援助、日常的な出金・支払いの管理、書類等の預かりなどを行います。ただし、本事業を利用するには「本人に契約内容を理解できる一定の能力(契約締結能力)があること」が前提となります。また、自治体によっては独自の権利擁護・簡易金銭管理支援モデル事業を展開している場合もあります。

  • 日常的な金銭出し入れ・福祉サービス利用手続き ➡ 日常生活自立支援事業などの福祉的支援
  • 重要な財産管理・不利益な契約の取消し・代理権を伴う法的行為 ➡ 成年後見制度(新補助制度)

このように課題の性質を整理し、事業所だけで抱え込まずに、相談支援専門員、基幹相談支援センター、社会福祉協議会、自治体の権利擁護窓口等と連携して適切な制度につなぐことが実務上の鍵となります。

3.本人の「意思と選好」をどう確認するか〜最新ガイドラインの視点〜

成年後見制度の改正に並行して、福祉現場における自己決定の尊重と意思決定支援の重要性もいっそう高まっています。

厚生労働省の『障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン(第2版・2026年9月改訂)』では、本人が自らの「意思と選好(will and preferences)」に基づいた生活を送れるよう、支援者がそのプロセスを支える重要性が示されています。言葉で明確に表現することが難しい利用者であっても、安易に家族や補助人の判断に置き換えることは避けるべきとされています。

ガイドライン第2版では、意思決定支援を以下の3つのプロセスで捉えています。

  1. 意思形成支援: 本人が理解しやすい方法(写真、絵カード、実際の体験など)で情報を伝え、自らの希望や選好を形作ることを支援する。
  2. 意思表明支援: 表情、行動、生活歴、日常の選好などを丁寧に観察し、周囲からの不当な影響を受けずに本人が安心・自由に意向を表出できるよう環境を整える。
  3. 意思実現支援: 表明された本人の意思や選好に沿って、個別支援計画への反映や実際のサービス提供を通じて具体的な生活の実現に伴走する。
【支援記録への残し方】

「どのような方法で説明したか」「本人がどのような表情や行動で選好を示したか」「支援チームでどのような協議を行ったか」というプロセスを個別支援計画や支援記録に具体的に残しておくことは、質の高い権利擁護支援の実践であるとともに、事業所としての適切な支援の根拠となります。

4.補助人に判断を「丸投げ」せず「支援チーム」で対応する

成年後見制度を利用している利用者について、「補助人がいるからすべて補助人さんに決めてもらえばよい」と判断を全面的に委ねてしまう対応にも留意が必要です。

厚生労働省等の『意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン』では、後見人・補助人等に対しても「本人には自分で決める力がある」という前提に立ち、意思決定支援を行うことが義務付けられています。特に、施設入所や居所の変更など、本人の生活に重大な影響を与える決定については、本人を中心に、補助人・福祉事業者・相談支援専門員等の「支援チーム」を編成して協議・支援を行うことが想定されています。

各関係者には、それぞれの役割があります。

  • 補助人: 法的権利の保護、付与された権限に基づく代理・同意行為
  • 相談支援専門員: サービス全体の調整、サービス等利用計画の作成
  • 障害福祉事業所: 日常生活の観察、日々の意思・選好の変化の把握、個別支援計画に基づく直接支援

このように役割を分担し、本人を中心に情報を共有し合うことが不可欠です。なお、新制度においては、補助人が本人や支援チームと適切な関係を築けず本人の利益を害する場合などについて、必要に応じて交代や解任が検討される仕組みも明確化されています。

5.補助の終了を見据えた「切れ目のない支援体制」の構築

新制度における重要なポイントの一つが、「成年後見制度の利用終了を前提とした支援」という考え方です。

改正後の制度では、家庭裁判所が必要性を認めた期間・範囲に限り補助が開始され、支援の必要性がなくなったと判断されれば権限の取消しや補助の終了が行われます。独立行政法人国民生活センター発行の『国民生活』(2026年9月号)等の解説でも、法定後見の対象や期間が限定的になるため、補助終了後を支える日常的な支援体制の重要性が強調されています。

補助制度が終了したからといって、本人の障害特性や日常的な支援ニーズまで消滅するわけではありません。

  • 補助終了後は、日常生活自立支援事業へ移行するのか?
  • 相談支援や地域包括ケア・権利擁護ネットワークによる見守りで対応するのか?

「補助が終わったら支援も終わり」とするのではなく、制度利用中から関係機関と連携し、補助終了後も本人の暮らしと権利が守られる切れ目のない支援体制を整えておくことが望まれます。

まとめ

成年後見制度の改正を経て、障害福祉事業所に求められる対応は、単に「成年後見人や補助人がいるかどうか」を事務的に確認することではありません。

本質的に重要なのは、以下の要素を具体的に整理・共有することです。

  1. 本人が自分で判断・選択できることは何か
  2. どの法律行為について補助人の支援が必要なのか(代理権の有無)
  3. 金銭管理や日常の意思決定について、事業所や関係機関がどう支えるか

金銭管理が必要な場合でも、成年後見制度だけでなく日常生活自立支援事業などの福祉的手段を組み合わせて検討することが可能です。また、補助人が選任されている場合であっても、本人の意思確認や意思決定支援のプロセスを省略する理由にはなりません。

「誰が本人に代わって決めるのか」という代理の視点から、「本人が決めるために、誰がどの部分を支えるのか」という協働の視点へ。この視点の転換こそが、改正成年後見制度のもとで障害福祉事業所が利用者の権利と安心な生活を守るための確実な第一歩となります。

(参考資料)

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