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はじめに
障害福祉サービスや児童福祉サービスの事業所において、職員の採用力強化や定着率向上、あるいは働き方改革の一環として、就業規則で定める「常勤職員が勤務すべき時間数(所定労働時間)」を短縮する見直し(例:週40時間から週35時間への移行など)を検討する事業者様が増えています。 労働法令上は、就業規則の改定や個別の労働契約の更新手続きを適正に行えば、所定労働時間を短縮すること自体に特段の制限はありません。しかし、指定障害福祉サービス等においては、この「常勤時間」の変更が、人員配置基準における「常勤・非常勤」の判定、日々の人員配置、常勤換算の計算方法、各種加算の算定要件、および指定権者への届出手続きに直接連動しています。 本記事では、事業所の常勤時間を変更する際の人員配置上の定義、常勤換算の具体的な計算方法、実務上照合すべき書類、および指定権者への事前確認事項について、国の基準や解釈通知に基づき整理します。
1.労務管理上の雇用形態と指定基準上の「常勤」の定義

障害福祉サービス等の人員配置基準を管理するうえで、一般的な労務管理上の呼称(正社員、契約社員、パート・アルバイト等)と、行政の指定基準における「常勤」の定義は必ずしも一致しないという原則を正確に把握しておく必要があります。指定基準における「常勤」は、雇用形態の名称に関わらず、実際の「勤務時間数」が基準に達しているか否かで客観的に判定されます。
具体的な取扱いは以下の通りです。
- 非正規雇用であっても常勤となるケース:パートやアルバイト、契約社員などの雇用形態であっても、その事業所において定められている「常勤の従業者が勤務すべき時間数」を満たして勤務している場合は、人員基準上は「常勤」として扱われます。
- 正規雇用であっても非常勤となるケース:雇用形態が正社員であっても、個別の労働契約や短時間勤務契約等によって、勤務時間が事業所の定める常勤時間(所定労働時間)に達していない場合は、指定基準上は「非常勤」として扱われ、常勤換算の対象となります。
したがって、事業所の本来の常勤時間を変更する場合、まず変更後の基準時間が個々の従業者の配置状況にどう影響するか、全員の契約時間と照らし合わせて再判定するプロセスが必要となります。
2.週32時間の下限ルールと常勤換算の計算方法
事業所全体の常勤時間を短縮する場合、人員配置基準における「下限ルール」を前提にシミュレーションを行う必要があります。 厚生労働省の留意事項通知等において、常勤換算方法における常勤の取扱いについては以下のように定められています。
- 週32時間の下限設定:事業所の就業規則等で定める常勤の従業者が勤務すべき時間数は、原則として「週32時間」を下限(基本)とします。
- 常勤時間が週32時間未満の場合の計算方法:仮に就業規則等で事業所の常勤時間を「週30時間」と定めたとしても、指定基準上の常勤換算を行う際の分母は「32時間」として計算されます。
常勤換算数は、以下の式で算出されます。
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非常勤職員の延べ勤務時間数 ÷ 事業所の常勤の従業者が勤務すべき時間数(※週32時間を下回る場合は「32時間」)
例えば、事業所の常勤時間を「週35時間」に変更した場合、週30時間勤務する非常勤職員の常勤換算数は以下のようになります。
-
30時間÷35時間=0.85人(小数点第2位以下切り捨て)
一方で、常勤時間を「週30時間」と定めた場合、分母は下限ルールにより強制的に「32時間」となるため、週30時間勤務の職員の常勤換算数は以下の通りとなります。
-
30時間÷32時間=0.93人
このように、事業所全体の常勤時間を何時間に設定するかによって、非常勤職員の常勤換算数の算出値が変動するため、事前のシミュレーションにおいては必ず「週32時間」の下限ルールを考慮する必要があります。
3.短時間勤務制度の両立支援特例(週30時間)との混同防止

事業所全体の常勤時間を短縮するケースと、育児・介護休業法等に基づく個別の短時間勤務制度等を適用するケースは、適用される制度ルールが異なるため、実務上明確に区別しなければなりません。
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律に基づく所定労働時間の短縮等の措置、母性健康管理措置、または厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」に沿って事業者が自主的に設ける所定労働時間の短縮措置が講じられている職員については、以下の特例が認められています。
- 週30時間以上の勤務での常勤扱い:利用者の処遇に支障がない体制が事業所として整っている場合に限り、例外的に「週30時間以上」の勤務で常勤「1.0(常勤)」として取り扱うことが可能です。
この特例を適用する際、非常勤職員の常勤換算を行う場合の分母(本来の常勤時間数)自体が引き下げられるわけではありません。例えば、事業所の本来の常勤時間が週40時間であり、両立支援短時間措置の対象者が週30時間勤務している場合、その対象者本人は常勤「1.0」とみなされますが、他の非常勤職員の常勤換算を計算する際の分母は、本来の「40時間」のまま計算を行います。 事業所全体の常勤時間を短縮する見直し(全員一律の労働条件の変更)と、個別の事情に基づく短時間措置の特例(対象者限定の例外措置)を混同し、計算の分母を誤って処理しないよう、それぞれの労働契約や就業規則等に沿って整理する必要があります。
4.人員配置基準における常勤要件と兼務への影響
障害福祉サービスや児童福祉サービスの配置要件において、「常勤の職員を1名以上配置しなければならない」という常勤要件が課されているケースが多々あります(サービス管理責任者、児童発達支援管理責任者、サービス提供責任者、生活介護の生活支援員や看護職員のうち1名など)。 常勤時間を短縮(例:週40時間から週35時間へ変更)した場合、該当する資格者が変更後の週35時間を満たして勤務していれば、人員基準上の「常勤配置要件」は満たされます(週32時間以上であるため)。 しかし、以下の兼務や時間合算の実務においては注意が必要です。
- 他業務との兼務がある場合:管理者とサービス管理責任者を兼務している場合など、それぞれの職務に従事する時間数が、それぞれの職種における要件(専従・兼務、常勤換算への算入等)を満たしているかを、変更後の所定労働時間に基づいて再計算する必要があります。
- 常勤換算へ算入できる時間の上限:人員基準の計算に算入できる1人あたりの勤務時間数は、事業所が定める常勤時間(例:週35時間)が上限となります。実際の勤務がこれを超えて残業等を行っていたとしても、常勤換算上の数値としては「1.0」を超えることはできません。
5.共同生活援助等における「特定従業者数換算方法」の留意点
職員の勤務体制を見直す際、事業所が算定している各種加算の計算方法についても、変更後の労働時間で要件を満たせるか個別の確認が必要です。特に注意を要するのが、共同生活援助(グループホーム)等における「人員配置体制加算」などの算出で用いられる「特定従業者数換算方法」です。 通常の常勤換算方法とは異なり、特定従業者数換算方法には以下のような厳格なルールが定められています。
- 分母が週40時間で固定:特定従業者数換算方法を適用する場合、事業所の就業規則や契約で定める常勤時間に関わらず、計算の分母は一律に「週40時間」として算出します。そのため、事業所の常勤時間を週35時間に短縮したとしても、加算算定における分母は40時間のままとなります。
- 有給休暇や病欠の取扱い(みなし出勤の除外):通常の常勤換算方法では、常勤職員が取得した暦月1ヶ月未満の有給休暇や病欠は、勤務時間数に含めて(出勤したものとみなして)計算することが認められています。しかし、特定従業者数換算方法においては、雇用形態を問わず、有給休暇や病欠等によって実際に勤務しなかった時間数はそのまま差し引いて(換算数からマイナスして)計算されます。
常勤時間を短縮し、かつ有給休暇の取得等が発生した場合、加算の算定要件となる人員配置数を下回るリスクが生じるため、特定従業者数換算方法の対象となる加算を算定している事業所においては、事前の計算確認が必要となります。
6.勤務体制見直し時に照合・確認すべき「5つの関連書類」
勤務予定・実績の管理体制や労働契約の内容にわずかでも不一致があると、運営指導等において「人員配置基準を満たしていない(人員欠如)」と判断される主な要因となります。施行日を決定する前に、以下の関連書類をすべて突合し、論理的な整合性が取れているかを確認する必要があります。
- 就業規則(賃金規程):常勤の定義、週の所定労働時間、基本給や手当の計算根拠に矛盾がないか。
- 雇用契約書(労働条件通知書):契約上の所定労働時間、勤務日、基本給等の算出根拠が就業規則の改定内容と完全に一致しているか。
- 従業者の勤務の体制及び勤務形態一覧表:事業所の「常勤の従業者が勤務すべき時間数」の欄が、変更後の時間数(※週32時間以上)に正しく修正されているか。
- タイムカード(出勤簿):実際の打刻実績が、変更後のシフトや所定労働時間と完全に整合しているか。
- 組織体制図・加算届(体制状況一覧表):変更後の配置条件において、指定基準上の最低配置や加算要件を満たしているか。
これら5つの書類のすべての整合性が取れ、実際の勤務実績と完全に一致していることが、適正な運営を客観的に証明するための必須条件となります。
7.加算の「遡及適用(返還)」リスクと指定権者への事前確認事項

勤務体制の変更によって、万が一指定基準上の人員配置や各種加算の算定要件を満たさなくなってしまった場合、事業所は非常に厳しい報酬返還のペナルティを負うことになります。
- 要件未充足による遡及適用(返還):人員不足や加算要件の未充足が生じた場合、体制届(変更届)を提出した時点からではなく、「実際に要件を満たさなくなった事実が発生した月(日)」に遡って基本報酬や加算の算定ができなくなります。届出を行わずに従来の報酬を請求し続けていた場合、給付費の自主返還(過誤申立)が発生し、重大な運営リスクへと直結します。
こうした事態を防ぐため、勤務体制の施行前に、管轄の指定権者(都道府県や各市町村)に対して、少なくとも以下の事項を確認しておくことが実務上強く求められます。
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変更後の所定労働時間数を、当該サービスにおける「常勤」の基準時間としてそのまま適用可能か
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常勤時間の変更に伴い、運営規程の変更届や「従業者の勤務の体制及び勤務形態一覧表」の提出が必要となるか(変更届の要否)
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現在算定している基本報酬の区分(定員や配置による区分)および各種加算の要件に影響が生じないか
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月途中で変更を施行する場合、その月の人員配置基準の適合性はどのように判定されるか
指定権者に確認を行った際は、後々の認識の不一致や言った・言わないのトラブルを防ぐために、「確認日、担当部署、担当者名、質問内容、回答内容」を客観的な問い合わせ記録として必ず作成し、書面保存して事業所内で保管することが基本となります。
まとめ
職員の勤務体制(常勤時間)の変更は、労働環境の整備や採用力の強化における有効な選択肢となり得る一方で、障害福祉サービス特有の「人員配置基準」や「加算要件」の計算に直結しています。 変更後の所定労働時間が、指定基準上どのような計算結果をもたらすのかを個別にシミュレーションし、就業規則からタイムカードに至るすべての法定書類との整合性を日常の業務フローとして「仕組み化」しておくことこそが、予期せぬ返還リスクを未然に排除し、安定的な事業運営を継続するための強固な基盤となります。
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