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はじめに
2026年(令和8年)に施行される障害福祉サービス等報酬改定は、単なる単価の変更に留まりません。特に「処遇改善加算の拡充」と「生産性向上の義務化に近い要件設定」は、今後のグループホーム経営のあり方を左右する大きな転換点となります。
今回の改定への対応が遅れると、算定できるはずの上位加算を取りこぼすことになり、経営の収支に直接的な影響を与えます。
そこで本記事では、厚生労働省から発表された最新資料に基づき、グループホームの皆様が「最低限ここだけは押さえておくべきポイント」を実務目線で簡潔に整理しました。
この記事を読めば、以下のことが明確になります。
- 令和8年6月施行のスケジュールと、それまでに準備すべきこと
- 自所のサービス区分における「新加算率」の具体的な数字
- 加算取得の鍵となる「生産性向上」の具体的な取組内容
1.令和8年度報酬改定の全体スケジュールと変更の背景
今回の報酬改定において、経営者・管理者の皆様がまず確認すべきは「施行時期」と「改定の目的」の2点です。これらは今後の収支計画や職員への処遇説明に直結する重要な基盤となります。
1-1. 施行時期:令和8年6月施行の特例に注意
障害福祉サービスの報酬改定は通常4月に行われますが、令和8年度の主要な改定事項(処遇改善加算の拡充等)は「令和8年6月1日」からの施行となります。 令和8年4月・5月の2ヶ月間は現行の報酬体系が維持され、6月から新体系へ移行するという「変則的なスケジュール」になる点に注意が必要です。予算策定や加算申請の準備にあたっては、この2ヶ月のズレを計算に入れる必要があります。
1-2. 改定の背景:賃上げと生産性向上の両立
今回の改定の柱は、大きく分けて以下の2点です。
- 障害福祉従事者の処遇改善(賃上げ) 深刻化する人手不足に対応するため、他産業に劣らない賃金水準の確保が急務とされています。今回の改定では、従来の「福祉・介護職員」に限定されていた対象を「障害福祉従事者」へと幅広く拡大し、月額1.0万円(3.3%)相当の賃上げを実現する措置が講じられます。
- 生産性向上・協働化へのインセンティブ 単なる賃上げに留まらず、ICTの活用や業務効率化(生産性向上)に取り組む事業所に対して、さらに月額0.3万円(1.0%)の上乗せ措置が行われます。
つまり、令和8年度の改定は「処遇改善(給与アップ)」と「生産性向上(業務の効率化)」をセットで進める事業所をより高く評価する仕組みへとシフトしています。グループホーム運営においても、これまでの延長線上の運営ではなく、テクノロジーの活用や組織運営の効率化が報酬単価に直接影響を与えるフェーズに入ったといえます。
2.共同生活援助(グループホーム)の新加算率一覧

令和8年6月の施行に向けて、グループホーム(共同生活援助)の「福祉・介護職員等処遇改善加算」の割合が大きく引き上げられます。経営計画を立てる上で最も重要な、サービス区分ごとの新しい加算率を整理しました。
2-1. サービス区分別の新加算率(令和8年6月〜)
今回の改定では、包括型・日中支援型・外部サービス利用型のいずれにおいても、現行より高い加算率が設定されています 。具体的な数値は以下の通りです。
- 介護サービス包括型・日中サービス支援型
- 加算Iイ:16.3%
- 加算Iロ(生産性向上上乗せ):16.9%
- 加算IIイ:16.0%
- 加算IIロ(生産性向上上乗せ):16.6%
- 外部サービス利用型
- 加算Iイ:22.7%
- 加算Iロ(生産性向上上乗せ):23.3%
- 加算IIイ:22.4%
- 加算IIロ(生産性向上上乗せ):23.0%
2-2. 「イ」と「ロ」の違い:生産性向上への評価
各区分に設定された「イ」と「ロ」の違いは、「生産性向上や協働化への取組」を行っているかどうかです 。 「ロ」を選択する場合、通常の加算率に一律1.0%(月額約0.3万円相当)が上乗せされる仕組みになっています 。この上乗せ分を算定するためには、後述する「令和8年度特例要件」を満たす必要があります 。
2-3. 計算の基礎となる報酬範囲
これらの加算率は、処遇改善加算を除く「加減算後の総報酬単位数」に乗じる形で計算されます 。基本報酬だけでなく、人員配置体制加算や夜間支援体制加算など、事業所が取得している各種加算を含めた総単位数がベースとなるため、上位の加算を取得している事業所ほど、今回の改定による増収効果(および賃上げ原資)は大きくなります。
今回の数値設定は、これまでの「福祉・介護職員」だけでなく、事務員や清掃員を含む「障害福祉従事者」全体への賃上げをカバーすることを想定して算出されています 。自所のサービス区分と、生産性向上の取組状況に照らし合わせて、どの加算率を目指すのかを早期に判断することが求められます。
3.加算取得の鍵を握る「生産性向上・協働化」の要件
令和8年度改定の目玉は、単なる賃上げではなく「生産性向上」への取り組みが報酬に直結する点です。具体的には、新設される「加算Iロ」や「加算IIロ」という上乗せ区分を算定するための条件を整理する必要があります。
3-1. 令和8年度特例要件の3つの柱
最大月1.9万円(定期昇給含む)の賃上げ原資を確保するための「上乗せ加算」を取得するには、以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。
- 「生産性向上に関する取組」を5つ以上実施する
後述する24のチェック項目のうち、5つ以上を選択して実施する必要があります(「現場の課題の見える化」と「業務支援ソフトや情報端末の導入」の2項目は必須です)。
2.加算Ⅱロ相当の加算額の1/2以上を「月給」で配分する
要件を満たして算定した「加算Ⅱロ相当の加算額」のうち、2分の1以上を賞与ではなく、基本給や手当などの「月給」として支給しなければなりません
3.情報公表システムでの公表
どのような取り組みを行っているかを外部から確認できる状態にすることが求められます。
なお、複数の法人で連携する「社会福祉連携推進法人」に加入している場合は、上記1の「5項目以上の実施」に代えることができる特例も設けられています。
3-2. 2つの必須項目「18:課題の見える化」と「21:ICTツールの導入」
「生産性向上に関する取組」は全部で24項目ありますが、その中でも項目番号18「現場の課題の見える化」と、項目番号21「業務支援ソフトや情報端末の導入」の2つは必須とされています。
3-3. ICT活用による負担軽減

5つの項目を選ぶ際、多くの事業所で検討対象となるのがICT機器の導入です。見守りセンサーの活用による夜間巡回の効率化や、インカム導入による職員間の連携スムーズ化などは、生産性向上項目としてカウントしやすく、現場の負担軽減にも直結します。
今回の改定では「ただ忙しく働く」のではなく、「仕組みを変えて効率を上げ、その分を報酬として還元する」という姿勢が明確に打ち出されています。まずは必須項目である「現状の把握(見える化)」から着手し、自所に適した残りの項目を選定することが、加算取得の第一歩となります。
4.職場環境等要件の変更と「情報公表システム」への対応
令和8年度の報酬改定では、処遇改善加算を算定するための「職場環境等要件」が厳格化されます。これまでは項目を選んで実施するだけで認められていた側面もありましたが、今後は「実施数」と「公表」の2点が強く求められるようになります。
4-1. 取組項目のカウント数の増加
加算区分を維持、あるいは上位区分を目指す場合、必要となる取組項目数が増加します。グループホーム運営において、特に上位の加算I・IIを算定する場合には、以下の基準を満たす必要があります。
- 加算I・IIを算定する場合:
- 6つの区分(資質の向上、労働環境の改善など)ごとに、それぞれ2つ以上(「生産性向上」区分は3つ以上)の取組を実施。
- さらに、全体の中から合計で14項目以上の取組を実施していること。
- 加算III・IVを算定する場合:
- 6つの区分ごとに、それぞれ1つ以上(「生産性向上」区分は2つ以上)の取組を実施。
- さらに、全体の中から合計で8項目以上の取組を実施していること。
このように、特に「生産性向上」に関する項目のカウント数が重視されているのが今回の特徴です。
4-2. 具体的取組内容の公表義務
今回の改定で実務上の大きな変更点となるのが、「情報公表システム」への掲載義務化です。加算I・IIを算定する事業所は、単に「取り組んでいます」という報告だけでなく、具体的にどのような内容を実施したのかを「障害福祉サービス等情報公表システム」などで一般に公開しなければなりません。
具体的には、以下の対応が必要です。
- 選択した項目ごとに、具体的な実施内容(例:ICT機器の導入機種や、それによる残業削減の実績など)を記載する。
- 最新の取組状況を反映させるため、定期的な更新を行う。
4-3. 虚偽報告や未実施へのペナルティ
令和8年度は「経過措置」として、年度中の対応を「誓約」することで算定を開始できる柔軟な対応も検討されています。しかし、実績報告の段階で要件を満たしていないことが判明した場合、算定した加算の返還を求められるリスクがあります。
これからは「加算をもらうための書類作成」ではなく、「実際に運用し、その実態を正しく公表する体制」を整えることが、安定した事業運営の前提条件となります。自所の現在の取組が24項目のうちどこに該当し、不足している項目は何かを早急に棚卸しすることが推奨されます。
5.【重要】新規事業所の「基本報酬見直し」と「臨時応急的な特例」

ここまで処遇改善加算の「拡充」と「要件」について解説してきましたが、特に新規開所を予定されている皆様には、もう一点重要な「基本報酬」の変化についてお伝えしなければなりません。
5-1. 新規事業所に限り、基本報酬単価が引き下げへ
厚生労働省の資料には「新規事業所に限り、臨時応急的な見直しを実施する」と明記されており、包括型・日中支援型の基本報酬(日額)の単価が現行より引き下げられた数値で設定されています。具体的には、令和8年6月1日以降に新規指定される共同生活援助(介護サービス包括型・日中サービス支援型)の基本報酬(日額)の単価が、現行の「1000分の972(2.8%程度の減額)」に設定される方針です。なお、既存事業所については従前どおりの報酬が維持されます。
5-2. 減額の「適用除外(配慮措置)」となる条件
令和8年6月1日以降に新規指定される事業所であっても、地域ニーズの高いサービスを提供している場合は、減額の対象外(従前の単価を適用)となる配慮措置が設けられています。
- 重度障害者等への配慮: 医療的ケアが必要な方や、強度行動障害のある方などを受け入れ、「医療的ケア対応支援加算」や各種「支援体制加算」等を算定している事業所。
- 地域への配慮: 離島や中山間地域にある事業所、あるいは自治体が客観的に必要と認めて設置(公募等)する事業所。
6.経営者が今から準備すべき実務チェックリスト
令和8年6月の施行に向け、特に新規参入や事業拡大を検討中の経営者・管理者が着手すべき実務を整理しました。
6-1. 【最優先】新単価による収支シミュレーションの再作成
基本報酬の引き下げと特例措置を反映した、最新のシミュレーションが必要です。
- トータル収支の確認: 単純な「基本報酬日額」ではなく、「引き下げ後の基本報酬 + 応急的特例 + 新処遇改善加算」を合算した「手残り」の総額を試算してください。
- 損益分岐点の再設定: 基本報酬が下がる分、どの加算(生産性向上など)を落とすと赤字になるのか、そのデッドラインを明確にします。
6-2. 賃金配分ルールと就業規則の整備
処遇改善加算の「月給配分ルール」への対応です。
- 配分比率の決定: 要件を満たして算定した「加算Ⅱロ相当の加算額」の1/2以上を月給として配分するための原資を、基本給や固定手当のどの項目に割り当てるか決定します。
- 規程の改定: 賃金規程や就業規則の変更が必要になる場合、職員への周知期間を含めたスケジュールを立てます。
6-3. 生産性向上項目の選定と証拠書類の準備
加算ランクを維持・向上させるための実務です。
- 取組項目の棚卸し: 24項目の中から自所で実施する項目を選定し、「いつ、誰が、何を導入・実施したか」を証明できる書類(写真、領収書、議事録など)の管理方法を決めます。
- ICT・備品の検討: 生産性向上のための備品購入が必要な場合、令和8年6月までに導入・運用が開始できるよう選定を進めます。
6-4. 行政手続き・情報公表のスケジュール管理
- 指定申請・変更届の期限確認: 自治体独自のスケジュール(特に新旧制度の切り替え時期)を確認し、申請漏れを防ぎます。
- 公表内容の下書き: 情報公表システムに掲載する「具体的な取組実績」について、今から文章を準備しておきます。
7.まとめ:正確な情報収集が安定経営の第一歩
令和8年度の報酬改定は、これまでの「制度の微調整」とは一線を画す、抜本的な構造改革となります。最後に、経営者の皆様が今後の安定経営のために意識すべき要点を整理します。
7-1. 新加算の取得を前提とした収支構造への移行
新規事業所を中心に基本報酬が引き下げられる一方、処遇改善加算は拡充されます。これは「拡充された加算を取得すること」を前提とした制度設計へのシフトを意味します。今後は、ICT導入等の生産性向上の取組を行い、上位加算を確実に取得する体制づくりが事業継続の前提となります。
7-2. 「特例措置」を最大限に活用した移行準備
基本報酬が下がる一方で、激変緩和措置や報酬単価の特例といった「救済の網」が用意されているのは、経営者の皆様にとっての安心材料です。 大切なのは、これらの特例が適用されている期間内に、自所の運営体制を「新制度の要件(生産性向上・情報公表)」に完全に適応させることです。特例や配慮措置はあくまで一時的な下支えです。適用期間内に、ICT機器の導入や情報公表システムへの対応を完了させ、令和9年度の次期報酬改定を見据えた運営体制を構築することが重要です。
7-3. 正確なシミュレーションに基づく意思決定
「いくら入って、いくら職員に支払うのか」の計算が、かつてなく複雑になっています。
- 新しい基本報酬単価(引き下げ後)の把握
- 自所に適用される特例・緩和措置の確認
- 賃金配分ルール(月給1/2以上)のシミュレーション
これらを曖昧にしたままでは、知らず知らずのうちにキャッシュフローを圧迫するリスクがあります。公的な最新情報を常に追い、客観的な数字に基づいた経営判断を行うことが、職員を守り、利用者様に安定したサービスを提供し続けるための第一歩となります。
(参考資料)