はじめに
こども性暴力防止法、いわゆる「日本版DBS」の施行(2026年12月25日)まで数カ月となりました。義務対象事業者となる児童発達支援や放課後等デイサービスの事業所様においては、GビズIDの最新化やシステムへの事業者情報の登録準備が進められていることと存じます。
しかし、日本版DBSへの対応は、必要とされる各種規程を作成し、ファイルに綴じておけば完了するという性質の制度ではありません。
2026年(令和8年)8月25日に開催された「こども性暴力防止法施行準備検討会(第13回)」では、施行後の監督の考え方を示す「こども性暴力防止法監督等指針(案)」が示されました。
本記事では、この監督等指針案をもとに、施行後にどのような事項が確認対象となることが想定されているのかを整理するとともに、事業者様が施行前に進めておきたい従事者への周知・研修について解説します。
※監督等指針は、2026年9月17日現在「案」の段階です。以下の監督・確認に関する記載は、第13回検討会で示された案をもとに整理しています。
1. 運営指導における確認項目と必要なエビデンス

日本版DBSに基づく措置は、児童福祉法に基づく「指定通所支援の設備及び運営に関する基準(省令)」(令和8年12月25日施行)に組み込まれます。 これにより、日本版DBSの不対応は「指定基準(運営基準)違反」を構成し、児童福祉法に基づく是正命令や指定停止・取消といった行政処分の対象となります。
第13回検討会で示された監督等指針案では、犯罪事実確認、研修、安全確保措置、相談体制、情報管理などについて、事業者が法に基づく措置を適切に実施しているかを確認する考え方が示されています。
現時点では、自治体の運営指導の自己点検表にどのような形で反映されるかまでは確定していませんが、施行後に実際の取組状況を説明できるよう、実施記録を残しておくことが重要です。
表1では、第13回検討会の監督等指針案を踏まえ、児発・放デイ事業所で確認しておきたい主な事項は以下の通りです。
【表1】監督等指針案を踏まえ、児発・放デイで確認しておきたい主な事項
| 監査時の主な確認項目 | 求められる具体的な客観的エビデンス(実施記録) |
| ① 犯罪事実確認の適切な実施 | ・対象従業員のリスト(職種ごとの選定根拠)
・こまもろうシステムでの照会・完了記録 |
| ② 「いとま特例」適用の妥当性 | ・やむを得ない事情を証する書類(急な退職届、求人票の控え等)
・特例期間中の安全確保措置の実施記録(シフト表、巡回記録等) |
| ③ 従事者に対する研修の実施 | ・研修受講管理表(いつ、誰が、どの教材で受講したか) |
| ④ 相談窓口の整備と周知 | ・相談窓口設置規程、担当者の選任記録
・子ども、保護者、従業員への周知実績(ポスター掲示やカード配布の記録) |
| ⑤ 組織体制と各種規程の遵守 | ・報告ルール、対応ルール、情報管理規程等 ・情報管理責任者等の設定、情報の取扱状況を確認できる記録 |
最初の職員周知のステップでは、まず「令和7年12月25日更新の従事者向けリーフレット」を全員に配布し、「2026年12月25日から何が始まるのか」「なぜ児発・放デイも対象なのか」を説明することから始めます。この段階で、制度対応への心理的な入口を整えておきます。
その後、対象となる従事者に対して、「令和8年8月25日更新の研修動画や研修資料(演習資料、確認テスト等を含む)」を用いて段階的に理解を深めてもらいます。このように「最初の周知」と「正式な研修」を明確に分けて進めることが、現場を混乱させないための実務上のポイントです。
2. 従業員(従事者)への周知・説明に用いるべき公式資料の整理
従業員からすれば、自らのプライバシー(犯罪履歴等)に関わる極めて機微な情報を扱う手続きであるため、十分な信頼関係と客観的な情報提供がなければ、現場の動揺や労務トラブルを招くおそれがあります。 施行直前になって突然手続きを求めるのではなく、事前に「どの資料を使い、何を説明するか」を整理して臨むことが重要です。
現在、こども家庭庁からは複数の資料が公表されていますが、実務においては、用途と更新時期(いつ発表されたものか)に応じて以下のように使い分けるのが最も効果的です。
【表2】職員説明・研修に活用すべきこども家庭庁の公式資料(2026年9月時点)
| 用途 | こども家庭庁の公式資料名 | 発表・更新時期 | 具体的な活用方法 |
| 最初の職員周知 | 周知用リーフレット(従事者向け) | 令和7年12月25日更新 | 職員会議等で制度の開始日(R8.12.25)や犯罪事実確認の義務化、本人の対応手続き等の概要を簡潔に説明する |
| 詳しい職員説明・研修 | 従事者向け標準動画・研修資料 | 令和8年8月25日更新 | 性暴力防止、安全確保措置、犯罪事実確認の具体的な流れを理解してもらい、組織の共通認識を作る |
| 短時間での要点確認 | 従事者向け要点動画 | 令和8年8月25日時点掲載 | 不定期・短期間で従事するなど、標準研修の受講が直ちに困難な対象従事者が要点研修として受講する |
| 管理者・経営者の準備確認 | 義務事業者用準備ガイド Ver.1.1 | 令和8年8月25日公表 | GビズIDの最新化、対象業務従事者の範囲、情報管理規程、研修計画、相談体制などの進捗状況を自主点検する |
| 詳しい制度解釈の確認 | こども性暴力防止法施行ガイドライン | 令和8年1月9日策定・令和8年9月2日改訂 | 対象従事者の判断、安全確保措置、研修、犯罪事実確認、情報管理、監督・定期報告などの具体的な運用を確認する |
3. 従業員への説明会における「必須3項目」の伝達手順

説明会や個別面談の場では、従業員の不安を取り除くため、特に以下の3点について客観的な説明を行います。
①なぜ自分が確認の対象になるのか(対象基準の客観的説明)
「保育士だから対象」「事務員だから対象外」という職種名ではなく、実際の業務における「支配性・継続性・閉鎖性」の3要件に基づいて判断されることを説明します。 特に物理的な空間だけでなく、「LINEやZOOM等を用いた1対1のオンライン上のやり取りも、第三者の目が入らなければ『デジタルの密室(閉鎖性)』に該当し、確認の対象になり得る」という最新の法的解釈を論理的に説明し、自法人の対象者選定の根拠を示します。
②情報の管理とプライバシーの保護について
犯罪事実確認の結果(前科の有無等)は極めて機微な情報であり、通常の職員名簿や共通のエクセル等に一覧化して記載することは情報管理規程上、原則として禁止されることを明確に伝えます。情報管理責任者のもとでシステムから厳重に管理・廃棄される仕組みを説明し、プライバシー漏洩に対する従業員の不安を解消します。
③犯罪事実確認の手続と就業規則について
犯罪事実確認では、事業者がこども家庭庁へ交付申請を行うとともに、対象となる従事者本人が、本人情報や本人確認書類等を「こまもろうシステム」から提出する手続が必要になります。
そのため、対象となる職員には、なぜ犯罪事実確認が必要なのか、本人にどのような手続が必要になるのかをあらかじめ説明しておくことが重要です。
また、こども家庭庁は、犯罪事実確認の手続に応じる義務や、不適切な行為の禁止、懲戒事由等について、就業規則参考例を公表しています。現在の就業規則で対応できるかを確認し、必要な変更がある場合は社会保険労務士等と連携して検討します。
※犯罪事実確認そのものについて「事前に本人から書面による同意を取得することが必須」という制度ではありません。本人同意が問題となるのは、犯罪事実確認後の面談等で、本人から特定性犯罪事実に関する詳細な情報を取得する場合などです。
4. 日常の「実施記録(受講管理表)」の作成とアカウント管理
説明会や研修を実施した場合は、誰が、いつ、どの教材を使って受講したのかを記録しておくと、事業所として研修の実施状況を確認しやすくなります。速やかに以下の受講管理表を作成し、客観的な記録として保存しておくことをおすすめします。
【表3】日本版DBS 従事者説明・研修受講管理表(ひな型)
| 職員番号 | 氏名 | 職種 | 対象区分 | 従事開始日 | 説明・受講方法 | 実施・完了日 | 備考 |
| 001 | ○○ ○○ | 児童指導員 | 対象 | R5.4.1 | 集合研修(動画視聴) | R8.○.○ | 従事者向け標準動画・演習実施 |
| 002 | ○○ ○○ | 事務員 | 業務内容により判定 | R6.10.1 | 個別説明(リーフレット配布) | R8.○.○ | 周知用リーフレット配布 |
| 003 | ○○ ○○ | 送迎運転手 | 業務内容により判定 | R8.4.1 | オンライン受講 | R8.○.○ | 標準動画・演習実施 |
※「業務内容により判定」とした職員については、実際の業務内容を確認し、支配性・継続性・閉鎖性の3要件に基づいて対象該当性を判断します。
※この管理表自体は、指導監査における「研修・周知の実施実績」を示すものであり、犯罪事実確認の結果(前科の有無等)そのものを記載するものではありません。情報管理上、両者は厳密に分離して保管する必要があります。
また、日常の労務フローに組み込んでおくべき重要な項目として「退職・異動時のアカウント管理」があります。国のマニュアル(素案)では、「従事者が退職または対象外の業務へ異動した際、即時にこまもろうシステム等からのアクセス権・権限を解除する」ことがセキュリティ措置として義務付けられています。退職時のチェックリストにアカウント解除の手続きを必ず一項目として追加しておきます。
5. 専門家(弁護士・社労士・行政書士等)への委託範囲の法的整理

日本版DBSへの対応は、多大な実務負担を伴いますが、こども家庭庁の公式Q&A【応用編】((Q&A 10-3)では、外部の専門家に依頼できる範囲が以下のように明確に整理されています。
- 外部委託が「可能」な実務:
- こまもろうシステムへの一括登録手続き(まとめ登録代行)
- 情報管理規程、報告ルール・対応ルール等の整備支援
- 就業規則や採用関係書類との整合確認に必要な専門家との連携
- 社内説明会や研修計画の策定支援
- 外部委託が「不可能」な実務:
- システムから交付された「犯罪事実確認書」を画面上で閲覧する業務(最終的な採否・配置判断)
- 情報管理措置そのものにおける事業者としての最終的な責任
自社で必ず行うべき「確認結果の閲覧・最終判断」に集中するためにも、それ以外の事務手続きや規程作成については、専門家を活用して効率的に進めることが、確実な制度対応に繋がります。
まとめ
第13回検討会では、監督等指針案が示され、施行後に国や自治体がどのような視点で事業者の取組状況を確認していくのか、その方向性が具体的になってきました。
本制度への対応は、規程や書類を作成するだけではなく、職員への周知、研修、安全確保措置、相談体制、情報管理などを実際の事業所運営に組み込んでいく必要があります。
まずは従事者向けリーフレット等を活用して制度の概要を職員へ周知し、対象となる従事者や自事業所における「不適切な行為」の範囲などを確認していくことが、施行準備の第一歩となります。
なお、2026年9月17日現在、児発・放デイ事業所が具体的に確認しておきたい事項については、次の記事で6項目に絞って整理しています。
「【2026年9月17日現在】児発・放デイのこども性暴力防止法対応|まず確認したい6つのこと」