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はじめに
「令和8年度から処遇改善加算のルールがまた変わるらしいが、結局うちの施設は何をすればいいのか?」 「ICT機器を導入しないと加算が下がってしまうのか?」
日々の現場支援やスタッフのマネジメント、膨大な事務作業に追われる中で、次々と発表される報酬改定の情報を隅々まで読み解くのは至難の業です。しかし、今回の改定で新設された「生産性向上要件」は、今後の事業経営において把握しておくべき重要な変更点となります。 特にさらなる上位加算(加算Ⅰロ・Ⅱロ等)の算定を目指す事業所にとって、生産性向上の取組は必須要件として位置づけられました。対応が遅れれば、収益への影響が生じるだけでなく、実績報告において要件を満たせない場合には加算の返還が求められるリスクもあります。
「難しそうでどこから手をつけていいか分からない」 「現場に負担をかけずに要件をクリアしたい」
そんな悩みを抱える経営者・管理者の皆様に向けて、本記事では令和8年度改定の核心である「生産性向上要件」の具体例と、今すぐ着手すべき実務のステップを分かりやすく整理しました。新制度への準備を整え、安定した事業運営を継続するための参考としてください。
1.処遇改善加算における「生産性向上要件」の変更点
令和8年度(2026年度)の報酬改定において、処遇改善加算の算定ルールが厳格化されます。特に経営上の大きな分岐点となる「生産性向上要件」の必須化について、その仕組みと実務上の注意点を解説します。
なぜ「生産性向上」が求められるのか

今回の改定の背景には、深刻な人材不足への対応があります。単に従事者の賃金を上げるだけでなく、現場の業務負担を軽減し、働きやすい環境を整えることで離職を防ぐことが狙いです。そのため、国は「賃上げ(処遇改善)」と「業務改善(生産性向上)」をセットで進める方針を打ち出しました。
さらなる上位加算「加算Ⅰロ・Ⅱロ」の新設と特例要件
令和8年度からは、生産性向上に積極的に取り組む事業所を対象に、これまでの加算Ⅰ・Ⅱに上乗せされる形で「加算Ⅰロ」「加算Ⅱロ」という新たな上位加算が新設されます。この上位加算を算定するための「特例要件」として、職場環境等要件の「生産性向上に関する取組」の中から「5つ以上」を実施することが求められます。
「課題の見える化」に加え「ICT機器等の導入」が必須へ
この特例要件において最も注目すべきは、必須項目の設定です。すべての改善のスタートラインとなる「項目18(現場の課題の見える化)」だけでなく、「項目21(業務支援ソフト・情報端末等の導入)」が必須要件として明確に位置づけられました。 算定要件がより厳格化されており、もはやICT機器の導入は任意ではなく、高い収益性を確保するための重要な条件となります。ただし、令和8年度末(令和9年3月末)までにこれらの取組を行うことを計画書で「誓約」すれば、実績報告において対応の実施を確認することを条件に算定を開始できる特例が設けられています。
経営上の注意点
新設される上位加算(加算Ⅰロ・Ⅱロ)を算定し、高い収益性を維持するためには、「生産性向上」への取り組みは上位加算算定の標準要件となります。まずは必須項目である「項目18(課題の見える化)」と「項目21(ICT機器の導入)」に着手し、自所の現在の取組状況を棚卸しした上で、不足している項目をどう補うのかを早期に整理することが不可欠です。
2.クリアすべき「生産性向上のための業務改善」具体的メニュー
令和8年度の報酬改定では、処遇改善加算の「生産性向上」区分をクリアするために、ICT機器やソフトウェアの導入が非常に有効な手段となります。厚生労働省の示している「職場環境等要件」の項目に基づき、具体的かつ実用性の高いICT活用例を整理しました。
記録・報告業務の効率化(記録ソフト・タブレット)

生産性向上の取組の中で、最も直接的に業務時間を削減できるのが、手書き記録の廃止とデジタル化です。
- 具体例:障害福祉専用の記録ソフト、タブレット端末、スマートフォン。
- 効果:支援の合間にその場で記録を入力できるため、終業前の「まとめ書き」や転記作業が不要になります。これは要件項目の「業務支援ソフト、情報端末等の導入(項目21)」に該当します。
情報共有の迅速化(インカム・チャットツール)
職員同士の連絡や情報共有に要する「移動時間」や「待ち時間」を削減する取組です。
- 具体例:ビジネスチャット(LINE WORKS等)、インカム(無線機)、ウェアラブルデバイス。
- 効果:広い施設内や別室にいる職員と即座に連携が取れるようになり、口頭伝達ミスを防ぎます。これは「ICT機器の導入(項目22)」に該当します。特に多職種連携が必要な児童施設において有効です。
見守り・安全管理の自動化(見守りセンサー等)
職員の目視に頼っていた見守り業務をテクノロジーで補完する取組です。
- 具体例:見守りセンサー、バイタル測定機器、防犯カメラシステム。
- 効果:異常時のみ通知が来る仕組みを構築することで、夜間や休憩時の巡回負担を軽減します。これは「介護ロボット等の導入(項目22)」に該当します。
バックオフィス業務の自動化(RPA・給与連動)
現場支援以外の事務作業、特に国保連請求や勤怠管理にまつわる事務負担を軽減します。
- 具体例:勤怠管理システム(打刻管理)、給与計算ソフトとのデータ連携、RPA(定型作業の自動化ソフト)。
- 効果:記録ソフトと勤怠・給与計算を連動させることで、毎月の請求事務や給与計算の工数を大幅に削減できます。これは「業務支援ソフト等の導入(項目21)」に該当します。
導入にあたっての視点
これらのICT機器を導入する際は、単に「最新のもの」を選ぶのではなく、「職場環境等要件の項目番号(21〜22)のどれを充足させるか」を明確にしておく必要があります。また、機器の購入費用だけでなく、職員が使いこなすための研修や設定にかかる時間も加味した上で、自所の課題に直結するツールを選定することが重要です。
3.ICT機器導入以外で認められる「生産性向上」の取組
令和8年度の報酬改定における「生産性向上」の要件は、ICT機器の導入(ハード面)だけでなく、業務の進め方や体制の見直し(ソフト面)によっても満たすことが可能です。ICT機器の導入・定着に時間がかかる場合に検討すべき、具体的な3つの取組を解説します。
間接支援業務スタッフ等の活用(項目23)
専門職が直接的な支援に集中できる環境を作るため、資格を必要としない「周辺業務」を切り分ける取組です。
- 具体例:清掃、消毒、食事の準備、送迎の添乗、事務作業の補助などを担当するスタッフを配置する。
- 効果:児童指導員や保育士が、計画書の作成や子どもとの直接的な関わりに専念できるようになります。これは「業務内容の明確化と役割分担(項目23)」として認められます。
業務フローの見直しと作業負担の軽減(項目20)
既存の業務プロセスや役割分担を見直し、標準化する取組です。
- 具体例:
- 重複している会議や報告書の整理・廃止。
- 「誰が何を行うか」を明確にした業務マニュアルの整備。
- 申し送り事項を簡略化するフォーマットの導入。
- 効果:情報共有の漏れを防ぐと同時に、職員の拘束時間を短縮します。これは「業務手順書の作成や記録等の工夫(項目20)」に該当し、コストをかけずに着手できる点が特徴です。
外部専門家の活用と協働化
自所のリソースだけでなく、外部の仕組みを利用して効率化を図る方法です。
- 具体例:
- 社会福祉連携推進法人への参画:複数の法人が連携して、事務作業の共同化や研修の共同実施を行う。
- 外部コンサルタントによる指導:業務改善(カイゼン)の専門家を招き、現場の導線や作業工程を見直す。
- 効果:特に「社会福祉連携推進法人」への所属は、それ自体が生産性向上要件の上乗せ措置(ロ区分)の算定根拠として認められるなど、要件充足において強力な選択肢となります。
経営上の判断基準
ICT機器を導入する場合も、これらのソフト面の改善(業務フローの見直し等)がセットになっていなければ、十分な効果は得られません。職場環境等要件の項目数を増やすためには、まず「今ある業務の無駄をどう削るか」という視点で、これらマニュアル整備やスタッフの役割分担から着手することが、実務上最も確実なステップとなります。
4.機器導入にあたっての「注意点」と「スケジュール」
令和8年度の報酬改定に伴い、ICT機器やソフトを導入して「生産性向上要件」を満たそうとする際、実務上で特に注意すべき点と、施行に向けた現実的なスケジュールについて解説します。
令和8年度末までの「誓約」と「実績」の関係
今回の改定では、令和8年6月の施行時点で全ての要件(14項目以上の実施など)を満たしていなくても、上位加算を算定できる救済措置が設けられています。
- 「誓約」による算定:計画書において「令和8年度中(令和9年3月末まで)に要件を満たす取組を実施する」と誓約すれば、6月分から加算Ⅰ・Ⅱの算定が可能です。
- 実績の証明:ただし、年度末までに実際に機器を導入し、運用を開始している必要があります。口頭や計画だけで終わらせることはできません。
補助金の活用検討(コスト軽減の手段)

ICT機器やソフトの導入には相応の費用がかかります。経営上の負担を軽減するため、以下の公的な支援制度の活用を検討してください。
- IT導入補助金:業務支援ソフトや勤怠管理システムの導入に利用できる場合があります。
- 障害福祉分野の介護テクノロジー導入支援事業 :令和8年度に向けて拡充が予定されている補助金です。タブレット等のICT機器や見守りセンサーなどの介護ロボットの導入費用のほか、これらを複数組み合わせて導入する「パッケージ型導入支援」が利用できる可能性があります。
※いずれも公募期間が限定されているため、国や自治体の最新情報を随時確認する必要があります。
現場への定着:ツールを選定する際の基準
要件を満たすことだけを目的に多機能なツールを導入しても、現場で使われなければ「生産性向上」の実績になりません。選定時は以下の実務的な視点を重視してください。
- 操作の簡便さ:ITに不慣れなスタッフでも直感的に操作できるか?
- サポート体制:トラブル時に即座に対応してくれるメーカー・代理店か?
- 既存業務との整合性:現在の業務フローを大幅に変えすぎず、自然に置き換えられるか?
導入までのスケジュール管理
- 令和8年4月〜5月:現行の取組項目数を棚卸しし、不足分を確認。導入する機器・ソフトの選定。
- 令和8年6月:新制度施行。計画書に「年度内実施」を誓約して加算算定を開始。
- 令和8年夏〜冬:機器の購入、設置、スタッフへの操作研修、実際の運用開始。
- 令和9年3月:全ての誓約事項を完了。
- 令和9年7月頃:実績報告書の提出(誓約した内容が実施されたかを報告)。
もし実績報告の時点で要件を満たせていない場合、算定した加算額の返還が求められるリスクが生じます。
まとめ:効率的な要件充足と経営の安定化に向けて
令和8年度の報酬改定、特に「生産性向上」への対応は、今後の障害福祉経営において避けて通れない最優先事項となります。この記事の締めくくりとして、経営の安定化に向けた要点を整理します。
- 生産性向上は「収益維持」の必須条件
今回の改定により、児童発達支援や放課後等デイサービスにおいて上位の処遇改善加算(加算Ⅰ・Ⅱ)を継続するには、生産性向上への取り組みが事実上の必須条件となりました。
これまでは、現場の努力目標として扱われる側面もありましたが、今後は「取り組まなければ加算区分が下がる」という制度設計に変わります。つまり、生産性向上への着手は、単なる業務効率化ではなく、現在の事業収益を維持するための直接的な経営判断であることを認識する必要があります。
- 課題の見える化
可視化された課題に基づき、ICT機器の導入(項目21〜22)や業務手順の見直し(項目20)等を選択します。この手順を踏むことで、ツール導入時の現場の混乱を避け、実効性のある「生産性向上」の実績を積み上げることができます。
- リスク管理
加算返還への対応:最終的な実績報告で要件を満たせていない場合、算定した加算額の返還が求められます。
結論として
今回の改定対応は、短期的には事務負担を増大させますが、長期的にはスタッフの定着や質の高い支援体制の構築に寄与するものです。まずは自所の現在の取組状況を棚卸しし、令和8年6月の施行、そして年度末の実績報告を見据えたスケジュールを早期に確定させることが、経営の安定化への最短ルートとなります。
(参考資料)