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障害福祉サービス全般

「令和6年度報酬改定後の状況を踏まえた課題」から読み解くこれからの障がい福祉

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2025年(令和7年)12月16日、厚生労働省にて第51回「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」が開催されました。

「令和6年度の報酬改定が終わったばかりなのに、もう次の話?」と思われるかもしれませんが、行政の動きは常に数年先を見据えています。今回の検討会で出された資料や議論の方向性は、次期(令和9年度)報酬改定、あるいはそれ以前に行われる可能性のある制度の微修正(ミニ報酬改定)に向けた重要なシグナルです。

今回は、こちらの会議資料をもとに、「就労継続支援B型のあり方」「新規事業所の規制」、そして多くの事業所様が関心を寄せる「就労移行支援体制加算」の行方について、推論を交えて解説します。

  1. 第51回検討チームの概要と重要性

まず、今回の会議の位置づけを確認してみます。 令和6年度の報酬改定は、過去最大級の改定率プラスとなった一方で、処遇改善加算の一本化など実務への影響も甚大でした。

今回の第51回会合では、「令和6年度報酬改定後の状況を踏まえた課題」が主なテーマとなっています。つまり、「前回の改定で制度を変えてみたけれど、現場ではどのような変化が起きているか? 予期せぬ歪みが生じていないか?」という答え合わせのフェーズに入ったと言えます。

資料は以下のリンクから直接ご確認いただけます。

参考資料: 令和6年度報酬改定後の状況を踏まえた課題(厚生労働省・こども家庭庁)

今回は、特に経営インパクトの大きい以下の3点について深掘りします。

  1. 就労継続支援B型の基本報酬区分のあり方
  2. 就労移行支援体制加算の評価軸の変化
  3. 新規指定事業所に対する報酬設定の厳格化
  1. 就労継続支援B型:支援の「質」と「工賃」のジレンマ

就労継続支援B型事業所様にとって、平均工賃月額に応じた基本報酬の設定は、経営の根幹に関わる部分です。今回の検討チームでは、この仕組みに関する新たな課題意識が提示されました。

議論の背景

現行制度では、基本的に「平均工賃が高い=評価が高い」という設計になっています。しかし、これには長年指摘されているジレンマがあります。

  • 工賃重視の弊害: 工賃を上げるために、生産活動能力の高いご利用者様ばかりを選別する懸念。
  • 重度・困難事例への対応: 精神障害や重度の障害を持ち、安定した通所や長時間労働が難しいご利用者様を受け入れている事業所様が、工賃実績が上がらずに低い報酬区分になってしまう不公平感。

今後の推論:新たな評価軸の創設か?

資料や議論の行方を見ると、「就労支援の成果(工賃)」と「支援の困難性(重度者対応)」を切り分けて評価する仕組みへの転換が検討されている可能性が高いです。

具体的には、生活介護や就労移行支援で見られたような、「通常区分」とは別の評価軸を設け、「工賃は低いが、困難なご利用者様を積極的に受け入れ、地域生活を支えている事業所様」を救済、あるいは正当に評価する方向性が予想されます。

  1. 就労移行支援体制加算:「送り出した数」から「定着の質」へ

今回、あわせて注目したいのが、就労継続支援B型や生活介護等の事業所様が一般就労へご利用者様を送り出した際に算定できる「就労移行支援体制加算」の見直し議論です。

議論の背景と「痛しかゆし」の現状

こちらの加算は単位数が大きく、経営上のメリットは大きいですが、現場からは以下のような「痛しかゆし」の声が上がっています。

  • 工賃低下のジレンマ: 一般就労できるような「エース級」のご利用者様を送り出すと、事業所全体の平均工賃が下がり、基本報酬がダウンしてしまうリスクがある。
  • 実績の不安定さ: 前年度の実績で決まるため、たまたま就職者がでなかった年はガクンと減収になる。

今後の推論:評価軸は「定着」と「連携」へ

今回の資料からは、単に「就職させた数」だけでなく、「そのご利用者様がどれだけ長く働き続けられているか(定着率)」をより重視する方向性が読み取れます。

現在も「6ヶ月定着」が要件に含まれていますが、今後は就労定着支援事業所やナカポツ(障害者就業・生活支援センター)との連携実績を、より細かく評価要件に組み込む可能性があります。 また、前述の「工賃低下ジレンマ」を解消するために、一般就労へ移行した利用者が出た場合、翌年度の平均工賃算出において一定の配慮(除外や補正)を行う措置が検討されるかもしれません。

これは、「工賃が下がるから就職させたくない」という本末転倒な事態を防ぐための案とも推測できます。一般就労への移行を積極的に進める事業所様にとっては、追い風となる変更が期待できる部分です。

  1. 新規事業所への視線:参入障壁は高くなるのか

3つ目のトピックは、新規に参入する事業所に対する報酬単価の考え方です。

議論の背景

近年、障害福祉サービスへの参入は増加傾向にありますが、一部では「知識不足のまま参入し、不適切な運営を行う」「報酬を得ることのみを目的とし、支援の質が伴わない」といった事業所様の存在が問題視されています。

今後の推論:新規指定時の報酬減算や要件厳格化

ここで議論されているのは、「新規指定から一定期間は、あえて低い報酬単価を設定する」あるいは「上位区分の算定を認めず、実績が確認できてから上位区分へ移行させる」といった仕組みの導入です。

これは、非常に強いメッセージを含んでいます。行政は、「とりあえず作れば儲かる」という安易な参入を強く牽制し始めています。もしこの仕組みが本格導入されれば、起業時の資金計画は従来よりもかなり保守的に見積もる必要が出てきます。

  1. 資料から読み解く「これからの障害福祉経営」

上記の具体的な論点から、さらに一歩引いて、今後の障害福祉サービス全体に流れる「空気感」を読み解きます。

「成果」の定義が変わる

これまでは「通所日数」や「工賃額」といった単純な数字が成果でしたが、これからは「一般就労への移行数」「重度者の受入数」といった、より社会的意義の高い(しかし手間のかかる)数字が重視されます。 特に就労移行支援体制加算を狙う場合、「送りっぱなし」ではなく、就職後のフォローアップ体制をどう構築するかが、加算算定の持続性を左右することになります。

記録の重要性に基づいた支援

新規参入規制や加算要件の厳格化に対抗する唯一の武器は「記録」です。 「どのような支援を行い、ご利用者様の生活がどう変化したか」という定性的な成果の可視化が求められます。個別支援計画書と日々の記録が連動していなければ、上位の加算を算定しても、運営指導で返還を求められるリスクが高まります。

財務の健全性と「経営実態調査」への協力

報酬改定の基礎データとなるのが「経営実態調査」です。今回の検討チームでも、収支差率のばらつきなどが議論の土台になっています。 実態調査に正確に回答し、現場のリアルな数字(特に人材確保にかかるコストや、就労支援にかかる見えないコスト)を国に届けることも、巡り巡って自事業所を守ることにつながります。

  1. 事業者様におすすめの今後の取り組みについて

今回の第51回検討チームの内容を踏まえ、今のうちから準備できることは以下の3点です。

  1. 利用者属性と「出口」の再確認 自事業所のご利用者様が「一般就労を目指せる層」なのか、「福祉的就労での安定を目指す層」なのかを見極めていただくことをおすすめします。特に「一般就労を目指せる層」がいる場合、今のうちから企業開拓や実習先確保に動くことで、将来的に強化されるであろう「就労移行支援体制加算」の波に乗ることができるのではないでしょうか。
  2. 「記録」の総点検 「支援の質」を証明する唯一の武器は「記録」と思われます。特に就労系の加算を算定する場合、企業とのやり取りや本人の意向確認のプロセスが記録に残っているかが命綱になります。
  3. 情報収集のアンテナを張り続ける 今回のように、報酬改定の議論は数年前から始まっています。決定事項が出てから慌てるのではなく、検討段階の情報をキャッチすることで、「次はこういう加算が増えるかもしれないから、今のうちに職員にジョブコーチ研修を受けさせておこう」といった先行投資が可能になります。

おわりに

今回の第51回検討チームの資料は、決して「まだ先の話」ではありません。 行政は、限られた財源の中で、「真に支援が必要な人に、質の高いサービスを提供している事業所」へ予算を集中させようとしています。

特に「就労移行支援体制加算」の見直し議論は、事業所様に対して「ただの作業場所ではなく、社会への架け橋になってほしい」という国からの強いメッセージと受け取れます。 制度は複雑化する一方ですが、その根底にある「ご利用者様の自立と尊厳」という目的は変わりません。目先の報酬対策ではなく、支援の質を高めることが、結果として最強の経営安定策になります。

【最後におすすめのアクション】

もしお時間があれば、直近で「一般就労したご利用者様」がその後どうされているか、連絡を取ってみてはいかがでしょうか? その「定着状況」の確認こそが、次期報酬改定で評価される重要なポイントになるかもしれません。

(参考資料)

第51回「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」資料(令和7年12月16日)(厚生労働省)

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