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指定申請・開業準備

【実務解説】利用者が増えたので放課後等デイサービスを別の場所へ|多機能型から分ける前に確認したい指定と基本報酬のポイント

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はじめに

児童発達支援及び放課後等デイサービスを「多機能型事業所」として運営している事業者において、利用児童の増加に伴い、施設環境が手狭になる、あるいは送迎や人員配置が過密になるといった課題が生じるケースがあります。 このような状況下で、一方のサービス(例えば放課後等デイサービス)を別の物件に移転し、独立した事業所として運営を分割する手法が検討されます。しかし、法的な観点からは、これは単なる「事業所所在地の変更届」で済むものではありません。既存の多機能型事業所から一つのサービスを切り離して別の場所で運営する場合、原則として「新たな事業所としての指定(新規指定)」の手続きが必要となります。 本記事では、多機能型事業所の分割・移転を検討するにあたり、指定基準、人員配置、さらには現在の基本報酬の算定ルール等、実務上確認すべき重要事項について解説します。

1.定員超過利用のリスクと「新規指定」の法的性質

利用児童が増加し、施設が手狭に感じられる状態が慢性化している場合、人員配置基準や設備基準を満たしていても、「定員超過利用減算」の適用対象となるリスクが生じます。定員超過が一定の基準を超えると、利用者全員の基本報酬が減算(所定単位数の100分の70等)され、長期間解消されない場合には指定取消等の厳しい行政処分の対象となります。 この状態を適法に解消するための一つの手段が事業所の分離です。ただし、異なる所在地でサービスを提供する場合は、新たな事業所番号が付与される「新規指定」の手続きに該当します。そのため、人員基準設備基準運営基準等の各種指定基準を、既存事業所と新設事業所のそれぞれにおいて独立して満たす体制を再構築することが求められます。

2.人員配置の再検証とクロスチェック対策

多機能型事業所の場合、児童発達支援管理責任者や児童指導員・保育士などの人員を、事業所全体で兼務させることにより効率的に配置する特例が認められています。しかし、事業所を物理的に分割し、二つの独立した事業所として運営する場合、それぞれの事業所において独立して人員基準を満たす必要があります。 具体的には、児童発達支援管理責任者を各事業所に専任で1名ずつ配置する必要があるほか、サービス提供時間帯を通じた児童指導員・保育士の配置要件も個別に算定されます。 運営指導(旧実地指導)においては、タイムカード等の「労働時間記録」、勤務体制一覧表等の「人員配置記録」、及び業務日誌等の「サービス提供記録」が横断的に照合(クロスチェック)されます。事業所を分けた後、「職員が両事業所を不適切に行き来している」「一方の事業所で人員欠如が発生している」といった記録の不整合(ズレ)が発見されると、人員欠如減算等の対象となります。そのため、分割前に両事業所の勤務シフトを厳格にシミュレーションしておくことが不可欠です。

3.新たな物件選びにおける建築基準法と消防法の適合確認

新規指定を受けるにあたっては、新たな物件が児童福祉施設等としての基準を満たしているかが厳格に問われます。 特に注意を要するのが建築基準法と消防法の適合性です。例えば、児童福祉施設としての用途に供する部分の延床面積が200平方メートルを超える場合、建築基準法に基づく「用途変更」の確認申請手続きが必要となります。用途変更には、採光、換気、排煙等の厳格な基準が課され、多額の改修費用と期間を要する場合があります。 また、消防法に基づき、事業用途に応じた消防用設備(自動火災報知設備、誘導灯、消火器等)の設置が義務付けられます。これらの設備が整っていない空き物件の場合、事業者が自らの負担で設置工事を行わなければなりません。したがって、賃貸借契約を締結する前に、指定権者の窓口や管轄の消防署、建築指導部局へ平面図を持参し、事業用途としての適合性を念入りに事前協議する手続きが求められます。

4.利用者との再契約及び重要事項説明書の交付

事業所が分離され、放課後等デイサービスが新規指定を受けて別の事業所番号となる場合、それまで多機能型事業所として利用していた児童についても、新たな事業所との間で利用契約を締結し直す手続きが必要となります。 社会福祉法第77条等の規定に基づき、サービス提供に関する重要事項(新事業所の名称、所在地、運営規程の概要、苦情解決の体制等)を記載した「重要事項説明書」を交付して説明を行い、改めて書面による同意を得なければなりません。 さらに、提供する事業所が変更となることに伴い、児童発達支援管理責任者は、利用児童の新たな環境での状況を把握するためのアセスメントを実施し、個別支援計画を新たに作成(または見直し)した上で保護者に交付し、同意を得るプロセスが法令上求められます。これらの手続きが適正に記録として保存されていない場合、個別支援計画未作成減算等の対象となるため、移行時の事務フローを事前に確立しておく必要があります。

5.基本報酬における「臨時応急的な見直し」の適用

分離後の放課後等デイサービスが新規指定を受ける場合、事業運営の収支計画に直結する最大の留意点が「基本報酬の取扱い」です。 現在の児童発達支援及び放課後等デイサービスの基本報酬の算定においては、サービスの質を担保しつつ制度の持続可能性を確保する観点から、新規指定を受ける事業所に対して「臨時応急的な見直し」として、一定程度引き下げられた基本報酬の特例(放課後等デイサービスの場合は所定単位数の1000分の982などを乗じる等の措置)が適用されるのが基本のルールとなっています。 事業者が「これまで長年、多機能型事業所の中で放課後等デイサービスを運営してきた実績があるため、場所を移して新規指定を受けても、当然に既存事業所と同じ基本報酬が適用される」と誤認していると、事業計画と実際の請求額に大きな乖離が生じ、資金繰りに重大な影響を及ぼす可能性があります。

6.事業の継続性に基づく「特例対象外」の適用要件

ただし、この臨時応急的な見直し(基本報酬の引き下げ特例)には、例外的な取扱いが設けられています。 こども家庭庁が示している方針等によれば、多機能型事業所から一つのサービスを分離・独立させる「合併・分割・事業譲渡等に伴う指定」に該当し、その前後で事業所が実質的に継続して運営されていると客観的に認められる場合においては、特例の対象外となり、既存事業所と同様の報酬体系が適用される旨が規定されています。 この「実質的な継続運営」と認められるためには、分離したことのみをもって自動的に要件を満たすわけではありません。事業者は、指定権者(都道府県や政令指定都市等)に対して、事業分離の背景従前の運営実績職員体制の継続性利用児童の引き継ぎ状況等を客観的証拠(エビデンス)に基づき正確に説明し、実績通算等の承認手続きを経る必要があります。事前相談の段階でこの手続きを怠ると、新規事業所としての特例報酬が適用されてしまうリスクがあるため、指定権者との綿密な連携が不可欠です。

まとめ

多機能型事業所からサービスを分離して新たな場所で事業を展開することは、療育環境の適正化や利用児童の安全確保を図る上で有効な経営判断です。しかしながら、その手続きは単なる所在地の移転ではなく「新規指定」となるため、人員配置の再構築物件の適法性確認利用者との再契約、そして基本報酬の算定要件に関する行政との協議など、多岐にわたる厳密な実務対応が求められます。 特に、労働時間記録や人員配置記録のクロスチェックへの対応、及び現在の基本報酬ルール下における特例措置の適用要件の立証は、事後的な修正が困難であり、指導監査における減算等の行政処分を防ぐための極めて重要なプロセスです。事業分離を検討する際は、計画段階から法的要件を網羅的に検証し、指定権者への事前相談に基づく確実な手続きを進めることが、適法かつ安定的な事業運営の基盤となります。

(参考資料)令和8年度障害福祉サービス等報酬改定等に関するQ&A VOL.2(2026年7月13日)(厚生労働省)

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