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はじめに
障害福祉サービスや児童福祉サービスの運営において、職員の急な退職や長期欠勤は、どの事業所にも起こり得る悩ましい課題です。職員の配置は日々の安全な支援だけでなく、報酬の算定(減算や加算)にも直結するため、欠員が出た際にはまず落ち着いて状況を整理することが大切です。
令和8年5月28日に改正された留意事項通知およびQ&Aにて、厚生労働省から「やむを得ない事情における人員欠如に係る特例的な取扱い」が改めて示されました。この特例について、「人員が不足してもペナルティ(減算)が少し待ってもらえる」という情報を見聞きされた経営者様もいらっしゃるかもしれません。
しかし、この特例を「人員が不足しても減算されない制度」と受け取ってしまうと、後々の大きなリスクにつながる可能性があります。この特例は無条件に人員不足を許容するものではなく、「適切な採用活動を行うための準備期間(猶予)を設けるための例外的な措置」と考えるのが実務には合っています。
この記事では、令和8年5月28日付の最新の留意事項通知とQ&Aをもとに、急な欠員が出たときに事業所がどのような順序で確認し、行政へ報告・相談していくべきか、日常業務に落とし込んで整理して解説します。
1.特例の対象は「1割以内の不足」に限定される点に注意

今回の特例は、突発的で想定が難しい事情により、必要な職員数から「1割の範囲内」で不足した場合に、一定の条件を満たすことで、1年に1回に限り、人員欠如による減算の適用を最大3ヶ月間(欠員が生じた月の翌々月まで)猶予するというものです。
ここで最もご注意いただきたいのは、「(施設全体の人数ではなく)その職種に必要とされる人数の1割を超える欠員が生じた場合、この特例は使えない」という点です。たとえば、配置基準が少ない職種(看護職員など)で1名欠員が出た場合、その職種だけで計算されるため、一気に1割超の不足となるケースがあります。1割を超えた場合は特例の対象外となり、これまで通り「欠員が生じた翌月」から直ちに減算が適用されます。まずはこの基本ルールを念頭に置いておくことが重要です。
2.欠員が出たら、まず「人員基準上の不足」かを確認する
職員が1人辞めた、あるいは1人休職した。この時点で、すぐに「人員欠如の減算になる」と決まるわけではありません。まず確認すべきは、残ったスタッフの勤務時間合計で、事業所として必要な「常勤換算数」を下回っているかどうかです。
ここで大切なのは、「現場の負担が増えていること」と「制度上の人員基準を下回っていること」は、分けて確認するという視点です。
欠員が出たときは、まず次の点を確認します。
- 欠員が出た日:退職日、休職開始日、最終出勤日など
- 不足した職種:生活支援員、児童指導員、看護職員など、どの要件の職種か
- 不足の割合:配置基準として必要な人数から「1割以内」に収まっているか、超えているか
- 兼務の有無:退職者が他の職種(サビ管等)を兼務していなかったか
【要注意】サビ管・児発管が欠員となった場合
退職したスタッフが「サービス管理責任者」や「児童発達支援管理責任者」であった場合、人員欠如減算の特例猶予の対象になったとしても、別のペナルティである「個別支援計画未作成減算」が当該月から直ちに併発する極めて高いリスクがあります。職種によって影響度が大きく異なる点にご留意ください。
3.「なぜ欠員になったのか」を時系列で整理する

次に確認したいのは、欠員の理由です。 今回の特例が適用される「突発的で想定が困難な事象によりやむを得ない事情」として、厚労省のQ&Aでは以下の例が挙げられています。
- 職員や家族の突発的な体調不良等により1か月を超える不在が見込まれる場合
- 職員の自己都合による急な離職等が複数重なった場合
すべての欠員が無条件に認められるわけではなく、「以前から慢性的に人員不足だった」「求人を全く出していなかった」といった場合は対象外となる可能性が高いです。行政へ相談する準備として、次のように事実を時系列で整理しておくことをおすすめします。
- 〇月〇日:職員から退職・休職の申出
- 〇月〇日:最終出勤日または休職開始日
- 〇月〇日:勤務表の再計算と人員基準への影響を確認
- 〇月〇日:ハローワーク等へ求人申込み
感情的に「急に辞められて困っている」と伝えるのではなく、「いつ、誰が、どの職種で、どのような理由で不足したのか」を客観的な事実として整理しておくことが、行政との円滑な協議の第一歩となります。
4.求人は「出したかどうか」だけでなく、客観的な記録を残す
特例の適用を受けるためには、「ハローワークや無料の職業紹介事業等を活用して、採用活動を実際に行っていること」が必須要件となります。 単に「求人活動をしています」と口頭で伝えるだけでは不十分であり、指定権者への報告時には「有効な求人票の写し」の添付が求められます。
いつ、どこに、どの職種で求人を出したのか、以下の記録を残しておくことが重要です。
- 求人票の控え:ハローワーク、福祉人材センター、求人媒体の掲載画面など
- 求人申込日:いつの時点で募集を開始したか
- 募集職種と条件:不足している要件(資格や常勤等の条件)と合致しているか
欠員が出てから慌てるのではなく、日頃から求人条件や採用ルートを見直しておくことが、いざという時の事業の守りにつながります。
5.残った職員に負担を寄せすぎない体制づくり

欠員が出ると、残った職員のシフトを増やして何とか現場を回そうとすることが少なくありません。利用者様への支援を止めないための緊急対応としてはやむを得ない面もありますが、特例の適用条件には「一部の職員へ過度な業務負担とならないよう、当該事業所は職員の適正な労働時間管理を行い、体制の整備を図るよう努めること」と明記されています。
残った職員に過度な負担がかかっている状態では、特例の適用条件を満たせなくなる可能性があります。送迎体制に無理が生じていたり、会議や支援記録が後回しになっていたりすれば、安全面や運営基準上の別のリスクを生むことになります。残業時間の管理を含め、業務の優先順位を見直し、スタッフの健康と支援の質を守る配慮をご検討ください。
6.指定権者への相談・報告と「波及リスク」の確認
今回の特例を活用する場合、事業所内だけで判断せず、事実確認ができた時点で、職員の確保に係る取組や事情を別紙様式に記載し、指定権者へ報告する必要があります。
報告の際は、「この日から、この職種が不足し、現在このような求人活動と体制で対応しています」と具体的に説明できる状態にしておくと、行政担当者とも前向きな協議が進めやすくなります。
また、基本報酬の人員欠如減算だけでなく、人員の手厚い配置を条件とする各種加算(福祉専門職員配置等加算や夜間支援等体制加算など)の要件を同時に満たせなくなっていないか、波及リスクの確認も忘れずに行うことをおすすめします。
7.長引く人員不足は、運営体制全体の見直しのサイン
今回の特例は、あくまで「急な欠員に対する一時的な猶予」です。猶予期間(最大3ヶ月間)を過ぎても人員が確保できない場合は、通常の減算が適用されます。 著しい人員欠如が継続する場合には、行政指導や、最悪の場合は指定取消しの検討対象となることも明記されています。
欠員が一時的なものではなく長引きそうな場合には、このような場合は特例の枠組みを超え、現在の利用定員は実態に合っているか、サービス提供時間に無理はないかなど、事業所全体の運営体制やサービス提供のあり方そのものを見直すタイミングと言えるかもしれません。
まとめ
人員不足に関する新たな特例は、「減算を避けるための便利な制度」ではなく、「急な欠員が生じた際に、事業所がどの順番で事実を確認し、どのようにリカバリーへ動くべきかを示した実務上の手順」と捉えることが大切です。
「人員基準を満たしているか」「どの加算に波及するか」といった複雑な要件管理や指定権者への報告においては、客観的な記録の整理と、制度に基づいた正確な判断が求められます。事業所の皆様が本来の支援業務に安心して注力できるよう、日頃から勤務実績の確認ルールの見直しや採用ルートの確保など、万が一の事態に備えた実務面での体制づくりをご検討ください。
(参考)