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2025年11月11日の財政制度等審議会(財政審)では、「障害福祉サービスの見直し」が大きなテーマとなり、その中で共同生活援助(グループホーム)も例外ではなく、費用の急増や事業所数の増加が強く意識される内容となりました。
一方で、厚生労働省の資料をみると、グループホームは「地域で暮らす場」として、重度化・高齢化した方や、入所施設からの地域移行を支える重要なインフラとして位置づけられています。
「じゃあ、グループホームはこれから縮小なのか、それとも役割が変わるのか?」―現場として一番気になるのはこの点だと思います。今回は財政審資料の方向性と、厚労省資料や令和6年度報酬改定の内容を重ね合わせながら、共同生活援助(グループホーム)の“今後”を整理してみます。
目次
- 対象サービス名(共同生活援助とは)
- 算定加算単位と令和6年度改定のポイント
- 財政審資料が示すグループホームをめぐる課題
- 今後想定される制度見直しの方向性
- グループホーム事業者が今から準備しておきたいこと
- まとめ
1.対象サービス名(共同生活援助とは)
共同生活援助(グループホーム)は、障害者総合支援法に位置づけられた「地域の住まい」のサービスです。厚生労働省の資料では、
- 地域住民との交流が確保される地域の中で
- 家庭的な雰囲気のもと
- 数名規模で共同生活を営む住まいの場
と位置図けられています(1住居あたり平均利用者数は6名程度とされています)。
現在の共同生活援助には、大きく次の3類型があります。
- 介護サービス包括型
- 夜間や早朝を中心に、入浴・排せつ・食事などの日常生活上の介護と、相談・余暇支援等を包括的に提供
- 日中は生活介護や就労系サービスなど、別の通所サービスを利用するのが基本
- 日中サービス支援型
- 重度の障害がある方に対し、日中も含めた常時の支援体制を確保
- 短期入所を併設し、地域で暮らす障害者の緊急一時的な宿泊の場としても機能
- 入所施設からの地域移行や、重度の方の地域生活を支える「中核的サービス」として期待されている
- 外部サービス利用型
- 主として夜間の見守り・家事支援などをグループホームが担い、介護部分は外部の居宅介護等を利用
- 比較的軽度な方や、単身生活へ移行していく準備段階として位置づけられる場面も多い
もともと「比較的軽度な方の住まい」として始まったグループホームですが、厚労省自身が「重度化・高齢化に対応できる地域生活の場」への転換を進めてきた、という流れを押さえておくことが大切です。
2.算定加算単位と令和6年度改定のポイント
令和6年度障害福祉サービス等報酬改定では、共同生活援助についても大きな見直しが行われました。厚労省資料では、共同生活援助に関する主な改定事項として、
- グループホームから希望する一人暮らし等への移行支援の充実
- 共同生活援助における「支援の実態」に応じた報酬の見直し
- 地域連携推進会議のような外部の目の導入
などが掲げられています。
2-1.基本報酬のイメージ
介護サービス包括型の共同生活援助では、令和6年度改定後の「共同生活援助サービス費(Ⅰ)」が、障害支援区分ごとに次のような単位数で示されています。
- 区分6:600単位/日
- 区分5:456単位/日
- 区分4:372単位/日
- 区分3:297単位/日
- 区分2:188単位/日
- 区分1以下:171単位/日
従来の「世話人配置4:1」「5:1」といった区分は廃止され、世話人の配置基準そのものではなく、「サービス提供時間」や「加配の状況」を別枠の加算で評価する方向に改められています。
2-2.代表的な加算の方向性

共同生活援助では、基本報酬に加えて、
- 人員配置体制加算(Ⅰ)(Ⅱ)
- 日中支援加算(Ⅰ)(Ⅱ)
- 自立生活支援加算(Ⅰ)~(Ⅲ)
- 退居後共同生活援助サービス費、退居後外部サービス利用型共同生活援助サービス費【新設】
- ピアサポート実施加算、退居後ピアサポート実施加算【新設:100単位/月】
など、「手厚い支援」「地域移行に向けた支援」「ピアサポートによる支援」を評価する加算が重ねられる構造になっています。
つまり、令和6年度改定のメッセージをまとめると、
「軽度の方ばかりを集めて“寝かせておくだけ”のホーム」ではなく、「重度の方を含めて、地域で生活を続けるための支援をしっかり行うホーム」を高く評価する
という方向に報酬体系が動いていると言えます。
3.財政審資料が示すグループホームをめぐる課題
財政審資料(2025年11月11日)は、障害福祉サービス全体について、
- 総費用額は過去10年で約2倍
- 直近の年度(R5→R6)は対前年度比12%程度の急伸
- その要因として、「利用者数の増加」だけでなく「1人当たり費用額の伸び」が大きい
と分析しています。こうした傾向は、厚労省が公表している「障害福祉サービス等の費用の状況」でも、R5→R6年度の総費用額が12.1%増と示されており、財政審も同じデータをベースに議論していると考えられます。
その中で、共同生活援助(グループホーム)については、
- サービス類型別に見たときの総費用額の伸びが特に大きい
- 1事業所当たり総費用額も、他サービスに比べ高い伸びを示している
- 事業所数も増加傾向で、営利法人の参入も多い
といった点が、財政上の課題として意識されていると読み取れます。
実は、こうした問題意識は以前から厚労省側の資料にも現れており、
- グループホームの収支差率が、障害福祉サービス全体の平均より高い
- 特に支援区分3・4など「中程度の区分」の収支差率が高く、利用者がそこに偏っている可能性
- 収支差は年間を通じて増加傾向
といった分析が示されています。
財政審資料は、こうした状況を前提に、
「総費用額急増の要因を分析し、報酬改定の政策意図に沿わない部分があれば、早急に対策が必要」という方向性を打ち出していると言えるでしょう。
4.今後想定される制度見直しの方向性
ここからは、財政審資料のトーンと、厚労省の既存資料・令和6年度報酬改定の流れを踏まえつつ、「あり得そうな方向性」をあくまで行政書士の一つの見立てとして整理します。
4-1.「中程度区分偏重」へのさらなる是正
すでに令和6年度改定で、
- 重度の利用者を受け入れているホームの評価(加算)の拡充
- 支援区分ごとの基本報酬の見直し
が打ち出されています。
今後も、
- 「区分3・4の利用者ばかりが集まっているホーム」
よりも - 「重度の方や、地域移行を目指す方をバランスよく受け入れるホーム」
の方が評価される方向に、報酬や加算が調整されていく可能性は高いと考えられます。
4-2.グループホームは「終の棲家」から「地域移行のハブ」へ
令和6年度改定では、
- 自立生活支援加算の見直し
- 退居後共同生活援助サービス費、退居後外部サービス利用型共同生活援助サービス費の新設
- 退居後ピアサポート実施加算の新設
など、グループホーム退居後の生活を支える加算が整備されました。
これは、グループホームを「入ったら出ない場」ではなく、
- 入所施設から地域生活へ移行する受け皿
- そこからさらに、一人暮らし等へつなぐ“中継基地”
として位置づけていく流れと読み取れます。財政審の立場から見ても、
- いつまでもグループホームに滞留する構造
よりも - 必要な期間はしっかり支えつつ、段階的に自立生活へ移行していく構造
の方が、長期的な費用の抑制につながると考えるのは自然です。
4-3.ガバナンスと「外部の目」の強化
令和6年度改定では、
- グループホーム等における「地域連携推進会議(運営推進会議に相当する仕組み)」の導入
- 地域の関係者や第三者による評価を定期的に受けること
が運営基準上の義務として位置づけられました。
財政審資料でも、障害福祉サービス全体について「サービスの質の確保と費用抑制の両立」がキーワードとして挙げられており、
- 事業所数・利用者数の増加に見合う質が本当に確保できているか
- 地域のニーズに合った整備になっているか
を、今後さらにチェックしていく方向が想定されます。
4-4.供給量(総量)調整の議論
財政審の議論や、これまでの障害保健福祉関係の会議資料をみると、
- サービスの必要量に応じて、地域ごとに整備の目安(基本指針)を設定
- グループホームの整備が過度に偏らないよう、自治体の役割を強化
といった方向性が示唆されています。
「すぐに新規指定が止まる」ということではありませんが、中長期的には、量より質・必要性を重視した整備管理へとシフトしていく可能性は十分あると考えておくべきでしょう。
5.グループホーム事業者が今から準備しておきたいこと

最後に、現場として「今からできること」を整理しておきます。
5-1.利用者構成と支援内容の“見える化”
- 平均障害支援区分
- 重度(区分5・6など)の利用者割合
- 行動障害や医療的ケアの有無
- 入所施設等からの地域移行の実績
といった情報を、定期的に整理しておくことが大切です。
今後、重度者の受け入れや地域移行の実績が、加算だけでなく「制度見直しの際の評価材料」にもなっていく可能性があります。
5-2.一人暮らし等への移行支援を「仕組みとして」組み込む
- 自立生活支援加算
- 退居後共同生活援助サービス費・退居後外部サービス利用型
- ピアサポート実施加算
などを上手に活用しながら、
- 入居時から「この方は数年後にどんな暮らしを目指すのか」
- 退居後も含めたライフプラン
をケア会議や個別支援計画の中に落とし込んでおくことが、今後ますます重要になりそうです。
5-3.地域連携推進会議など「外部の目」を味方につける
- 家族、相談支援専門員、自治体担当、地域の関係機関などに
- ホームの取組状況
- 利用者の変化
- 課題と今後の方針
を丁寧に共有し、「このホームは地域に必要だ」と言われる関係性を築いておくことが、将来の制度見直し局面で大きな力になります。
5-4.収支と加算の関係を冷静にシミュレーション
- 令和6年度改定後の基本報酬・加算を前提にした収支
- 仮に今後、特定の区分や加算の単位数が調整された場合の影響
を、簡単なシミュレーションでもよいので把握しておくと、
- 人員体制
- 居室数・住居の構成
- 利用者層のバランス
を見直す際の判断材料になります。
6.まとめ
- 財政審資料は、障害福祉サービス全体の費用急増、とりわけグループホームの費用伸びを強く問題意識として掲げています。
- 厚労省の資料や令和6年度報酬改定を見ると、
- 重度・高齢化への対応
- 地域移行・一人暮らし支援の強化
- 外部の目による質の確保
といった方向性が、すでに具体的な加算・単位として形になりつつあります。
- 今後の見直しでは、
- 「中程度区分に偏ったホーム」や
- 量的拡大だけを目的とした新規参入
には、厳しい目が向けられる可能性があります。
一方で、
- 重度の方や地域移行をしっかり支え
- 退居後も含めた生活に責任を持ち
- 地域とつながりながら透明性の高い運営を行う
グループホームは、制度が変わっても「必要なサービス」として、むしろ評価される方向にあると考えられます。
焦って不安になるよりも、「うちのホームの強みは何か」「どこを強化すれば、これからの制度にフィットするか」を、少しずつ言語化していくことが大切だと言えます。
(参考資料)
財政制度分科会(令和7年11月11日開催)資料3 社会保障②(財務省)P80 P81
共同生活援助 (介護サービス包括型・外部サービス利用 型・日中サービス支援型) に係る報酬・基準について ≪論点等②≫(令和2年11月18日)(厚生労働省)