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はじめに
就労継続支援B型事業所の開設に向けた指定申請(事前協議等)では、事業計画書や人員配置図と並び、「収支予算書」の提出が求められます。
収支予算書は、単に形式上の収支を合わせて黒字にするための計算表ではありません。厚生労働省の「指定就労継続支援事業所の新規指定及び運営状況の把握・指導のためのガイドラインについて」においても、開設後に予定している事業計画(利用者確保・生産活動・工賃・人員配置等)が、数値として合理的に根拠付けられているかを確認するための重要資料として位置づけられています。
本記事では、指定申請で求められる収支予算書の基本的な作成手順と、行政審査(指定権者による確認)をスムーズに進めるための具体見積・算出方法を解説します。
1. 収支予算書作成の基本構造と順番

収支予算書を作成する際、給付費収入から逆算して数字を埋めようとすると、事業計画との間に矛盾が生じやすくなります。
収支予算書は、就労支援事業の構造に沿って次の順番で組み立てることが基本です。
- 利用者数の見込み(段階的な計画)
- 生産活動収入の見込み(作業量と単価の積算)
- 工賃支給額の算出(生産活動収支に基づく設定)
- 訓練等給付費収入の計算(基本報酬区分・加算の確認)
- 人件費および事業費・事務費の積み上げ
- 初回給付費入金までの資金繰り(運転資金)の確認
このように、各計画の数値を連動させながら整理していくことが必要となります。
2. 開所初期の「利用者数」の見積もり方
定員20名の事業所を開設する場合であっても、開所初月から定員20名が満床で稼働すると想定して試算することは、実際の開所初期の状況とかけ離れるため行政審査で説明を求められる場合があります。
【実態に基づいた段階的な計画の設定】
収支予算上は、開設時点での具体的な見込みに基づいて積算を行います。
- 利用意思が確認できている方(契約内定者)
- 見学・体験利用の予定者
- 地域相談支援事業所や特別支援学校等からの紹介見込み
これらを客観的に積み上げ、例えば「開所月:5名 → 3か月後:8名 → 6か月後:12名 → 1年後:15名」のように、段階的に利用者が増加する推移モデルを設定するのが一般的です。
※人員配置(スタッフ数)の計算では安全基準として「定員」を用いますが、収入の試算はあくまで「実際の利用見込み人数」で計算します。計算目的が異なるため、混同しないようご注意ください。
3. 「生産活動収入」と「工賃」の積算モデル

就労継続支援B型における工賃の支給は、障害者総合支援法指定基準第201条により、次の方程式に基づかなければなりません。
生産活動収入 – 生産活動経費 = 工賃支払原資
「就労支援事業会計の運用ガイドライン」に示されている通り、福祉事業活動(自立支援給付費)と生産活動費用は明確に区分して経理する必要があります。自立支援給付費から工賃を支払う(補填する)ことは指定基準違反となりますので、収支予算上も生産活動単体の収支で工賃が賄える計画にすることが不可欠です。また、利用者1人当たりの平均工賃月額は3,000円以上でなければなりません。
(モデル1)内職・軽作業・製造型の場合
- 開所初月の利用者数:5名(1人当たり1日4時間、月20日作業)
- 軽作業の請負単価:1個 20円(1人1時間当たり12.5個生産)
- 生産活動収入見込み:5名 × (12.5個 × 4時間) × 20日 × 20円 = 月100,000円
- 生産活動経費(材料費・配送料等):月30,000円
- 工賃原資:100,000円 - 30,000円 = 70,000円
- (利用者5名の場合、1人当たり平均工賃:14,000円/月)
(モデル2)施設外就労・清掃請負型の場合
- 清掃受託契約:1回 15,000円(月8回実施)
- 生産活動収入見込み:15,000円 × 8回 = 月120,000円
- 生産活動経費(消耗品・移動交通費):月20,000円
- 工賃原資:120,000円 - 20,000円 = 100,000円
- (利用者5名の場合、1人当たり平均工賃:20,000円/月)
審査においては、「単価の根拠資料(契約書ひな型や見積書)」や「必要な人員を作業に配置できる体制があるか(作業量積算根拠)」の提示が求められます。
4. 訓練等給付費収入の計算と報酬区分の注意点
訓練等給付費収入の基本計算式は次の通りです。
(基本報酬単位数 × 地域区分単価 × 延べ利用日数)+ 加算額
【新規指定時における基本報酬区分の適用ルール】
就労継続支援B型の基本報酬区分は「前年度の平均工賃月額」に応じて設定されますが、新規指定事業所の場合、初年度(年度途中指定の場合は翌年度末まで)は原則として「平均工賃1万円未満」の区分が適用されます。
ただし、支援開始から6か月経過した以降は、直近6か月間の平均工賃月額実績に応じた基本報酬区分へ変更の届出を行うことが可能です。開所初月からの収支予算においては、初期の基本報酬区分を過大に見積もらないよう注意が必要です。
※なお、令和8年6月施行の障害福祉サービス等報酬改定により、就労継続支援B型の基本報酬区分の基準額引き上げ(3,000円引き上げ)や経過措置等の見直しが行われるため、指定時期に応じた最新の報酬告示の確認が必要です。
【加算の反映について】
目標工賃達成指導員配置加算や福祉専門職員配置等加算などの加算項目は、人員配置要件・届出要件を満たし、開所時点で確実に算定できるものに絞って収入に計上することが推奨されます。
5. 人件費・固定費の計上と会計区分
支出の部では、人員配置計画に沿った人件費と、事業所運営に必要な固定費を積み上げます。
【経費の区分経理ルール(福祉事業活動費用 vs 生産活動費用)】
「就労支援事業会計の運用ガイドライン」に基づき、費用は以下のように整理します。
- 福祉事業活動費用:人員配置基準内の職員給与(管理者、サービス管理責任者、職業指導員、生活支援員等)、事業所の建物家賃、指定設備の光熱費・保険料等
- 生産活動費用:生産活動に直接必要な材料費、資材消耗品費、生産活動用機械のリース料、配送用ガソリン代等
管理者やサービス管理責任者等の人件費や賃借料を、合理的な理由なく生産活動費用へ算入させることは認められません。
6. 給付費入金までの「資金繰り」と運転資金

収支予算書上で単年度の損益が黒字であっても、開所初期の現金繰りには注意が必要です。
障害福祉サービスにおける訓練等給付費は、国保連(国民健康保険団体連合会)への請求から振込まで約2か月のタイムラグが生じます。
- 4月分のサービス提供 → 5月10日までに請求 → 6月中旬に初回給付費が入金
つまり、開所から少なくとも2か月間は、給付費収入がない状態で「職員給与」「家賃」「光熱費」等の支払いが先行します。返戻(請求データの差し戻し)等が発生した場合の遅延リスクも含め、少なくとも2〜3か月分以上の事業運営費を補える運転資金(手元資金)を資金計画に組み込んでおく必要があります。
7.行政審査(事前協議・生産活動シート)でのチェックリスト
指定権者(都道府県・市町村)による事業計画書・収支予算書の審査では、厚生労働省作成の「生産活動シート」を活用して以下の整合性が重点確認されます。
- 利用者数と給付費の整合性:事業計画書の段階的利用者数推移と、収支予算書の延べ利用日数が合致しているか
- 生産活動と工賃の整合性:生産活動収入から生産活動経費を差し引いた金額が、工賃支給予定額を上回っているか(給付費からの補填になっていないか)
- 作業量の客観的根拠:請負単価・作業時間・配置人数から算出した生産量が物理的に実現可能か(請負契約書ひな型等の裏付けがあるか)
- 人員配置と人件費の整合性:人員配置計画上のスタッフ人数・雇用形態と、計上されている人件費の総額・内訳が一致しているか
- 基本報酬区分の適正性:新規指定時の適用区分(平均工賃1万円未満)に基づいた計算になっているか
まとめ
就労継続支援B型の収支予算書は、単に黒字の数値を算出するための書類ではなく、「開所後に予定している事業が、利用者数・生産活動・人員配置・資金繰りの側面で矛盾なく成り立っているか」を証明するための資料です。
各計画の数値を連動させ、実態に即した客観的な積算根拠を用意することが、指定申請手続きを円滑に進めるポイントとなります。
(参考資料)
・「指定就労継続支援事業所の新規指定及び運営状況の把握・指導のためのガイドラインについて」(令和7年11月28日)(厚生労働省)
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