生活介護

生活介護の医師未配置減算と実務対応のポイント

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生活介護を運営する事業所では、利用者の健康管理や療養上の指導を行うために「医師の配置」が求められています。
一方で、看護師等の体制を整えたうえであえて医師を配置せず、その代わりに報酬を減算する「医師未配置減算」という制度も設けられています。

医師の確保が難しい地域や、嘱託医の予定が合わないケースでは、この医師未配置減算が問題になることが少なくありません。
減算単位は一見小さく見えますが、年間で見ると大きな金額になりますし、運営指導でも確認されるポイントです。

今回は生活介護における医師未配置減算の基本的な考え方と、現場で押さえておきたい実務上のポイントを説明します。

目次

  1. 医師未配置減算とは
  2. 対象となるサービスと医師配置の義務
  3. 減算単位と経営への影響
  4. 医師を配置しないことが認められる条件
  5. 医師未配置減算と人員欠如減算の違い
  6. 減算の開始・終了と届出実務のイメージ
  7. 実地指導で見られやすいポイント
  8. まとめ

対象サービス名

  • 障害福祉サービス:生活介護(施設系サービス)

算定(減算)単位

  • 医師未配置減算:1日につき 12 単位を減算

1.医師未配置減算とは

医師未配置減算は、本来医師を配置すべき生活介護事業所で医師が配置されていない場合に、利用者 1 人あたり 1 日 12 単位を基本報酬から減算する仕組みです。

そもそも生活介護を実施する施設には、利用者の障がい特性に応じて、日常生活上の健康管理や療養上の指導を行う医師を必要数配置しなければならないとされています(嘱託医でも可)。

しかし、現場では医師の確保が難しい場合や、看護師等の体制が十分であることを理由に医師を置いていない事業所も見られます。そのような場合に用いられるのが医師未配置減算です。

2.対象となるサービスと医師配置の義務

生活介護における医師配置

生活介護事業所では、

  • 利用者の健康状態の把握
  • 疾病の早期発見
  • 療養上の指導

などを行うため、嘱託医を含め必要数の医師を配置することが求められています。

この「配置」の中身について、いくつかの自治体は通知や集団指導資料で次のような目安を示しています。

  • 原則として月 1 回以上、健康管理や指導を目的として来所している
  • 利用者の障がい特性に応じた診察や助言が行われている など

こうした実態がない場合、形式上嘱託契約をしていても「医師を配置している」とは認められず、医師未配置減算の対象となり得ます。

3.減算単位と経営への影響

12 単位/日の意味

医師未配置減算は「12 単位/日」とされています。

一見すると小さな数字ですが、利用者数と営業日数を掛け合わせると、年間ではかなりの額になります。

例えば、

  • 利用者数:20 人
  • 営業日数:月 20 日
  • 1 単位:10 円で試算

とすると、

12 単位 × 20 人 × 20 日 = 4,800 単位
4,800 単位 × 10 円 = 月 48,000 円の減算

年間では概ね 50~60 万円の減収となり、他の加算でカバーしきれないケースも出てきます。

また、「障害福祉サービス費等の報酬算定構造」には、生活介護の基本報酬に「医師配置がない場合」が組み込まれており、減算を前提とした請求体系となっていることがうかがえます。

4.医師を配置しないことが認められる条件

厚生労働省の報酬改定 Q&A では、医師未配置減算に関して次のような考え方が示されています。

  • 看護師等が利用者の健康状態を把握し、健康相談に対応している
  • 必要に応じて医療機関への通院を支援することにより対応が可能である

このような体制が整っている場合に限り、医師を常時配置しない取扱いが認められるとされています。

ただしここが重要なポイントで、

「医師を配置しない取扱い」が認められる=減算が不要

という意味ではありません。

同 Q&A では、医師を配置すべき事業所で医師を配置していない場合には、人員欠如減算ではなく医師未配置減算として取り扱うことが示されています。

つまり、看護師等の体制を整えて医師を置かない場合であっても、原則として医師未配置減算の対象となると言えます。

5.医師未配置減算と人員欠如減算の違い

生活介護の報酬体系には、

  • サービス提供職員欠如減算
  • サービス管理責任者欠如減算
  • 生活介護計画未作成減算 など

複数の減算が存在します。

その中で医師に関するものは「人員欠如減算」ではなく、独立した「医師未配置減算」として位置付けられています。

このため、

  • 看護職員が不足している → サービス提供職員欠如減算
  • 医師を配置すべき事業所で医師がいない → 医師未配置減算

と、適用される減算が異なります。請求上も別のサービスコードとなるため、実務上の整理を誤らないよう注意が必要です。

6.減算の開始・終了と届出実務のイメージ

実務でもよく質問されるのが、「医師が退職した(契約が終了した)場合、いつからいつまで医師未配置減算を適用すべきか」という点です。

国の Q&A や各自治体の案内では、加算・減算に係る届出や体制変更の期限として「毎月 15 日」を基準にしている例が多く見られます。

また、指定内容の変更届について「変更のあった日から〇日以内」と期限を定めている自治体もあります。

一方、医師未配置減算そのものの「開始日・終了日」については、

  • 医師の配置がなくなった日(翌日)から減算対象とする
  • 変更届が受理された月の翌月から減算終了とする

など、自治体ごとに細かな運用が示されている場合があります。

したがって、実務では必ず管轄自治体の通知・集団指導資料・国保連の案内を確認し、そのルールに従って減算期間と届出時期を判断することが重要です。

7.運営指導で見られやすいポイント

医師未配置減算は、実地指導の場でも確認されやすい項目です。自治体の資料等から、よくチェックされるポイントを整理すると次のとおりです。

  1. 嘱託医契約の有無と内容
    • 契約書に勤務頻度(原則月 1 回以上など)、業務内容(診察・健康指導等)が明記されているか。
    • 健康診断や予防接種のみの形骸的な契約になっていないか。
  2. 勤務実績の記録
    • 勤務形態一覧表や出勤簿、日誌等に、嘱託医の来所日・実施内容が記録されているか。
    • 契約はあるが実際にはほとんど来所していない、という状態になっていないか。
  3. 看護職員等による健康管理体制
    • 看護師等によるバイタルチェックや健康相談の実施状況を記録しているか。
    • 必要に応じて医療機関を受診した記録(連絡票、報告書など)が残っているか。
  4. 減算の届出と請求内容の整合性
    • 医師が不在となった期間について、医師未配置減算の届出を行っているか。
    • 実際の請求で「医減」のサービスコードが使用されているか、届出と齟齬がないか。

これらの点が不十分な場合、「医師を配置している」と主張しても認められず、未配置減算の適用や指導・改善命令の対象となり得ます。

8.まとめ

医師未配置減算は、

  • 生活介護において医師を配置すべき事業所で
  • 医師が配置されていない場合に
  • 利用者 1 人あたり 1 日 12 単位を減算する

という制度です。

看護師等の体制を整えれば、医師を常時配置しない取扱い自体は認められますが、その場合でも原則として医師未配置減算の対象になります。

一日あたりの減算額は小さいものの、年間では大きな影響を及ぼします。また、嘱託医契約の実態や勤務記録、減算の届出状況は運営指導で必ず確認されるポイントです。

  • 嘱託医契約の内容と勤務実績を記録に残す
  • 看護職員等による健康管理体制を明確にする
  • 医師が不在になった場合の減算適用期間と届出期限を、管轄自治体の通知で確認する

といった点を押さえておくことで、不要な減算や指導リスクを減らすことができます。

本記事が、生活介護事業所の皆さまが医師配置と医師未配置減算の取扱いを整理する一助となれば幸いです。

(参考文献)

障害者総合支援法 事業者ハンドブック〈報酬編〉(中央法規)

(参考資料)

平成27年度障害福祉サービス等報酬改定に関するQ&A (平成27年3月31日)(厚生労働省)P8

障害者支援施設における医師配置の取扱いについて(平成25年12月26日)(厚生労働省)

事業所等運営に関する 基本的な事項について② (報酬請求等)(令和7年7月15日)(岐阜市)

「医師未配置減算」の取扱いについて(通知)(令和7年5月30日)(松戸市)

障害福祉サービス費等の報酬算定構造(厚生労働省)

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