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はじめに
2026年12月25日、「こどもの性的な暴力等の防止等に関する法律(以下、こども性暴力防止法)」が施行されます。いわゆる「日本版DBS」として報道される制度です。 児童発達支援や放課後等デイサービスは、この法律における「義務対象事業者(学校設置者等)」に位置づけられます。 本記事では、施行まで約7か月となった2026年5月現在、児童福祉施設の経営者様・管理者様に向けて、採用活動と社内規程の整備に関して「法律上どのような対応が求められるのか」を整理します。ルールの見直しや、円滑な制度導入に向けた情報整理にお役立てください。
1.採用活動における法的ポイントと実務の変更点

こどもと接する業務に従事させる者について、専用システムを通じて性犯罪前科の確認(犯罪事実確認)を行うことが義務付けられます。これを既存の採用フローに組み込むには、職業安定法や労働契約法といった労働法制との整合性を図る必要があります。
① 照会のタイミング——「選考段階」での使用は控える
犯罪事実確認は採用・就労の前提として行われるものであり、採用選考の段階(応募・書類審査・面接等)で照会を行うことは法律の趣旨に沿いません。 選考段階で「過去に性犯罪歴があるか」を応募者に直接問うことは、職業安定法が禁じる「業務の目的の達成に必要な範囲を超えた個人情報の収集」に抵触するリスクがあります。実務上、照会は原則として「内定後・採用決定後から従事開始前まで」に行う手続きとしてフローを設計します。
(※やむを得ない場合の「いとま特例」について) 現場の急な欠員補充など、どうしても従事開始前までに確認が間に合わない場合、「従事開始から3ヶ月以内(※合併等の一定の場合は6ヶ月以内)」に確認を行う特例(いとま特例)が認められています。ただし、確認が完了するまでの間は、「こどもと1対1にさせない」ことに加え、「対象者への性暴力防止に関する研修の受講」「管理職による定期的な巡回・声掛け」といった安全確保措置を講じることが適用の条件となります。
② 照会結果を理由とする「内定取消し」の法的整理
仮に内定後に犯罪事実確認を行い、性犯罪前科が判明した場合、採用内定を取り消すことができるのかという労務上の問題が生じます。客観的に合理的な理由のない取消しは不当解雇とみなされるリスクがあるためです。 この点について、事業者が採用選考の過程で以下の対応をあらかじめ行っておくことで、万が一の際の内定取消しが「重要な経歴の詐称」として法的に認められやすくなります。
- 求人票等の採用条件に「特定性犯罪前科がないこと」を明示する。
- 面接時等に制度の趣旨を説明し、内定前に「特定性犯罪前科がないことの誓約書」を取得する。
- 内定通知書や就業規則に、内定取消事由や試用期間中の解約事由・懲戒事由として「重要な経歴の詐称」を明記しておく。
「照会できる制度ができたから取り消せる」のではなく、「事前にルールとして組み込んで合意を得ておくこと」が、事業所と求職者双方のトラブルを防ぐ鍵となります。
2.今すぐ整備をご検討いただきたい社内規程

施行後に現場が混乱することを防ぐため、制度の枠組みを施行前に社内規程として落とし込んでおくことが法的リスクの軽減につながります。見直しをご検討いただきたい規程は主に以下の3つです。
① 就業規則(懲戒事由や配置転換の規定)
前述した「重要な経歴の詐称」に関する条項の追加に加え、現職スタッフに前科が判明した場合に備えた「配置転換(対象業務以外への異動)」の規定を整備します。ここで労働法制上の留意点として、雇用契約において「職種限定」や「勤務地限定」の合意がある場合、労働者本人の同意のない配置転換は無効となるリスクがあります。あらかじめ雇用契約書や就業規則の記載内容を確認しておくことが重要です。 また、明らかな性暴力だけでなく、「SNSでの私的なやり取り」等、性暴力につながるおそれのある「不適切な行為」の範囲を事業所ごとにルール化し、就業規則や服務規律における禁止事項・懲戒事由として明確に定めておくことが求められます。
② 情報管理規程
照会によって取得した性犯罪前科に関する情報は、「要配慮個人情報」に該当します。事業者は、以下の4つの安全管理措置を定めた情報管理規程を明文化する必要があります。
- 組織的・物理的措置: 情報管理の責任者を設置し、システムにアクセスできる権限者を必要最小限に限定する。システム外での記録・保存は極力避ける。
- 技術的措置: 専用端末の使用や、多要素認証、通信の暗号化等を行う。
- 人的措置: 従事者に対する定期的な研修を実施し、退職後も永久的に情報を漏らしてはならない旨の誓約等を取得する。
③ 児童対象性暴力等対処規程
万が一、施設内でこどもに対する性暴力や不適切な行為が疑われる事案が発生した場合に、誰に報告し、どのように調査・対応を行い、こどもを保護するのかという「事後対応のフロー」をあらかじめ定めた規程です。
3.既存職員(現職者)への対応と確認スケジュール
施行時点ですでに業務に従事している職員(施行時現職者)の犯罪事実確認は、「施行から3年以内」に行うという猶予期間が設けられています。 システムの混雑を防ぐため、令和9年(2027年)4月以降、各都道府県を27区分(27か月)に割り振り、指定された「申請対象月(1ヶ月間)」に順次分散して手続きを行うルールとなっています。
自事業所が何月に割り当てられるかは事前に通知されますが、実務上のポイントは、「申請対象月の4ヶ月前に、対象スタッフへシステムへの情報提出を案内する」という点です。 これは、スタッフがシステムに入力・提出する「戸籍(除籍)電子証明書提供用識別符号」の有効期限が3ヶ月であるため、早く取得しすぎて期限切れになることを防ぐためのスケジュール設計です。 現時点では、業務の実態として3要件(支配性・継続性・閉鎖性)を満たす確認対象者をリストアップしておくことが第一歩となります。
※なお、この分散スケジュールは都道府県ごとに割り当てられるため、複数の都道府県に事業所を展開されている法人様は、事業所(所在県)ごとに申請時期が異なる点にご留意ください。
4.【直近のIT実務】GビズIDの取得と事業者情報登録

最後に、2026年5月現在、事業者様が直近で対応を求められているIT実務について触れておきます。
日本版DBSの運用は、原則としてこども家庭庁の専用システムを通じてオンラインで行われます。このシステムを利用するための認証キーとなるのが、法人代表者の「GビズID(プライム)」です。 現在、所轄庁(自治体)を通じて、システムを利用する事業者の情報を事前に一括で登録する「まとめ登録」の手続きが本格化しています(概ね6月頃まで)。この登録作業においてGビズIDの入力が求められるため、まだGビズIDを取得されていない場合は、至急オンライン等での取得手続きを進めていただくことをおすすめします。
おわりに
日本版DBSの施行に向け、採用ルールの再構築や厳格な情報管理体制の構築、さらには直近のシステム事前登録など、法律に沿って進めるべき実務対応が多く存在します。 まずはGビズIDを用いたシステム登録の状況を確認した上で、無理のないスケジュールで就業規則の見直しや採用フローの再設計を進めていただくことをご検討ください。本記事が、貴事業所の円滑な制度導入の一助となれば幸いです。