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はじめに
【本記事の結論(計算の3つの要点)】
- 【大原則】 「賃金改善見込額」は、算定する「加算見込額」を1円でも上回る必要がある。
- 【基準額の算出】 比較基準となる「前年度の賃金総額」からは、前年度に受け取った加算総額を除外して計算する。
- 【配分要件】 令和8年度の新ルールに従い、「月給で2分の1以上」を配分し、必要に応じて「事務員等」も含めた配分計画を立てる。
1.賃金改善見込額の計算が「最重要」である理由

処遇改善計画書における「賃金改善見込額」の正確な計算は、以下の理由から重要です。
- 「加算額 < 賃金改善額」の原則
処遇改善加算制度には、「受け取った加算の総額を、すべて職員の賃金改善に充てなければならない」という大原則があります。具体的には、計画書に記載する「賃金改善見込額」が、算定される「加算見込額」を1円でも上回っている必要があります。 計画書を「単なる提出書類」ではなく、「適正な労務コストの管理図」として機能させるために、まずは正確なシミュレーションから着手することが重要です。
2.賃金改善見込額の基本的な計算数式

計画書を作成する際、まず確認すべきは「いくら加算が入り、いくら賃金を増やすのか」という収支のバランスです。厚生労働省の様式に沿った基本的な計算構造を理解することで、入力ミスを防ぐことができます。
2-1. 基本となる算定数式
賃金改善見込額の妥当性を判断するための基本式は以下の通りです。
【賃金改善見込額】 = (A)賃金改善実施期間の賃金総額 - (B)前年度の賃金総額
この数式の結果(見込額)が、算定される「加算見込額」を上回っていれば、計画上の要件を満たすことになります。
2-2. 各項目の定義と注意点
数式に当てはめる数字を抽出する際、以下の定義を厳守する必要があります。
(B)前年度の賃金総額:前年度(令和7年度)に支払った給与・賞与の総額ですが、ここから『前年度に受け取った福祉・介護職員等処遇改善加算』の総額を差し引いた額を基準とします。つまり、「加算がなかった場合の本来の賃金水準」をベースライン(起点)として設定します。
(A)賃金改善実施期間の賃金総額:新年度(4月〜翌3月など)に支払う予定の賃金総額です。ここには、処遇改善加算を原資として上乗せする「ベースアップ」や「一時金」が含まれます。
2-3. 法定福利費の扱い
賃金改善額には、給与そのものだけでなく、給与増額に伴って発生する「社会保険料の事業主負担分(法定福利費)」を含めることが可能です。一般的には、改善額の約15%程度を法定福利費として計上するケースが多いですが、運営指導では「実際に増加した法定福利費」の根拠を求められるため、賃金改善額の総枠の中に適切に按分して組み込む必要があります。
2-4. 計算を始める前の準備書類
机に向かって入力を始める前に、以下の2点を手元に用意してください。
- 直近年度の賃金台帳(または決算書の給与支給実績):ベースラインとなる(B)を確定させるため。
- 新年度の人員配置予定表:職員数や役職に変更がある場合、加算見込額と賃金総額の両方に影響するため。
これらの数字が確定していない段階で様式に入力を始めると、後段の「配分設定」で必ず数字が合わなくなります。まずはこの基本式に基づいた「器」の大きさを確定させることが、正確な計画書作成の最短ルートです。
3.ステップ別:積算根拠の導き方
計画書の各数値を「なんとなく」で入力すると、後の実績報告で整合性が取れなくなります。以下の3ステップに沿って数字を積み上げることで、客観的な根拠を持った計画書を作成できます。
ステップ1:加算見込額(収益)のシミュレーション
まずは、1年間で自社にいくらの加算が入ってくるかを予測します。
- 基本報酬の確認:直近3ヶ月程度のサービス提供実績(単位数)から、月平均の加算額を算出します。
- 変動要素の織り込み:新年度に定員の増減や、上位区分の取得予定がある場合は、その増減分を加味します。
- 計算式:(月間の総報酬単位数 × 地域単価 × 加算率) × 12ヶ月 この「加算見込額」が、賃金改善の原資(上限)となります。
ステップ2:比較対象となる「前年度の賃金総額」の確定
次に、改善の基準点となる前年度の支給実績を整理します。
- 対象外手当の除外:前年度(令和7年度)に支給した『福祉・介護職員等処遇改善加算』の総額を、給与総額から差し引きます。
- 人員変動の調整:「もし1年間在籍していたら」というフルタイム換算での調整が必要になるケースがあるため、現在の職員構成に合わせた補正を行います。
ステップ3:賃金改善実施計画(配分)の策定
算出した加算額を、どのように職員へ分配するかを決定します。
- 対象職種の選定: 令和8年6月施行の改定により、加算の対象が「障害福祉従事者」に正式に拡大されます。福祉・介護職員への重点配分を基本としつつ、事務員や運転手等への配分も含めた対象者を決定します。
- 「ベースアップ」と「一時金」の切り分け(2分の1ルール): 毎月の基本給や手当として定額で支払う分と、賞与等で支払う分の内訳を決めます。その際、『新加算Ⅳ相当額の2分の1以上(※令和8年度特例要件で上位区分ロを算定する場合は、加算Ⅱロ相当額の2分の1以上)』を月給(基本給または手当)で配分することが必須要件となります。
- 法定福利費の計上:賃金増額に伴い、会社が負担する社会保険料も増加します。この増加分(概ね賃金増額分の15%程度)を「賃金改善額」の中に含めるのか、別途会社負担とするのかを明確にします。
根拠資料としての「一覧表」の作成
これらのステップで算出した数字は、計画書の「積算根拠」欄にそのまま反映させます。 具体的には、「職種別・項目別の賃金改善内訳表」をエクセル等で作成しておくことが重要です。この内訳表が、運営指導時に「なぜこの数字になったのか」を証明する唯一の資料となります。
4.多くの担当者が陥りやすい「計算の落とし穴」
計画書の計算時に注意すべきポイントは以下の通りです。
4-1. 「独自の昇給」と「処遇改善による昇給」の混同
最も多いミスは、処遇改善加算とは無関係に行う「定期昇給」を、そのまま賃金改善額にカウントしてしまうことです。
- 原則: 賃金改善額として認められるのは、あくまで「加算を取得したことによって、前年度より追加で支払う賃金」です。
- 注意点: 会社の規定で以前から決まっていた定例の昇給分は、本来「前年度の賃金総額」に含まれるべき性質のものです。これらを区別せずに計算すると、運営指導で「加算原資による改善」とは認められない可能性があります。
4-2. 手当名と給与規定の不一致
新設した手当の名前と、計画書に記載した項目が一致していないケースも散見されます。 「処遇改善手当」として支給しているものが、就業規則上は「精勤手当」のままになっていたり、支給対象外の職種に配分されていたりすると、監査時に改善実績として認められません。計画書を書く前に、必ず給与規定の項目名との照合を行ってください。
5.運営指導に備える「積算根拠書類」の残し方

処遇改善加算の運用において、計画書の作成と同じくらい重要なのが「エビデンス(証憑書類)」の整備です。運営指導では、計画書に記載した「賃金改善見込額」が、実際にルール通り支払われたかを過去の書類に遡って確認されます。その際、即座に提示すべき3つの重要書類を整理します。
5-1. 賃金改善内訳表(エクセル等)の常備
計画書に記入した合計数字の「内訳」を管理する表です。以下の項目を個人別に月単位で集計し、保存しておく必要があります。
- 基本給の増額分(ベースアップ実施前後の比較)
- 処遇改善関連の手当額(既存の手当と混同しないよう明確に区分)
- 一時金(賞与)の支給額
- 法定福利費の事業主負担増加分 これらを合算したものが、実績報告書の「賃金改善額」と一致していなければなりません。
5-2. 給与規定・就業規則と労働条件通知書
「どのように配分するか」というルールが明文化されているかチェックされます。
- 給与規定:新設した手当の名称、支給対象者、計算方法が記載されていること。
- 労働条件通知書:個々の職員に対し、処遇改善加算に伴う手当が含まれていることが明示されていること。 口頭での約束や、規定に基づかない場当たり的な支給は、運営指導において「改善実績」として認められないリスクがあります。計画書を作成するタイミングで、これらの規定との整合性を必ず確認してください。
5-3. 職員への周知資料
処遇改善加算は、職員全員に対して「どのように賃金が改善されるか」を周知することが算定要件となっています。
- 周知の形態:会議資料の配布、事業所内掲示、メール送信など、記録が残る形で行います。
- 記録の保存:周知した際の「配布資料」や「会議議事録(周知した事実が記載されたもの)」を、計画書の控えと一緒にファイリングしておきます。
書類保存の期間と重要性
処遇改善に関する書類は、一般的に「指導監査の対象となる期間(通常2〜5年程度)」の保存が求められます。担当者が交代しても、後任者がすぐに積算根拠を説明できるよう、年度ごとに「計画書・周知資料・賃金内訳表・給与明細のサンプル」をセットにして管理することをおすすめします。 この準備が整っていれば、運営指導時に慌てることなく、算定の正当性を論理的に証明することが可能になります。
まとめ:正確な計画策定が安定経営の基盤になる
正確な計画がもたらす「守り」と「攻め」
正確なシミュレーションに基づく計画策定は、事業所にとって二つの側面でメリットをもたらします。
- 守りの側面:運営指導での返還リスクや是正勧告を未然に防ぐことができます。根拠書類(賃金内訳表や周知記録)が整っていることは、経営の透明性を証明する強力な武器となります。
- 攻めの側面:加算原資を最大限に活用し、戦略的に賃金に反映させることで、職員の待遇向上と定着率の改善に寄与します。場当たり的な配分ではなく、算定数式に基づいた確実な配分は、採用活動における「待遇の根拠」としても活用可能です。
「提出して終わり」にしない運用サイクル
計画書を提出した後は、年度内の「モニタリング」が重要です。
- 四半期ごとの予実管理:人員の増減や欠勤状況により、実際の加算額と賃金改善額には必ずズレが生じます。3ヶ月に一度程度の頻度で、エクセル上の「内訳表」を更新し、実績報告時に慌てない体制を構築することをおすすめします。
- 就業規則との連動:処遇改善の内容に変更が生じた場合は、速やかに就業規則や賃金規定を見直し、職員への周知記録を残す習慣をつけましょう。
書類作成を効率化するためのステップ
- 前年度の加算を除いた賃金ベースラインの特定
- 新年度の加算見込額の概算算出
- 法定福利費を含めた配分シミュレーション
これらの「数字の器」が固まれば、様式への入力作業は極めてスムーズに進みます。正確な計画策定は、事務負担の軽減だけでなく、最終的には事業所の安定した運営基盤を築くことにつながります。