今回は、障がい福祉施設の開設を検討されている皆さまからよくご相談いただくテーマ、「法人をつくるならどの形態がよいか?」について説明します。
指定申請にあたっては、法人格の取得が前提となります。個人では申請できません。
ただし、一口に法人といってもさまざまな種類があり、どれを選ぶかで将来の運営方針や資金調達、社会的信用、会計処理に至るまで影響を及ぼします。
今回は以下の4つの法人形態について、それぞれのメリット・デメリットを比較しながら解説します。
1.株式会社
◉ 特徴
いわゆる最も一般的な法人形態で、営利を目的とする会社です。設立数も多く、行政や金融機関からの認知度・信用力も高いです。
◉ メリット
- 資金調達の幅が広い(出資者を募りやすい)
- 社会的信用が高い(銀行融資、取引先との契約などで有利)
- 利益配分が柔軟(株主への配当が可能)
- 福祉サービスとの相性も良好(報酬も得られ、運営の自由度が高い)
◉ デメリット
- 設立・維持コストが高め(登記時登録免許税:最低15万円)
- 決算公告義務がある(官報掲載費がかかる)
- 利益追求の色が強く、「営利色が強すぎる」と見られることもある
2.合同会社(LLC)
◉ 特徴
近年増えている法人形態で、株式会社よりも設立手続きが簡易で、維持コストも低めです。利益配分も自由に決められる点が特長です。
◉ メリット
- 設立費用が安い(登録免許税は6万円)
- 利益配分の自由度が高い(出資額に関係なく報酬設定が可能)
- 決算公告義務がない
- 株式会社より柔軟に運営できる
◉ デメリット
- 社会的信用力はやや劣る
- 知名度が低いため、金融機関や行政対応で説明が必要な場面も
- 将来的に株式会社へ移行する場合は手続きが煩雑
3.一般社団法人(営利型)
◉ 特徴
営利・非営利どちらも可能な法人形態です。「社団」という名の通り、複数人の「人の集まり」によって設立されます。
◉ メリット
- 非営利性が求められない(営利活動が可能)
- 設立費用は比較的安価(登録免許税6万円)
- 剰余金の分配を行わなければ非営利法人として扱われ、社会的信用も一定程度あり
- 医療法人や社会福祉法人へ移行しやすいケースも
◉ デメリット
- 「非営利型」と誤解されやすい
- 税務処理や報酬設計に工夫が必要(理事への役員報酬が不適切とされると非営利制に反する可能性あり)
- 金融機関や一部の行政において、事業性を十分に理解されにくいこともある
4.特定非営利活動法人(NPO法人)
◉ 特徴
文字通り「非営利活動」を行う法人です。社会貢献性が重視され、特定の20分野の活動が認められています。
障がい福祉事業(指定障がい福祉サービス)も認められており、設立実績も多くあります。
◉ メリット
- 公益性・社会貢献性が高く、行政との親和性が高い
- 所轄庁(都道府県など)の認証を得て設立されるため、一定の信頼がある
- 助成金や補助金の対象となる場合が多い
◉ デメリット
- 設立に時間がかかる(平均3〜6ヶ月)
- 監督・報告義務が重い(毎年の事業報告書や役員名簿提出が必要)
- 報酬制限や剰余金分配禁止など、法人内部の柔軟性が乏しい
- 「非営利」ゆえに利益を追求しづらく、資金調達に苦労することも
法人形態ごとの比較表(簡易まとめ)
項目 | 株式会社 | 合同会社 | 一般社団法人(営利) | NPO法人(非営利) |
設立コスト | 高い(15万円〜) | 低い(6万円) | 低い(6万円) | 登録免許税なし(認証手数料要) |
信用力 | 高い | 中〜やや低 | 中程度 | 中程度〜高 |
設立スピード | 速い(1〜2週間) | 速い(1週間程度) | 速い(1週間程度) | 遅い(3〜6ヶ月) |
利益配分の自由度 | 高い | 高い | 条件付きで可 | 不可(分配禁止) |
報酬設定の柔軟性 | 高い | 高い | 慎重に設計が必要 | 制限あり |
非営利の色合い | 弱い | 弱い | 中程度 | 強い |
どの法人が「正解」なのか?
結論として、「この法人形態が正解です」と一概には言えません。
事業者様のビジョン・資金計画・組織体制・スピード感などにより最適な選択は異なります。
例えば…
- 「早く開設したい」:→ 株式会社・合同会社・一般社団法人
- 「社会性・公益性をアピールしたい」:→ NPO法人や一般社団法人
- 「融資や資金調達も視野に入れている」:→ 株式会社がベター
- 「将来的な展開の柔軟さがほしい」:→ 合同会社や一般社団法人
行政書士としての視点:設立支援+指定申請の両立を
法人設立はあくまでスタート地点にすぎません。
「法人をつくったが、指定申請に適合しなかった」という例も少なくありません。
障がい福祉施設の指定要件は、法人の種類だけでなく、定款内容・役員構成・事業目的の記載なども見られます。
法人設立の段階から指定申請を見越した設計をすることが非常に重要です。
まとめ
障がい福祉施設の開設に向けた法人設立は、慎重に選ぶべき大きな一歩です。
法人形態ごとに特徴があり、事業の方向性に合わせて適切な選択を行うことが、スムーズな開設と安定運営のカギを握ります。
この記事が、法人選びの一助になれば幸いです。
不明点やご相談があれば、ぜひお気軽にお問い合わせください。
※本記事は2025年6月時点の情報に基づいています。法改正や制度変更により内容が変わる可能性がありますので、最新情報は専門家にご確認ください。