令和7年1月30日、厚生労働省は「障害福祉分野における運営指導・監査の強化(案)」を発表しました。この取り組みは、障害福祉サービスの質を向上させ、利用者が安心してサービスを受けられる環境を整備することを目的としています。今回はその背景、現状、そして具体的な強化策について解説します。
背景
近年、障害福祉サービス事業所の数が増加する中で、特に営利法人が運営する事業所の急増が見られます。その一方で、株式会社恵の事案のように、多くの利用者に影響を及ぼす不適切な運営が明らかになるケースも発生しています。このような状況を受け、運営指導や監査の強化が求められていました。
現状の課題
①運営指導の実施率の低さ
指導指針では、おおむね3年に1度の運営指導が求められていますが、令和5年度の全国平均実施率は16.5%と低迷しています。特に、都道府県間で実施率に大きな差があり、最高で48.8%、最低で1.0%となっています。
②統一的なマニュアルや処分基準の欠如
介護保険分野とは異なり、障害福祉分野には全国的な運営指導・監査マニュアルや処分基準の考え方が整備されていません。そのため、指定都市市長会からは、全国共通の基本的な指針の作成が要望されています。
③職員向け研修の効果不足
都道府県等の職員向け研修の参加率は67.4%と低く、オンライン講義のみの形式が主流であるため、実践的なスキルの習得が十分でないとの指摘があります。
④大規模法人への検査体制の不備
複数の都道府県にまたがる約920の法人に対する検査は国が担当していますが、現在は年間30法人程度の実地検査にとどまっています。これでは、大規模法人の業務管理体制の適切性を十分に確認できていません。
強化策の概要
①運営指導の重点化
特に営利法人が運営する事業所が急増しているサービス類型(就労継続支援A型・B型、グループホーム、児童発達支援、放課後等デイサービス)については、3年に1回以上の頻度で運営指導を実施することを目指します。
②マニュアルと処分基準の作成
令和7年度中に、障害福祉分野の運営指導・監査マニュアルおよび処分基準の考え方の例を作成し、全国で統一的な指導・監査が行えるようにします。
③研修方法の見直し
職員向け研修において、オンライン講義だけでなく、実践報告やグループワークを取り入れ、年度初めに実施することで参加率と効果の向上を図ります。
④大規模法人への検査強化
6年に1回程度、年間150法人に対して書面検査を導入し、100事業所以上を運営する24法人については、3年に1回の実地検査を行います。この際、法人本部だけでなく、各事業所も対象とします。
これらの施策を通じて、障害福祉サービスの質の確保と利用者の安心・安全の向上が期待されます。今後の動向に注目し、適切な対応を行ってゆきましょう。