(初回無料)障がい(障害)福祉施設の指定申請・運営は、 当事務所のサポートをご活用ください。
はじめに
令和8年(2026年)6月施行の障害福祉サービス報酬改定では、「生産性向上」と「協働化」が処遇改善加算の上乗せ要件として組み込まれました。
「生産性向上と言われても、具体的に何を導入すれば加算が取れるのか?」
本記事では、経営者様が対応すべき要点と具体策を短時間で把握できるよう解説します。
- 【金額】 令和8年6月より、生産性向上・協働化の取組で月額3万円の上乗せ(全体で最大月1.9万円の賃上げ)が可能に。
- 【必須要件】 業務効率化(「見える化」と「ICT等導入」は必須)、または他法人との協働化への取組が絶対条件。
- 【期限】 4・5月算定の計画書提出は例年通り。6月施行の新要件は「令和8年度中の対応誓約」で算定スタートが可能。
1.令和8年6月改定の全体像:なぜ今「生産性向上」が最優先なのか

令和8年度(2026年度)の障害福祉サービス等報酬改定は、通常の3年周期とは異なる「臨時・応急的な改定」という極めて特殊な性質を持っています。前回の令和6年度改定への対応が落ち着く間もなく、再び大きな変化が訪れる背景には、現場の経営を揺るがす「物価高騰」と「深刻な人手不足」があります。
今回の改定において、経営者様が最も注目すべきキーワードが「生産性向上」と「協働化」です。これらは単なる努力目標ではなく、収益に直結する「処遇改善加算」の算定要件として強力に組み込まれました。
「処遇改善」を維持するための絶対条件
今回の改定では、ベースアップとして月額1.0万円(3.3%)の賃上げに加え、生産性向上や協働化の取組により月額0.3万円(1.0%)の上乗せが図られます。定期昇給を含めると最大で月額1.9万円(6.3%)の賃上げとなります。しかし、国は「単に報酬を上げる」だけではなく、「ICT活用や業務効率化(生産性向上)に取り組む事業所を、より手厚く評価する」という明確なメッセージを打ち出しました。
具体的には、処遇改善加算の基本分(3.3%)に加えて、生産性向上や他法人との連携(協働化)に取り組むことで、さらに最大1.0%の上乗せが可能となる新区分の構造が採用されています。つまり、生産性向上を後回しにすることは、競合他社に比べて職員の賃上げ原資が不足し、人材流出のリスクを高めることを意味します。
「6月施行」が意味する準備の重要性
また、今回の改定で注意が必要なのは、施行時期が例年の4月ではなく「令和8年6月」である点です。これには、処遇改善加算の新たな計画書作成や、生産性向上に向けたICT機器の選定・導入など、事業所側に十分な準備期間を与える意図があります。
記録の電子化やICT機器の導入等により職員の事務負担を削減し、直接支援に集中できる環境整備(生産性向上)が求められます。この「環境整備」が、令和8年以降の経営において、加算取得と人材確保の両面で鍵を握ることになります。
2.「生産性向上」の具体的要件とガイドラインの重要ポイント
障害福祉サービスにおける生産性向上の評価は、介護分野の成功事例をベースにしつつも、「支援の質の担保」と「業務効率化」の両立を求めています。令和8年度改定のポイントは以下の通りです。
障害福祉独自の「生産性向上」評価体系
今回の改定では、単にICT機器を導入するだけでなく、それによって「直接的な支援の時間」をいかに確保できたかが重視されます。
- ICT活用による事務負担軽減(ベースライン) 記録ソフト、情報共有ツール(タブレット・インカム等)を導入し、転記や申し送りの時間を削減していること。
- 「生産性向上ガイドライン」に沿った業務改善 厚生労働省が発行する「障害福祉サービス事業所における生産性向上ガイドライン」に基づき、現場の課題抽出(ムダな会議の削減や動線の見直し)を継続的に行っていること。
処遇改善加算「新区分の算定要件」との連動
令和8年6月施行の「新・処遇改善加算」において、上乗せ分(1.0%相当)を算定するための要件として、以下のいずれかが求められる見込みです。
- 生産性向上への取組: ICT機器の導入に加え、業務改善の成果を数値(残業時間の推移、有給取得率等)で把握し、国に報告する体制を整えること。
- 協働化への取組: 後述する「他法人との連携」により、管理部門のコストを削減していること。
経営者が留意すべき「職場環境等要件」の厳格化
これまで形式的になりがちだった「職場環境等要件」が、今回の改定で実質化されます。 具体的には、『生産性向上の取組』の中から5項目以上の実施(うち『⑱現場の課題の見える化』と『㉑業務支援ソフト、情報端末等の導入』の2項目は必須)、または『協働化(社会福祉連携推進法人への所属)』のいずれかを満たした上で、『加算額の1/2以上を月額賃金で配分』することが必須条件となります。これは「何も対策をしない」ことが、実質的な報酬減額(加算ランクダウン)に直結することを意味します。
「見える化」と「報告義務」
加算算定の条件として、年に一度の「取組報告」が義務付けられる方針です。客観的事実として「ICT機器の導入や記録の電子化等を通じ、直接的な支援の時間を確保し、その効果をデータで報告する体制」の構築が求められます。
3.「協働化」による経営の効率化:小規模法人が生き残るための戦略

令和8年度改定のもう一つの柱である「協働化」は、主に事務部門の負担軽減とコスト削減を目的とした施策です。特に、専任の事務員を置く余裕がない小規模法人にとって、他法人と連携して「守りの体制」を固めることは、経営継続のための現実的な選択肢となります。
「協働化」がもたらす直接的な経営メリット
今回の改定では、他法人と連携して業務効率化を図る事業所に対し、処遇改善加算の上乗せ(1.0%相当)を認める仕組みが導入されます。具体的には、以下の3つの領域での連携が想定されています。
- バックオフィス(事務部門)の共通化 給与計算、社会保険手続き、経理業務などを複数の法人で一括して外部委託、または共同の事務センターで処理する仕組みです。1法人あたりの事務コストを抑えつつ、法改正への対応漏れなどのリスクを低減できます。
- 資材・サービスの共同購入 消耗品、給食材料、光熱費、損害保険などを複数の法人でまとめて契約することで、スケールメリットによる単価の引き下げを図ります。
- 研修・採用活動の共同実施 法定研修や職員の採用活動を共同で行うことで、準備にかかる時間とコストを分散します。
連携の枠組み「社会福祉連携推進法人」の活用
協働化を具体化する手段として、「社会福祉連携推進法人」という仕組みの活用が推奨されています。これは、法人の独立性を保ったまま、特定の業務(事務や研修など)だけを共同で行うための「連携組織」です。
令和8年度改定では、この連携推進法人に加入し、実際に業務の効率化を図っていることが加算算定の有力な根拠となります。社会福祉連携推進法人に所属し、契約に基づく実務的な連携体制を構築していることが要件となります。
経営者が判断すべき「協働化」のタイミング
協働化は「攻めの拡大」ではなく、人手不足の中で「本業(支援業務)にリソースを集中させるための守り」の戦略です。
- 自社で事務員を採用・育成し続けるコスト
- 他法人と連携して事務をスリム化し、加算を上乗せするメリット
この両者を比較検討し、施行される令和8年6月に向けて、近隣の事業所や関連団体との情報交換を開始しておくことが、今後の経営の安定性を左右します。
4.経営者様が今すぐ着手すべき「3ステップ」の実務対策
令和8年6月の報酬改定に向け、経営者が最短ルートで準備を進めるための実務工程を3つのステップに整理しました。この改定は「事後報告」ではなく「事前の体制整備」が加算算定の条件となるため、早期の現状把握が不可欠です。
ステップ1:現在の「職場環境等要件」の棚卸し
まずは、現在算定している処遇改善加算の「職場環境等要件」を再確認してください。令和8年度からは、単に「研修を実施している」といった項目だけでなく、「生産性向上に資する取組」の中から5項目以上を選択・実施することが上位加算の必須要件となります。
- チェックポイント: 既存のICT活用(記録ソフト等)が要件を満たしているか、または追加で「業務マニュアルの作成」や「事務の外注化」などの項目を組み込めるかを精査します。
ステップ2:ICT導入による「業務時間削減」のデータ化
「生産性向上」の加算を算定する場合、単に機器を導入するだけでなく、それによって「どの程度業務が効率化したか」を数値で示す必要があります。
- 実務的な対応: 導入前後の残業時間、直接支援時間の変化、有給休暇取得率などを記録する仕組みを整えます。加算申請時にはこれらのデータに基づいた報告が求められるため、今から「現在の数値(ベースライン)」を確定させておくことが、後の比較データ作成をスムーズにします。
ステップ3:令和8年6月施行に向けた「体制整備のスケジュール」
処遇改善計画書の提出期限は例年通り(原則4月や5月算定に向けて)設定される点に注意が必要です。なお、国からの計画書の様式や提出方法に関する正式な事務連絡は3月以降に発出される予定となっているため、各自治体からのアナウンスを注視し、速やかに対応できるよう今から準備を進めておく必要があります。期限までに提出がない場合、4・5月分の加算が算定できなくなります。なお、6月施行の新たな要件(キャリアパス要件や職場環境等要件)については、『令和8年度中に対応を行う旨の誓約』を提出すれば算定可能(後日実績報告で確認)とする特例措置が設けられています。
- スケジュールの目安:
- 令和8年3月まで: 導入するICT機器の選定、または協働化(他法人との連携)の枠組み決定。
- 令和8年4月〜5月: 新しい職場環境等要件に基づく社内規定の整備、職員への周知。
- 令和8年6月: 改定報酬の適用開始。
5.まとめ:令和8年改定は「事務負担」と「収支」のバランスが鍵
令和8年度の報酬改定は、物価高騰や賃上げという外部環境の変化に対し、施設側がいかに「無駄を削り、加算を積み増すか」という、極めて実務的な経営判断を迫る内容となっています。
経営者様が最優先で確認すべき「数字」
今回の改定対応において、最優先すべきは「加算による増収分」と「対策にかかるコスト」の比較です。
- 処遇改善加算の上乗せ: 生産性向上や協働化への取り組みにより、最大1.0%程度の加算率向上が見込まれます。
- ICT導入・維持コスト: 機器の購入費用だけでなく、月々のランニングコストや職員の操作習得にかかる工数を算出する必要があります。
- 事務削減の価値: 記録の電子化により、例えば1日15分の事務作業が全職員分削減された場合、それが年間でどれだけの「直接支援時間」や「残業代抑制」に変わるかを試算してください。
「加算のために業務を増やさない」視点

経営者様が最も警戒すべきは、加算を取得するために、現場や管理者の事務負担がかえって増大してしまう事態です。 今回の改定では、ICT導入後の「効果報告」や「職場環境等要件の細分化」など、管理部門に求められる記録の質が変化しています。まずは「現在行っている事務の中で、何をデジタルに置き換えれば、報告用のデータも自動で集約できるか」という、逆算の視点でシステムを選定することが、安定経営のポイントとなります。
令和8年6月までのロードマップ
今回の改定は、これまでの「ただ待っていれば決まる」改定ではなく、事業所側が「自ら仕組みを変える」ことを前提とした評価体系になっています。
- 現状把握: 既存のICT活用状況と、令和8年度版の要件とのズレを特定する。
- 選択: 「単独での生産性向上」か「他法人との協働化」か、自社の規模に適したルートを選ぶ。
- 実行: 6月施行に向け、5月までの届け出スケジュールから逆算して、段階的に環境を整える。
(参考資料)令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について(令和8年2月18日)(厚生労働省)
(関連記事)【5分で要点】<令和8年度報酬改定>加算トップ水準を維持するカギ「社会福祉連携推進法人」所属のメリットとは?