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はじめに
児童発達支援や放課後等デイサービスを運営する中で、運営指導(実地指導)への備えは欠かせない業務の一つです。その中でも、令和6年度の報酬改定以降、特に慎重な対応が求められているのが「個別サポート加算」の取り扱いです。
個別サポート加算は、著しい行動障害がある児童や、不登校、虐待リスクといった特別な配慮を必要とする児童への支援を評価するものです。現場の負担に見合った報酬を得るための大切な制度ですが、その一方で「判定基準の解釈」や「エビデンス(証拠書類)の整備」において、事業所ごとに判断が分かれやすいという側面を持っています。
運営指導において、もし「算定要件を満たしていない」と判断された場合、過去に遡って給付費を返還する「返戻(過誤調整)」が発生する可能性があります。これは事業所にとって金銭的な損失となるだけでなく、適正な運営を継続していく上での事務的な負担も増大させます。
本ブログでは、多忙な経営者や児童発達支援管理責任者(児発管)の皆様が、限られた時間の中で効率的にリスク管理を行えるよう、実務上のポイントを整理しました。個別サポート加算を正しく算定し、適正な運営を継続するための実務の指針としてご活用ください。
1.運営指導で「個別サポート加算」が重点的に確認される理由

令和6年度改定に伴う「新旧基準」の混同リスク
直近の報酬改定では、児童発達支援の個別サポート加算(Ⅰ)の判定が手帳等の等級による判定へと変更されました。また、放課後等デイサービスにおいては、不登校児童への支援を評価する個別サポート加算(Ⅲ)が新設されました。これにより、過去の運用ルールのままでは、現在の要件を正確に満たせないリスクが高まっています。
2.【個別サポート加算Ⅰ】 指摘を回避する要件確認とアセスメント
2-1. 児童発達支援における判定基準(手帳等の等級確認の徹底)
令和6年度の報酬改定により、児童発達支援における個別サポート加算(Ⅰ)は、従来のスコア判定(乳幼児等サポート調査)が廃止されました。現在は、重症心身障害児、身体障害者手帳(1級・2級)の交付を受けている児童、療育手帳(最重度・重度)を交付されている児童、精神障害者保健福祉手帳(1級)を交付されている児童など、手帳等による客観的な判定へと移行しています。運営指導においては、これらの手帳の写し等、客観的な証拠書類が保管されているかが重要になります。
2-2. 放課後等デイサービスにおけるアセスメントとスコア(指標)の客観性
放課後等デイサービスにおける個別サポート加算(Ⅰ)は、引き続き「就学児サポート調査」を用いた判定が行われます。この判定において最も指導を受けやすいのが、「スコアのつけ方が主観的である」という点です。加算の要件を満たすために、本来よりも過大に評価してしまうケースが散見されます。調査票の記入にあたっては、保護者からの聞き取りだけでなく、事業所内での実際の行動観察や、学校等での様子も踏まえ、客観的な事実に基づいて判断する必要があります。
なお、令和6年度改定より、就学児サポート調査の結果に基づき『著しく重度の障害児』と『ケアニーズの高い障害児』に区分が細分化され、評価が異なります。事業所は児童の状態像に応じて、正確な区分で決定サービスコードを設定し請求を行う必要があります。
2-3. 状態変化に伴う「再評価」のタイミング
児童の状態は成長とともに変化します。加算算定開始時に要件を満たしていても、その後の支援によって状況が落ち着き、スコアが下がるケースは十分にあり得ます。定期的な個別支援計画の見直しのタイミングなどで、児童の状態を正しく再評価することが、適正な運営を継続するために重要です。
3.【個別サポート加算Ⅱ・Ⅲ】 不備が出やすい連携要件の整
3-1. 【加算Ⅱ】要保護・要支援児童に対する関係機関との連携記録
個別サポート加算(Ⅱ)は、虐待等の要保護児童・要支援児童を対象とします。算定にあたっては、児童相談所やこども家庭センター等の連携先機関等と、障害児の状況等を共有しつつ支援を行う必要があります。令和6年度改定により、連携先機関等との情報共有は「6月に1回以上行うこと」が要件化されました。また、その記録は「文書で保管すること」が必須とされています。単なる口頭でのやりとりのメモではなく、双方で共有している文書等で残す必要があります。
3-2. 【加算Ⅲ】不登校児童に対する算定要件と必須対応
令和6年度改定で、放課後等デイサービスに「個別サポート加算(Ⅲ)」が新設されました。これは不登校の状態にある障害児への支援を評価するものです。算定の必須要件として、以下の対応が求められます。
- 学校との情報共有を対面又はオンラインで月1回以上行い、要点を記録して学校に共有すること。
- 家族への相談援助(居宅への訪問、対面、オンラインいずれかの方法)を月1回以上行い、要点を記録すること。 これらの実施日時や内容の記録を確実に残しておく必要があります。
4.指導員が必ずチェックする「3つの必須書類」

運営指導(実地指導)において、個別サポート加算が適切に算定されているかを判断するために、指導員が必ず確認する書類があります。加算の要件を満たしている「事実」があっても、それを証明する「書類」が整備されていなければ、算定は認められません。特に重要となる3つの書類について、整理すべきポイントを解説します。
4-1. 個別支援計画書への「算定理由」と「5領域・インクルージョン」の明記
個別支援計画書は、すべての支援の根拠となる最重要書類です。単に「加算対象である」と記載するだけでは不十分であり、以下の点に留意する必要があります。
- 因果関係の明確化と必要性の記載: 児童のどのような特性や状況に対し、なぜ個別サポートが必要なのかを、アセスメントや支援方針と一致させて記載します。
- 【令和6年度改定】5領域とのつながりの明確化: 新たな基準として、支援内容が「5領域(健康・生活、運動・感覚、認知・行動、言語・コミュニケーション、人間関係・社会性)」のどれに関連しているかを明確にして記載することが求められます。
- 【令和6年度改定】インクルージョンの観点: 保育所等との併行通園や移行など、地域社会への参加・包摂(インクルージョン)を見据えた具体的な取組についても計画に記載することが必須となりました。
4-2. 毎日の「支援記録」に求められる具体性
加算を算定している日は、通常の支援以上の「手厚い対応」や「特別な配慮」が行われているはずである、というのが行政側の視点です。
- 対応内容の具体化: 「安定して過ごせた」といった結果だけでなく、パニックを未然に防ぐための環境調整や、不登校傾向の児童に対する個別の相談援助など、加算の目的に沿った具体的な「働きかけ」の内容を記録に残します。
- 整合性の確認: スコア表で高く評価している項目がある場合、それに関連するエピソードや対応が日々の記録に一切登場しないと、実態がないと判断される要因になります。
- 計画時間と実利用時間の整合性確認: 令和6年度改定による時間区分の創設に伴い、個別支援計画に定めた『計画時間』と、日々の支援記録等に残る『実利用時間』に乖離がないかどうかが厳しく見られます。事業所の都合で支援時間が短縮された場合は実利用時間での算定が求められるため、正確な時間の記録が不可欠です。
4-3. 自治体指定の「判定票・スコア表」や手帳の写し等の保管
放課後等デイサービスの個別サポート加算(Ⅰ)であれば厚生労働省が定める指標に基づいたスコア表、児童発達支援であれば手帳の写し等、(Ⅱ)や(Ⅲ)であればその要件を確認できる書類や連携記録が必須です。
- 作成プロセスと署名: 書類が適切なタイミング(加算開始前や更新時)に作成・準備されているか、そしてその内容について保護者に説明し、署名(同意)を得ているかを確認します。
- 日付の整合性: 判定票の作成日や手帳等の確認日、保護者の同意日、そして個別支援計画の作成日が、加算算定の開始日よりも前になっているかという「時系列」の確認も、指導員が厳しくチェックするポイントです。
5.運営指導で指摘を受けた際の一般的な事例
5-1. アセスメントの客観性欠如
スコア表の項目について、保護者からの「〇〇ができない」という申告のみを鵜呑みにし、実際の様子を確認せずに高い点数をつけていたケースです。複数の視点からの客観的なアセスメントが求められます。
5-2. 要件を満たさなくなった後の算定継続
対策: 不登校や虐待リスクといった環境要因は、状況が解消されれば算定要件も消失します。定期的に保護者や学校から最新の状況を聞き取り、要件を満たさなくなった時点で算定を終了させる管理体制が必要です。
5-3. 連携実績や記録の不足による加算無効
「支援は行っているが、それを証明する記録がない」というケースも頻発します。
- 指摘のポイント: 加算(Ⅱ)や(Ⅲ)で連携が求められる場合において、面談等の記録が残っていない場合、「客観的な連携実績がない」とみなされ、算定が認められないことがあります。
- 対策: 外部機関等とのやり取りは、日時・相手方・内容を簡潔に記録に残しておく必要があります。
5-4. 手続きの順序(時系列)の誤り
- 指摘のポイント: 「判定票の作成」や「保護者の同意」が、加算算定を開始した日付よりも後になっているケースです。
- 対策: 加算は「要件確認→同意→計画作成→算定開始」という順序が原則です。事務作業が後回しにならないよう、算定開始前のチェックリストを導入することが有効です。
6.まとめ:返戻を防ぐためのセルフチェック

個別サポート加算の適切な運用は、日々の多忙な業務の中では後回しになりやすい部分かもしれません。しかし、運営指導において「意図しない誤り」を指摘されないようにするためには、日頃からの仕組みづくりが最も効果的です。 最後に、事業所内で定期的に実施すべきセルフチェックのポイントをまとめます。
6-1. 定期的な内部監査(書類の整合性確認)
まずは、以下の3つの日付と内容が論理的に一致しているかを確認する機会を設けることをおすすめします。
- 判定票(スコア表)等の作成・確認日: 加算を算定する前に作成または手帳の確認等が行われているか。
- 保護者の同意日: 算定開始前に、内容の説明と署名が得られているか。
- 個別支援計画書の作成日: 上記を踏まえた支援内容が計画に反映されているか。 これらがバラバラの時期に作成されていたり、内容に矛盾があったりすると、運営指導の際に説明が困難になります。半年に一度、あるいはモニタリングのタイミングで、一連の書類を「セット」で再点検するフローを定着させることが有効です。
【注意】令和7年4月から適用されている「支援プログラム未公表減算」:個別支援計画の5領域対応と併せて、事業所全体としての『支援プログラム』を作成し、インターネット等で公表することが義務付けられました。令和7年4月以降、これが未実施の場合は基本報酬が減算(85%算定)されるため、早急な書類整備と公表体制の構築が必要です。
6-2. 自治体の最新Q&Aを常に確認できる環境
障がい福祉サービスのルールは、報酬改定だけでなく、自治体が発行する「Q&A」や「事務連絡」によって細かく補足されます。
本ブログの内容が、リスク管理と適正な運営体制の構築の一助となれば幸いです。