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令和6年度報酬改定で新設された「緊急時受入加算」は、地域生活支援拠点等として位置付けられた通所系サービス事業所が、利用者様の急な体調悪化や家族の事情など“いざというとき”に夜間まで支援を行った場合に評価される加算です。
平時から地域の相談支援機関等と情報連携を行い、緊急時には日中の通所に続けて夜間も受け入れる体制を整えておくことが求められます。
今回は緊急時受入加算について「まず制度の全体像を押さえたい」という事業者様に向けて説明します。
目次
- 対象サービス名
- 算定加算単位
- 緊急時受入加算とは
- 主な算定要件
- 地域生活支援拠点等としての位置付け
- 連携担当者の配置
- 緊急時・夜間支援の要件
- 夜間設備と職員配置
- 短期入所との違い・他加算との関係
- 導入・運用の実務ポイント
- まとめ
1.対象サービス名
緊急時受入加算は、次の通所系障害福祉サービスで共通して設定されています。
- 生活介護
- 自立訓練(機能訓練)
- 自立訓練(生活訓練)
- 就労移行支援
- 就労継続支援A型
- 就労継続支援B型
2.算定加算単位
いずれの対象サービスでも「1日につき 100単位」です。
3.緊急時受入加算とは
制度の位置付け
- 平時から情報連携を整えた通所系サービス事業所における緊急事態発生時の「夜間の受入れ」(日中の支援に続けて夜間も支援を行うこと)を評価する加算です。
- 地域生活支援拠点等に位置付けられ関係機関との連携調整に従事する者を配置している通所系事業所が、利用者の障害特性に起因する緊急事態等の際に夜間に支援を行った場合に算定される加算です。
つまり、単に営業時間を延長して夜間も開所していれば算定できる加算ではなく、
- 市町村から「地域生活支援拠点等」として位置付けられていること
- 緊急時の受入れを含めた地域全体の体制整備に関する役割を担っていること
が前提になります。
4.主な算定要件

4-1 地域生活支援拠点等としての位置付け
(1)市町村との協議・届出・通知
- 事業所と市町村が、事前に地域生活支援拠点等の機能や役割について協議する。
- 事業所から、市町村に対して「地域生活支援拠点等の機能を担う」旨の届出等を行う。
- 市町村から、当該事業所が地域生活支援拠点等として位置付けられたことを、文書等で通知する。
- 位置付けの状況は、地域の協議会等の場で共有し、関係機関に周知する。
この一連の手続きが整って初めて、「地域生活支援拠点等として位置付けられている事業所」として、緊急時受入加算の前提条件を満たすことになります。
(2)自治体ごとの運用差に注意
実際には、
- 既に地域生活支援拠点等として位置付けられている事業所
- 今回の報酬改定を機に、新たに位置付けを受ける事業所
が混在します。手続きの具体的なスケジュールや様式は自治体ごとに異なりますので、必ず指定権者(市町村・都道府県)に確認して進める必要があります。
4-2 連携担当者(コーディネーター)の配置
留意事項では、地域関係機関との連携担当者を1名以上配置することが要件とされています。
この担当者は、
- 緊急時の個別ケース対応の窓口になるだけでなく、
- 平時から、基幹相談支援センターや相談支援事業所、行政機関などと情報共有を行い、
- 地域生活支援拠点等に関する会議・協議会に積極的に参加する
という、地域全体のコーディネート役を担うことが想定されています。
なお、厚労省通知では「連携担当者は事業所に置くべき人員に加えて配置する必要はなく、既存職員の中から役割を明確にすれば足りる」とされています。
4-3 緊急時・夜間支援の要件
(1)どのような場面が対象か
- 利用者(施設入所者を除く)の障害の特性に起因して生じた緊急の事態
例:行動障害の急な激化、医療的ケアの必要性の増大、家族の急病 など - その他、緊急に支援が必要な事態
- 利用者またはその家族等からの要請に基づくものであること
- 上記の場合に、夜間に支援を行ったときに算定されます。
また、Q&Aでは「夜間に支援を行った」とは、
当該通所事業所において、日中の支援に引き続き夜間に支援を実施した場合
とされており、職員が利用者の自宅を訪問して支援しただけでは算定できないことが明確にされています。
(2)短期入所の代替ではない
緊急時受入加算はあくまで「日中の通所に続けて夜間も同じ事業所で支援する」場合を想定しており、短期入所のサービスを代替するものではないとされています。
そのため、
- 本来は短期入所を利用してもらうべき状況で、空床がないから通所事業所で泊まってもらう
- 長期間にわたって泊まり利用を繰り返し、実質的に短期入所のように使っている
といった運用は、制度趣旨から外れていると考えられます。
4-4 夜間設備と職員配置
生活介護の留意事項では、緊急時受入加算を算定する事業所は次のような体制を備えていることが示されています。
- 利用者が夜間に滞在できる必要な設備(ベッドや休憩スペース等)を有していること
- 夜間の時間帯を通じて1人以上の職員が常時配置されていること
あくまで「一時的な泊まり対応」であるとはいえ、利用者が安全に過ごせる最低限の設備と、夜間の見守り体制を確保しておく必要があります。
5.短期入所との違い・他加算との関係
緊急時受入加算と混同しやすいのが、短期入所サービスにおける緊急短期入所受入加算です。
- 緊急時受入加算
- 通所系サービス(生活介護等)が対象
- 日中の通所に続けて、同じ事業所で夜間も支援する場合を評価
- 緊急短期入所受入加算
- 短期入所サービスが対象
- ケアプランにない短期入所を緊急的に実施した場合等を評価
と、対象サービスも評価する内容も異なります。
また、令和6年度改定では「集中的支援加算」も同時に新設されていますが、こちらは強度行動障害を有する方への広域的な専門支援を評価する加算であり、緊急時受入加算とは目的が別です。
6.導入・運用の実務ポイント

最後に、事業所が緊急時受入加算の算定を検討する際のステップを、実務目線で整理します。
6-1 自治体の方針・手続きの確認
- まずは所轄の市町村(指定権者)の障がい福祉担当へ
- 地域生活支援拠点等の整備状況
- 緊急時受入加算に関する位置付け・届出手続き
- 令和6年度改定Q&Aや追加通知のローカルな取扱い
などを確認します。
2. 既に地域生活支援拠点等として位置付けられている場合でも、改めて届出や協定書の締結を求められるケースがありますので、文書での確認を残しておくと安心です。
6-2 連携担当者の選任と役割整理
- 相談支援専門員経験者、サービス管理責任者、管理者など、
地域との調整役として適任の職員を連携担当者として明確化します。 - 基幹相談支援センターや障がい者自立支援協議会等の会議に、継続的に参加する体制を整えておくと、平時から顔の見える関係が築きやすくなります。
6-3 夜間受入れの運用ルール作り
- どのようなケースを「緊急時」と判断するか
- 夜間に利用者さんを受け入れる際のフローチャート(連絡先、送迎の有無、家族への説明方法 等)
- 夜間に勤務する職員の配置方法と、翌日の勤務調整
などを、就業規則やマニュアルに落とし込んでおくことが重要です。
Q&Aでも、夜間対応を行った職員の勤務負担に配慮するよう求められており、労働時間管理の観点からも慎重な設計が必要です。
6-4 記録・証拠書類の整備
緊急時受入加算を算定した際は、少なくとも次のような内容を記録しておくと、後々の指導・監査でも説明しやすくなります。
- 緊急事態の発生日時と内容(障害の特性との関係が分かるように)
- 利用者または家族等からの要請があったことが分かる記録
- 夜間に実施した支援の時間帯・内容・担当職員
- 利用者の状況や翌日の対応(短期入所への引継ぎ等)
7.まとめ
緊急時受入加算は、
- 地域生活支援拠点等として市町村から位置付けられ、
- 連携担当者を中心に平時から情報連携を行っている通所系事業所が、
- 利用者の障害特性に起因する緊急事態等において、日中に続けて夜間も支援を行った場合に1日あたり100単位を加算できる仕組みです。
夜間の受入れは、職員の負担や安全管理の面でもハードルが高く、すべての事業所がすぐに取り組めるものではありません。その一方で、家族の急病や想定外の事態が起きたときに「地域のどこにも頼れない」という状況を減らすためには、こうした拠点事業所の存在が大きな意味を持ちます。
各自治体での運用や届出の方法には違いがありますので、実際に算定を検討される場合は、必ず指定権者や最新の厚労省通知・Q&Aを確認しながら、自事業所の体制に無理のない形での導入を検討していただければと思います。
(参考文献)
障害者総合支援法 事業者ハンドブック〈報酬編〉(中央法規)
障害福祉サービス 報酬の解釈(社会保険研究所)
(参考資料)
令和6年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容(令和6年2月6日)(厚生労働省)P7
令和6年度障害福祉サービス等報酬改定等に関するQ&A VOL.1(令和6年3月29日)(厚生労働省)P1