障がい福祉事業を運営するには、法人格が必須です。株式会社や合同会社、社会福祉法人など、法人形態はいくつかありますが、多くの民間事業者は株式会社または合同会社を選択します。
特に株式会社は柔軟性が高く、金融機関や取引先からの信用面でも有利とされます。
今回は発起設立方式・非公開会社・取締役会非設置会社という、小規模事業に適した形態を前提に、2025年8月時点での設立手順と費用目安をご紹介します。障がい福祉事業の指定申請にも対応できるよう、実務的な注意点も盛り込みました。
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株式会社設立の基本的な流れ
株式会社の設立は、おおまかに次の6ステップで進みます。
① 会社の基本事項を決める
まずは以下を確定します。
- 商号(会社名)
同一住所・同一商号は登記不可。類似商号は商標権にも注意。 - 本店所在地
賃貸物件の場合は契約条件に「法人登記可」とあるか確認。 - 事業目的
障がい福祉サービスを行う場合は、必ず法律の正式名称を含めましょう。
例:「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく障がい福祉事業」
こう記載することで、指定申請時に「法律上の根拠がある目的」と認められやすくなります。
児童福祉法に基づく事業も予定している場合は同様に明記します。 - 資本金額
1円から設立可能ですが、信用面や指定要件を考慮すると100万円以上が目安です。 - 発起人(出資者)と役員構成
小規模の場合は発起人=代表取締役1名のケースが多いです。 - 事業年度
会計年度の区切り(3月末や12月末が一般的)。
② 定款の作成と認証
定款は会社の憲法ともいえる基本ルールです。
- 作成後、公証役場で認証を受けます(電子定款なら印紙代不要)。
- 事業目的は将来の拡大も考慮し、幅広く設定します。
- 福祉事業の場合は、法律名入りの目的を盛り込むことで後の定款変更を避けられます。
③ 資本金の払込
- 発起人の個人口座に資本金を入金し、通帳コピー等で証明します。
- 払込後の資本金は登記完了まで引き出し可能ですが、運転資金計画に沿って管理します。
④ 登記申請書類の作成
登記申請には、以下のような書類を用意します。
- 登記申請書
- 定款
- 発起人決定書(役員選任に関する記録)
- 役員の就任承諾書
- 資本金払込証明書
- 登記すべき事項を記録したCD-R
登記すべき事項とは?
登記簿に記載される会社の基本情報(商号、本店所在地、事業目的、公告方法、株式数、資本金額、役員氏名・住所、設立日など)をまとめたものです。
この情報を法務局指定の書式に沿ってテキストファイル化(UTF-8形式)し、CD-Rに保存します。
なぜCD-Rなのか?
法務局では提出されたデータを直接システムに取り込みます。
そのためUSBやメールではなく、物理メディアのCD-Rで提出する運用になっています(全国共通)。
家庭用PCとCD-Rライターで作成可能で、フォーマットは法務局HPからダウンロードできます。
CD-Rは必須?
原則必須ですが、やむを得ず作成できない場合は、紙に印刷した「登記すべき事項」を提出する方法もあります。
ただし法務局側で手入力が必要になるため、受付や処理に時間がかかることがあります。
司法書士に依頼する場合は、通常このCD-R作成も代行されます。
⑤ 法務局での登記申請
- 本店所在地を管轄する法務局に申請します。
- 登記申請日が株式会社の設立日となります。
⑥ 登記完了後の諸手続き
- 法人印鑑証明書・登記事項証明書の取得
- 税務署、都道府県税事務所、市区町村への届出
- 社会保険・労働保険の新規適用手続き
- 法人口座開設(福祉事業指定申請で必要な場合が多い)
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発起設立・非公開会社・取締役会非設置の特徴
発起設立
- 設立時にすべての株式を発起人が引き受ける方式
- 出資者=創業メンバーで完結でき、手続きが簡潔
非公開会社
- 株式譲渡に会社の承認が必要
- 外部資本が入らず経営権を安定的に維持可能
取締役会非設置会社
- 取締役1名でも設立可能
- 機関設計がシンプルで、議事録作成等の負担が軽い
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印鑑の準備(法人印・銀行印・社印)
株式会社設立時は、通常次の3種類を用意します。
1.法人実印(丸印)
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- 法務局に登録する印鑑
- 契約や登記の正式手続きに使用
- 直径18~21mm程度、外枠に会社名、内枠に「代表取締役印」と刻むのが一般的
2.銀行印(丸印)
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- 法人口座の開設や金融機関取引に使用
- 法人実印との兼用は避けるべきです。別印を作ることで、不正利用や紛失時のリスクを分散できます。
- 直径16.5~18mm程度が多い
3.社印(角印)
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- 請求書・領収書・社内文書に使用
- 一般的に21mm角の四角い印鑑
おすすめ形状
- 法人実印:丸印(必須)
- 銀行印:法人実印より一回り小さい丸印
- 社印:角印(文書用)
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2025年8月時点の費用目安
項目 | 電子定款利用時 | 紙定款利用時 |
定款認証手数料 | 約50,000円 | 約50,000円 |
定款印紙代 | 0円 | 40,000円 |
登録免許税 | 150,000円(最低額) | 150,000円 |
謄本・印鑑証明書取得費 | 2,000~5,000円 | 2,000~5,000円 |
法人印鑑3点セット | 10,000~25,000円 | 10,000~25,000円 |
合計 | 約22~23万円 | 約26~27万円 |
※司法書士等に依頼する場合は別途5~10万円程度の報酬がかかります。
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障がい福祉事業を見据えた設立時の注意点
① 事業目的の記載
- 法律名を明記(例:「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく障がい福祉事業」)
- 児童福祉法に基づく事業も予定する場合は同様に記載
② 設立後の指定申請スケジュール
- 法人設立後、物件契約・設備準備・人員確保を経て申請
- 多くの自治体で開業希望月の2~3か月前が申請期限
- 登記完了が遅れると全体のスケジュールに影響
③ 資本金と運転資金
- 報酬入金まで約2か月のタイムラグがあるため、3か月分の運転資金を確保
④ 法人口座と入金実績
- 指定申請で法人口座の通帳コピーが必要な場合が多い
- 開設には登記簿謄本や定款の提示が求められるため、事前準備が重要
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まとめ
株式会社設立は比較的短期間で可能ですが、障がい福祉事業の開業を前提とする場合は事業目的の法律名記載や印鑑の使い分け、登記すべき事項のCD-R準備など、細部の準備が後のスムーズな申請につながります。
法人設立はゴールではなく、開業準備のスタートです。資金・スケジュール・書類準備を計画的に進めることで、開業までの道のりを確実に短縮できます。