障害福祉サービスにおける個別支援計画は、利用者一人一人の背景やニーズに応じた支援を提供するための重要な基本文書です。今回は個別支援計画の作成手順をわかりやすく解説します。
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個別支援計画とは
個別支援計画は、利用者の自己実現や生活の質の向上を目的として、その人の障害特性や生活環境、目標に基づいた支援内容を体系的にまとめたものです。国の障害福祉サービスの基準に基づき、支援の方向性を明確にする重要な書類となっています。
1.1 個別支援計画の対象サービス
個別支援計画の作成が義務付けられている主なサービスは以下の通りです。
- 就労継続支援A型・B型
- 就労移行支援
- 生活介護
- 児童発達支援
- 放課後等デイサービス
- 自立訓練(機能訓練・生活訓練)
- 短期入所・日中一時支援サービスなど
1.2 作成責任者について
- サービス管理責任者
成人向け福祉サービス(例:就労継続支援B型、生活介護など)は、サービス管理責任者が作成・見直しを行います。 - 児童発達支援管理責任者
児童向けサービス(児童発達支援・放課後等デイサービスなど)は、児童発達支援管理責任者が担います。
これらの責任者は、利用者や家族、他の支援者と協働しながら、本人の意向を尊重し支援計画を作成する役割を持ちます。
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個別支援計画作成の流れ
2.1 利用者の理解・情報収集
- 利用者の障害特性、生活習慣、身体状況、精神状態、社会状況など多面的な情報収集を行います。
- 生活全般の「困りごと」や「希望」を本人及び家族から丁寧に聴取することが重要です。
- 医療機関や他の関係機関との情報共有も適宜行います。
2.2 ニーズ・課題の抽出と分析
- 収集した情報を基に、利用者の生活の質向上に必要な課題を明確にします。
- 自立支援や社会参加促進など、重点的に取り組む領域の整理を行います。
2.3 目標設定
- 長期的な目標と、それを達成するための短期的な具体的目標を設定します。
- 目標は本人の意向・能力を尊重しながら、実現可能な内容とすることが求められます。
- 「SMART(具体的・測定可能・達成可能・関連性・期限)」の原則を踏まえた設定が推奨されます。
2.4 支援内容の具体化
- 設定された目標に照らして、どのような支援を、誰が、どのようなタイミング・頻度で行うかを詳細に記載します。
- 医療的ケア・生活支援・就労支援など、領域ごとに支援の内容・方法を記述します。
2.5 支援計画の確認・合意形成
- 作成した個別支援計画案は、利用者本人および家族等の関係者に内容を分かりやすく説明し、納得を得ることが重要です。
- 合意形成が得られた後、正式に計画として確定します。
- 利用者の意向が反映されていることを丁寧に確認することが信頼関係の基盤となります。
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支援計画の実施とモニタリング
3.1 計画に基づく支援の実施
- 個別支援計画で明記した内容に沿って各支援員・スタッフが日常の支援を行います。
- 支援の状況は日々の記録で詳細に残し、計画と実施の乖離を防ぐことが大切です。
3.2 定期的なモニタリング
- 実施状況や利用者の変化を把握するために、少なくとも6ヶ月(成人サービスの場合)や3ヶ月(児童発達支援の場合)ごとにモニタリングを行います。
- 利用者や家族、関係機関との面談を通して、支援内容の効果や課題を評価します。
- 必要に応じて個別支援計画の修正案を作成し、利用者の状況変化に即した柔軟な対応を行います。
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継続的な見直しと改善
- 個別支援計画は静的なものではありません。利用者の体調変化や環境変化に応じて、常に見直し・改善を図ります。
- 個別支援計画は「本人のニーズ」「目標に対する達成度」「支援の有効性」「問題点」の4つの視点で評価します。
- 見直し時期はサービス種別によって以下が基本となります。
テーブル
サービス名 | 見直し目安期間 |
就労継続支援B型 | 6ヶ月に1回以上 |
生活介護 | 6ヶ月〜1年に1回 |
児童発達支援 | 3ヶ月に1回以上 |
自立訓練(生活・機能) | 6ヶ月に1回以上 |
- 状況の急変時は、計画見直しを随時行う必要があります。
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相談支援事業所との連携タイミング
- 個別支援計画の作成・見直し時には、原則として相談支援事業所が調整役として関与します。
- 利用者のニーズ把握やサービス利用計画の策定段階で連携を取り、関係者間で情報共有を進めることが推奨されます。
- 支援計画の見直し時に相談支援専門員と連携し、より総合的な支援体系を構築します。
- 精神保健福祉士やケアマネジャー等の専門職との連携も、質の高い支援計画に欠かせません。
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個別支援計画を作成しない場合の処置(個別支援計画未作成減算について)
6.1 「個別支援計画未作成減算」とは
- 障害福祉サービスにおいて、個別支援計画を適切に作成しない場合、サービス報酬の減算対象となります。
- これは、厚生労働省の障害福祉サービス報酬の基準に基づくもので、個別支援計画の作成がサービス提供上の重要要件とされているためです。
6.2 減算の具体的内容
- 個別支援計画が期限内に作成されていない、または適切に作成されていない場合、その月のサービス提供に対する報酬が減算されます。
減算が適用される月から3月未満の月 →所定単位数の100分の70
減算が適用される月から連続して3月以上の月 →所定単位数の100分の50
6.3 減算対象となる具体的なケース
- 新規利用開始時に個別支援計画が未作成
- 定期的な見直し(たとえば6か月ごと)が未実施・未作成
- 利用者のニーズや状態に合わせて計画を適切に修正・更新していない場合
6.4 事業所としての対応ポイント
- 個別支援計画作成は法令で定められた義務であることを認識し、常にスケジュールを管理して期限内の作成・見直しを徹底します。
- 計画未作成による報酬減算は、事業所の経営圧迫に直結するため、スタッフ教育や職員間の情報共有を密に行うことが重要です。
- 利用者の状態や環境が変わった場合は即座に計画の見直しを行い、計画書の内容が常に最新の情報を反映している状態を保ちましょう。
- 相談支援事業所や市区町村の障害福祉担当窓口との連携を密にし、疑問点や問題点は早期に相談・解決を図る体制を構築することをおすすめします。
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まとめ
個別支援計画作成・更新は以下のポイントが重要です。
- 個別支援計画は利用者本人の生活課題を整理し、本人の意思を尊重した具体的でわかりやすい支援方針を示す書類です。
- 計画の作成・見直しは、責任者が中心となり利用者や家族、関係者と十分に連携して行います。
- 計画未作成はサービス報酬の減算対象となるため、必ず期限内に作成・更新しなければなりません。
- 計画は「作成して終わり」ではなく、常に現状を把握し柔軟に見直すことが、質の高い支援提供の鍵となります。
ご質問があれば、いつでもお手伝いいたします。支援計画の作成・運用は利用者の未来に直結する大切な仕事ですので、焦らず丁寧に取り組んでください。
(参考)個別支援計画について(新潟市)
個別支援計画作成に係るチェックリスト(新潟市)