就労選択支援

就労選択支援 ~就労移行支援・就労継続支援A型事業所様が今から行っておくこと~

はじめに

令和4年度の障害者総合支援法の改正により、新たに「就労選択支援」というサービスが制度上創設されました。その後、令和6年度の報酬改定において報酬体系に正式に位置付けられ、運用ルールや算定要件が明確化されています。

まずは令和7年10月から、就労継続支援B型事業所において適用が開始されます。そして、令和9年4月からは就労移行支援および就労継続支援A型事業所にも導入される予定です。

現時点では移行支援やA型を運営されている事業所様に直接の影響はまだありません。しかし、すでに開始時期が明示されている以上、早い段階から準備を進めることが、将来の事業運営に大きく影響します。今回はA型、就労移行支援事業所様が「今から取り組んでおくべき準備や視点」を整理します。

 

 

1.就労選択支援とは何か

就労選択支援は、障がいのある方が「自分に合った就労系サービス」を選択できるよう支援する仕組みです。令和4年度法改正で制度上創設され、令和6年度の報酬改定により報酬上の枠組みとして位置付けられました。

従来は、利用者本人や家族が就労移行支援・A型・B型といった選択肢の違いや適性を十分に理解することが難しく、結果として必ずしも本人に適したサービス利用につながらないケースが少なくありませんでした。

就労選択支援では、サービス利用の入り口において利用者の特性や希望を踏まえた「選択の支援」が行われ、就労移行・A型・B型といった各事業所へ適切につながることが期待されています。

制度創設の背景には、次のような課題があります。

  • 就労移行支援の就職定着率や成果に地域差がある
  • A型・B型の利用継続が本人の希望や適性と必ずしも一致していない場合がある
  • サービス間の移行がスムーズに行われないケースがある

こうした課題を解消するために設計されたのが「就労選択支援」であり、今後の就労系サービス全体に関わる重要な仕組みといえます。

 

 

2.B型先行適用と今後のスケジュール

最初にB型で就労選択支援が導入されるのは、以下の理由が挙げられます。

  • B型の利用者数が多く、支援ニーズが幅広い
  • 生産活動を中心とするB型は、就労移行やA型へのステップアップが課題になりやすい
  • 「働きたい」意欲を持つ利用者に対して、次の選択肢を明確にする必要性

こうしてB型で先行導入し、運用上の課題や標準的な支援手法を検証した上で、令和9年4月から就労移行支援・A型事業所に拡大するスケジュールが示されています。

つまり、現時点では直接の対象ではなくとも、数年後には確実に影響を受けることが見込まれています。今から備えるかどうかで、制度施行後の対応スピードに大きな差が出るといえるでしょう。

 

 

3.就労移行支援事業所が今から行っておくこと

(1) 利用者のキャリアプラン設計の明確化

就労選択支援では、利用者が「自分に合う道を選ぶ」ことが重視されます。移行支援事業所に求められるのは、従来以上に 利用開始時からゴールを見据えた支援計画 です。

  • 個別支援計画にキャリアプランの視点を盛り込む
  • 企業インターンや職場体験の機会を増やす
  • 就労定着支援との連携を早い段階から意識する

 

(2) 他事業所との連携強化

就労選択支援の枠組みでは、サービス間のスムーズな移行が重視されます。したがって、移行支援事業所はA型・B型・相談支援事業所との連携を密にし、地域全体でのネットワーク形成を進めておくことが重要です。

 

(3) 実績の見える化

就労実績や定着率をデータで把握し、外部に示せる形に整えておくことも有効です。選択支援の時代には「実績が選ばれる指標」となる可能性が高いからです。

就労移行の場合、特に効果的な見える化は以下の通りです。

  • 年度ごとの就職者数
  • 就職後6か月・1年の定着率
  • 業種・職種の分布や企業との連携実績

 

 

4.就労継続支援A型事業所が今から行っておくこと

(1) 生産活動と雇用契約の適正化

A型は雇用契約を伴う事業であり、労働条件の適正化は常に求められています。今後、就労選択支援を経由してA型を選ぶ利用者が増える場合、「働きやすさ」や「労働環境の整備」が評価のポイントになる可能性があります。

  • 労働時間や賃金の設定が法令通りか
  • 職場の安全衛生・ハラスメント防止体制が整っているか
  • 離職率や定着率のデータを把握しているか

 

(2) ステップアップの仕組みづくり

A型から一般就労へ進むルートを意識した支援体制を構築しておくことも大切です。職業訓練機関やハローワークとの連携、企業見学会の実施など、利用者が「次の選択肢」を意識できる仕組みを事前に持つことが有利に働きます。

 

(3) 利用者・家族への説明体制

制度変更が進む中で、利用者や家族からの質問は増えることが想定されます。A型としての役割や位置付けを分かりやすく説明できる体制を作っておくことは、信頼関係の維持に不可欠です。

 

(4) 実績の見える化(A型特有の視点)

A型の場合は雇用契約を伴う特性上、以下のような情報を整理・公開することが有効です。

  • 平均工賃額や賃金水準
  • 離職率・定着率
  • 一般就労へ移行した利用者数
  • 労働環境改善の取り組み内容(例:勤務時間の柔軟化、休憩スペース整備など)

こうした実績を定期的に公表することで、利用者・家族・相談支援事業所から「選ばれる事業所」としての信頼を高められます。

 

 

5.共通して取り組むべきこと

就労移行・A型のいずれの事業所にも共通して求められるのは、透明性と地域とのつながりの強化です。

  1. 制度改正情報の把握
    厚生労働省・こども家庭庁の通知やQ&Aを継続的にチェックすること。
  2. 相談支援事業所との連携強化
    利用者の入口支援に関与する相談支援事業所との関係性が、今後ますます重要になります。
  3. 地域ネットワークへの参加
    自治体の協議会、障がい者就業・生活支援センターなどとの情報交換を積極的に行うこと。
  4. 実績の見える化(共通要素)
  • 利用者満足度アンケートの実施・結果の公開
  • 第三者評価結果の公表
  • 企業・ハローワーク・地域支援機関との連携事例の整理

これらはA型・移行支援どちらにも共通して有効な「信頼性を高める取り組み」です。特にアンケートや第三者評価は、利用者にとって選択時の安心材料となります。

 

 

6.まとめ

就労選択支援は、令和4年度の法改正で制度上創設され、令和6年度の報酬改定で報酬体系に位置付けられました。令和7年10月からはB型事業所で、さらに令和9年4月からは就労移行支援・A型事業所でも開始される予定です。

したがって、今から

  • 利用者のキャリアプランを意識した支援
  • 他事業所・相談支援事業所とのネットワーク構築
  • 実績や労働環境の整備・見える化

に取り組んでおくことが重要です。

制度が本格的に拡大する頃には、「準備していた事業所」と「対応が後手に回った事業所」とで、大きな差が生じる可能性があります。時間的な余裕がある今だからこそ、一歩先を見据えた準備を進めておくことが、事業継続と利用者満足の両立につながるでしょう。

 

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