令和7年3月31日、厚生労働省は新たな障害福祉サービス「就労選択支援」の実施に関する通知を発出しました。
この制度は、障害者が自身に合った働き方を選べるよう支援するもので、就労移行支援や継続支援サービスとの接続をより円滑にする狙いがあります。
今回は、その概要から導入背景、具体的な運用方法、そして現場への影響まで、通知文書に基づいてポイントを整理しながらわかりやすく解説していきます。
就労選択支援とは?
「就労選択支援」は、障害者の就労に関する希望や能力に応じて、適切なサービス(就労移行支援や継続支援A型/B型など)を選べるよう支援する新たな福祉サービスです。
具体的には、短期間の生産活動などを通じてアセスメント(評価)を行い、就労意欲や能力、適性を見極めたうえで、どの就労支援が最適かを明らかにします。
導入の背景
近年、就労継続支援B型の利用者数が増加し、多様なニーズに応える体制の整備が急務となっていました。
中には「本来は移行支援が適している方」がB型を選択してしまうなど、ミスマッチも課題として挙がっています。
こうした課題解決のために、就労支援の「入り口」として就労選択支援が創設されたのです。
対象者と利用の流れ
令和7年10月から施行されるこの制度ですが、誰がどういった条件で利用するのか整理してみましょう。
基本の対象者
- 新たに「就労継続支援B型」を希望する方
- 就労移行支援や継続支援A型を検討中の方
- 既存の支援サービス利用者のうち、再評価が必要とされる方
アセスメントの必須化
令和7年10月以降、就労継続支援B型を新たに利用する際は、原則として就労選択支援の利用(アセスメント)を経る必要があります。
ただし、以下の条件に該当する場合は除外されます:
- 50歳以上の方
- 障害基礎年金1級の受給者
- 高齢や体力低下により一般就労が困難と判断される方(過去の就労経験などが考慮される)
- 地域的に就労選択支援の提供体制が未整備な場合
地域事情への配慮も
近隣に就労選択支援事業所がない場合や、待機期間が長くなると見込まれる場合には、例外的にアセスメントなしでのB型利用が可能とされています。
この柔軟な対応は、過渡期における混乱を防ぐ配慮と言えるでしょう。
就労選択支援の具体的な内容
この支援では、単なる「評価」にとどまらず、本人の意向確認や関係機関との連携が重視されています。
主な支援内容
- 就労アセスメントの実施
→ 短期間の生産活動や面談などを通じ、就労能力・意欲・環境の適応度を客観的に評価します。 - ケース会議の実施
→ 支援員だけでなく、相談支援専門員、関係事業者、時には医療関係者を含めた多職種による会議を開催し、意向や支援方針を整理します。 - 地域資源の情報提供
→ 進路選択に役立つよう、地域における就労支援資源の情報を利用者に共有します。 - 関係機関との連携調整
→ アセスメント結果をもとに、本人の進路に関する助言や情報共有を行い、次のステップにつなげます。
支援体制と職員要件
就労選択支援を提供する事業所には、就労選択支援員の配置が求められます。
- 利用者15人に対して1人以上(常勤換算)の支援員が必要
- 支援員は、**「就労選択支援員養成研修」**の修了者である必要あり
ただし、経過措置として令和9年度末までは、以下のような研修を修了していれば対応可能とされています:
- 障害者就業支援関連の基礎研修(就業支援基礎研修など)
- ジョブコーチ(職場適応援助者)養成研修
- サービス管理責任者・相談支援従事者の「就労支援コース」修了者 など
厚労省は令和7年度に養成研修を国主導で実施する方針で、今後具体的な案内がなされる予定です。
今後の展望と課題
就労選択支援の導入により、利用者がより自分に合った進路を選びやすくなることが期待されます。
一方で、制度の新設に伴う「周知不足」や「事業所数の不足」、支援員の確保など、実施に向けたハードルも少なくありません。
自治体や事業者には、制度の趣旨を踏まえた準備と、地域の実情に応じた柔軟な対応が求められます。
今後、制度が安定運用され、より多くの障害者が「自分らしい働き方」を見つけられる社会の実現に繋がることが期待されます。
まとめ
令和7年10月から始まる「就労選択支援」は、障害のある方が就労支援サービスを選択するにあたり、客観的で多角的な評価を受けられる仕組みです。
本人の意向と適性を丁寧に見極めることで、就労移行支援や継続支援とのマッチングを高め、より納得感のある支援を実現することが目的です。
制度の本格運用に向けて、現場での理解と準備が今後の鍵を握ると言えるでしょう。