はじめに
児童発達支援や放課後等デイサービスを運営するなかで、「強度行動障害を有する児童への支援が難しい」と感じる場面は少なくありません。行動上の著しい困難を抱える児童には、専門的かつ一貫した支援体制が求められるため、通常の人員配置や支援方法では十分に対応できない場合があります。
このような課題に対応するために設けられているのが「強度行動障害児支援加算」です。本加算は平成30年度に創設され、令和6年度の報酬改定において内容の見直しが行われました。今回は、その制度の概要と改定のポイント、加算算定に向けた実務上の留意点を整理してお伝えします。
1.加算の背景と目的
強度行動障害を有する児童は、自傷や他害、突発的な行動、常同行動など、日常生活におけるリスクを伴う行動が現れやすく、他児と同様の支援では対応が難しいことがあります。こうした特性に対し、専門的な支援を継続的に提供できる体制を整えた事業所を評価する目的で、本加算は導入されました。
令和6年度の報酬改定では、専門職の配置要件の明確化や加算単位数の見直しが行われ、より実効性のある仕組みへと改正されています。
2.対象サービスと加算単位数
対象となる事業種別:
- 児童発達支援
- 放課後等デイサービス
※共生型サービスも含みます。
対象外とされる事業所:
- 医療型児童発達支援
- 重症心身障害児対象の福祉型児童発達支援
これらの事業所は、すでに手厚い支援体制が別途報酬上で評価されているため、本加算の対象には含まれません。
単位数(令和6年度改定後):
- 1日につき200単位(加算Ⅰ)
- ※放課後等デイサービスでは、要件を満たすと**250単位(加算Ⅱ)**も算定可能
- ※算定は1事業所あたり月5回までに限られます。
初期加算(上乗せ措置):
- 算定開始日から90日以内は、1日につき**+500単位**の上乗せあり
- 加算Ⅰなら計700単位/日、加算Ⅱなら計750単位/日での算定が可能です。
3.対象児の基準と認定方法
本加算の対象となるのは、市町村が「強度行動障害児」と認定した児童です。
認定には、児童の行動特性(自傷・他害・突発行動など)をもとにした標準的な評価尺度(行動障害スコア)を用い、一定の基準以上であることが確認される必要があります。具体的には、専門職による評価や医師の意見書などを踏まえ、市町村が判断し、児童の受給者証に「強度行動障害児」である旨が記載されます。
4.人員配置と研修要件(令和6年度改定により要件変更)
改定前:
- 「強度行動障害支援者養成研修(基礎課程)」の修了者でも可
改定後:
- 「基礎課程」+「実践研修」両方の修了者を常勤換算で1名以上配置する必要があります
- 放課後等デイサービスでより行動上の課題が顕著な児童(評価スコア30点以上)を支援する場合には、「中核的支援人材養成研修」修了者の配置により、加算Ⅱ(250単位)が算定できます
補足事項:
- 実践研修修了者が、加算対象児の支援に直接または間接的に関与していること
- 管理者や児童発達支援管理責任者との兼務も可能ですが、実質的に支援に携わっている必要があります
5.支援計画と記録
加算の算定には、通常の個別支援計画とは別に、「強度行動障害児支援計画シート」の作成が求められます。これは、行動特性の背景や環境調整の工夫、支援方針などを可視化する文書であり、実践研修修了者が作成の中心を担います。
また、日々の支援記録についても、対象児に対して行った支援内容が計画と整合性のある形で記録されている必要があります。
6.導入に向けた実務上の準備
強度行動障害児支援加算を導入するには、以下のような準備が必要です:
- 該当児童の確認と評価書類の整備
- 医師の意見書や評価スコア表など
- 実践研修修了者の配置
- 修了証の写しの保管・届出
- 計画シート・記録様式の準備
- 支援経過の確認・モニタリング体制の整備
- 初期加算の活用
- 算定開始から90日以内の上乗せ加算を計画的に活用
7.おわりに
強度行動障害児支援加算は、専門的支援が求められる児童に対して、適切な体制と職員を配置した事業所を評価する制度です。令和6年度の報酬改定により要件が見直され、特に研修修了者の配置が明確化されるなど、実効性のある仕組みへと変化しています。
実務としては、対象児の確認や職員研修、記録様式の整備など一定の準備が求められますが、体制が整えば安定的な算定が可能です。加算の導入は、事業所の支援の幅を広げ、地域における受け入れ体制の一助となることが期待されています。
【参考資料】