今回は、居宅介護・重度訪問介護・同行援護・行動援護・移動支援といった「訪問系サービス」を展開されている(またはこれから検討されている)事業者様に向けて、利益をしっかり出すための実践的なポイントをお伝えします。
「人は足りているのに、なぜか赤字が続いている…」「指定は取れたが、思ったより厳しい…」その様な声も少なくありません。訪問系事業は、単価が定まっている制度ビジネスである以上、いかに“運営を工夫するか”がカギになります。
1.稼働率を最大化せよ|「働いていない時間」を減らす工夫
訪問系サービスでは、利用者宅への移動時間や待機時間がどうしても発生します。その時間が多くなるほど、人件費に対して収益が伴わず、経営を圧迫します。
✅ 効率的なスケジュール管理
- 同じ地域・時間帯に利用者を集約する
- 担当ヘルパーの移動動線を意識して調整する
- 1件あたりのサービス時間を可能な範囲で延ばす(例:30分 → 60分)
例えば、「午前にAさん宅、午後にBさん宅(距離30分)」よりも、「午前・午後連続でAさん宅(長時間支援)」の方が収益性は高まります。
2.加算を取りこぼさない|報酬単価の底上げ
障がい福祉サービスは、基本報酬に加え、各種「加算」によって収益を大きく伸ばすことが可能です。
✅ 特定事業所加算(Ⅰ〜Ⅲ)
居宅介護・重度訪問介護・同行援護などに設定されている加算で、人員配置・研修体制・苦情解決体制の整備が必要です。Ⅰ〜Ⅲのランクがありますが、取得できれば報酬単価が1〜2割程度アップすることも。
特に新規開業時は「加算の取得は後回し」となりがちですが、運営初期から“加算を取る体制”を意識して設計することが重要です。
✅ その他の加算
- 処遇改善加算・特定処遇改善加算:職員への還元が必須だが、取得必須。
- 夜間・早朝・深夜加算:時間帯により基本報酬が25%〜50%増。
- 重度障害者等包括支援(重訪):重度利用者を包括的に支援する報酬体系。
加算は複雑ですが、組み合わせ次第で基本報酬の1.5倍近くになることもあります。
3.紹介ルートの確保|継続利用につながる関係づくり
訪問系サービスは、利用者数が一定規模に達しなければ利益が出にくく、“いかに利用者を安定的に確保できるか”が運営の分かれ道になります。
✅ 地域の相談支援専門員との連携
- 支援会議・モニタリングで接点を持つ
- 丁寧な記録・報告で信頼を積む
- 対応力・柔軟さを強みにする(例:「夜間も対応可能」など)
✅ 医療機関・学校との連携
- 病院のソーシャルワーカー
- 特別支援学校の進路指導担当
- 発達外来や療育センターの相談窓口
地域に根ざした人間関係が「口コミ」となり、“頼られる事業所”として指名が入るようになります。
4.人材の安定確保|「辞めない職場づくり」が利益を生む
訪問系サービスは人材集約型のビジネスです。スタッフの出入りが激しいと、教育コストやサービスの質低下に直結します。
✅ 処遇改善だけが答えではない
- 交通費の精算を迅速に
- 連絡体制をスムーズに(LINEや専用アプリの活用)
- 感謝が伝わるフィードバック文化
実際に、給与水準は他事業所と同程度でも、「話を聞いてくれる」「困ったときにフォローしてくれる」などの理由で長く勤めてくれる事例は少なくありません。
5.複数サービスの展開で売上の底上げ
訪問系サービスを複数組み合わせることで、1人の利用者に対する提供サービス量を増やし、売上を高めることが可能です。
例:同一利用者に対して
- 居宅介護(家事援助)
- 重度訪問介護(見守り含む長時間支援)
- 移動支援(余暇活動の外出)
特に長時間利用や重度支援が必要な方を対象とすることで、1件あたりの単価が高くなり、効率的に利益を出せる構造ができます。
6.ICTと業務効率化で「見えないコスト」を減らす
多くの事業所で見落とされがちなのが、管理業務にかかる「見えない人件費」です。
✅ 記録や請求業務のシステム化
- 障がい福祉専用の業務ソフトを活用
- 複写式の紙記録からの脱却
- タイムカード、勤務表、記録の一元管理
1人の管理者が「事務に追われて現場を見られない」という状況は、事業の健全性を損ないます。少人数体制こそ、効率化が必須です。
まとめ:「制度内でどう勝ち抜くか」が問われる
訪問系の障がい福祉サービスは、報酬単価が決まっている分、自由な価格設定はできません。しかしその分、「制度を正しく理解し、活用し、運営を工夫すれば利益を出せる構造」でもあります。
これからの時代、「現場の熱意」だけでなく、「経営の視点」が求められています。効率的な経営を行い収益のあがる事業を目指しましょう。