訪問系サービス

「訪問介護」と「居宅介護」は何が違う?──障がい福祉サービス事業者様が知っておきたい制度の線引き

本日は、事業者様からもよくいただく質問の一つ、「居宅介護や重度訪問介護などは“障がい福祉サービス”なのに、なぜ“訪問介護”は“介護保険サービス”なのか?」について、制度的な背景を踏まえて解説していきたいと思います。

制度の違いを正しく理解しておくことは、サービス提供時の適正な運用だけでなく、将来の事業戦略を考えるうえでも重要です。

 

同じような内容なのに、なぜ別制度?

まず初めに、シンプルに言えば、

  • 「訪問介護」は介護保険制度に基づくサービスであり、
  • 「居宅介護」「行動援護」「同行援護」「重度訪問介護」などは、障害者総合支援法に基づく障がい福祉サービス

となります。

どちらも自宅に訪問して、身体介護や生活援助を行うという点では共通しているのですが、制度の目的・対象者・支援の考え方が違うため、あえて分けて運用されています。

制度の成り立ちの違い

サービス 根拠法 制度名 対象 主な目的
訪問介護 介護保険法 介護保険サービス 高齢者(原則65歳以上) 高齢による要介護状態の改善・維持
居宅介護・行動援護など 障害者総合支援法 障がい福祉サービス 障がいのある人(主に18〜64歳) 障がいの特性に応じた生活支援

このように、訪問介護は「高齢による介護」のための制度であり、**障がい福祉サービスは「障がい特性に応じた生活支援」**を前提として設計されています。

同じ「訪問支援」でも、制度の目的が異なるため、それぞれの法制度の中で名称やサービスが分かれているのです。

 

障がい福祉における訪問系サービスの種類

障がい福祉サービスにおいて、訪問系のサービスは利用者の障がいの状態に応じて、より細かく区分されています。

以下に、主な訪問系障がい福祉サービスをまとめてみました。

居宅介護(ホームヘルプ)

身体介護や家事援助などを行う、もっとも基本的な訪問サービスです。対象は身体・知的・精神障がいのある方です。

重度訪問介護

重度の肢体不自由者や重度の知的障がい・精神障がいを伴う人に対し、長時間にわたる日常生活全般の支援を提供するサービスです。夜間を含めた支援にも対応します。

行動援護

知的障がいや精神障がいなどにより、単独で外出することに不安や危険がある方に対し、行動中の援護や危険回避の支援を行うサービスです。

同行援護

視覚障がいのある方が外出する際に、単なる付き添いだけでなく、必要な情報提供(例:音声での説明)も含めて支援する専門的なサービスです。

このように、障がい福祉制度における訪問サービスは、利用者の「障がい特性」や「生活の困難さ」に応じて、きめ細かく設計されているのが特徴です。

 

「訪問介護」はなぜ障がい福祉サービスに含まれないのか?

この点については制度的な設計思想に起因します。

  • 訪問介護は、「高齢者の介護予防・重度化防止」を目的とした介護保険制度の中で定義されており、
  • 障がい福祉サービスは、「障がいのある方が地域で自立した生活を送ること」を目的としており、支援の形や配慮が異なります。

そのため、「訪問介護」は障がい福祉サービスではなく、あくまで高齢者介護サービスの一種とされています。

■ 65歳になるとどうなる?「介護保険優先」のルール

障がいのある方が65歳を迎えると、原則として介護保険が優先適用されます。つまり、障がい福祉サービス(居宅介護など)は原則として使えなくなり、介護保険の訪問介護に移行することになります。

これは、「高齢者に対する支援は介護保険で行う」という制度上の方針によるものです。

ただし、「障がい者支援施設に入所している」「65歳前から障がい福祉サービスを継続して利用していた」などの一定の条件を満たす場合には、引き続き障がい福祉サービスを利用できる場合もあります(これを「例外的継続」と呼びます)。

この移行タイミングにおけるサービス内容や費用負担の変化について、事業者としても利用者本人や家族に適切な説明が求められる場面です。

 

事業者様が留意すべきポイント

訪問介護と障がい福祉サービスの区分を正しく理解しておくことは、以下のような場面で重要になります。

  • 指定申請時(どの制度で申請するか)
  • 契約書・重要事項説明書の作成(法的根拠が異なる)
  • 実地指導や監査対応(制度ごとに基準が違う)
  • 利用者の65歳到達時の支援の切替え

障がい福祉に特化した事業者様であっても、高齢障がい者のケースや相談支援の中で、介護保険との接点が出てくることは少なくありません。だからこそ、「なぜこれは介護保険?なぜこれは障がい福祉?」という制度の根拠を押さえておくことが重要です。

まとめ:名称に惑わされず、制度の目的を理解する

「訪問介護」という言葉だけを見ると、居宅介護や重度訪問介護と混同しがちですが、そこには明確な制度の違いがあります。

  • 訪問介護は介護保険制度
  • 居宅介護などは障害者総合支援法

制度の背景、対象、目的が異なるからこそ、名称や運用も分けられているのです。

今後も制度の線引きや更新は続いていきます。引き続き、制度の根拠に基づいた丁寧な事業運営を一緒に進めていければ幸いです。

 

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